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2019/06/21 up

「地球に住む私たちってすごい存在なんだ!」と伝えたい 星空解説員・永田美絵さん

text by 関紋加

撮影=小野奈那子

みなさんは、どんなときに夜空を見上げますか? 仕事の帰り道や自然豊かな旅先で、もしくは、珍しい天体ニュースで日本中が盛り上がる日くらい……なんて人もいるかもしれません。でもきっと誰もが、夜空を眺めて癒やされ、感動した経験があるのではないでしょうか。

実は、日本は300あまりの施設がある世界有数のプラネタリウム大国! 近年では、家族連れ向けの施設というイメージを覆すように、大人が楽しめる番組も充実しているそう。

「コスモプラネタリウム渋谷」でチーフ解説員を務める永田美絵さんは、同館での解説のほか、人気NHKラジオ番組『子ども科学電話相談』への出演や、東京新聞の『星の物語』連載執筆など、さまざまな方法で天体や宇宙の魅力を伝えています。

永田さんの仕事の原動力は、一体どこから来るのでしょうか。お話を伺いました。

月食、木星、土星……学生時代に見た、忘れられない宇宙の美しさ

――小さいころから宇宙や星に興味があったのですか?

空を見上げることが大好きでした! 夜空だけではなく、雲や夕焼けもよく眺めていましたよ。高台にある団地の最上階に住んでいたので、一番星を見つけては、だんだんと藍色に染まりゆく夜空や星たちを観察していました。

近所にあった「川崎市青少年科学館(現・かわさき宙と緑の科学館)」には、父によく連れて行ってもらったことを覚えています。

――もしかして、天体や宇宙好きはお父さま譲り……?

いえ、父は遺跡好きです(笑)。親が子どもに「学校楽しい?」「勉強どう?」と聞くようなシーンでも、ひたすら遺跡の話をするような人で、家には百科事典をはじめとする本がたくさんありました。

私が20歳になったとき、一緒にインドネシアのボロブドゥール遺跡に行ったのは、良い思い出です。対象は違うけれど、古くからあるものに惹かれるところは、影響を受けたかもしれません。

――天体や宇宙にまつわることで、印象に残っている思い出はありますか?

小学生のときに、望遠鏡を使って、初めて月食を見たんです。望遠鏡のファインダーを固定していると、月がどんどんズレてしまうんですね。それを目の当たりにして「地球って本当に自転しているんだ」と実感した瞬間は、とても感動しましたね。

NASAが打ち上げた探査機「ボイジャー号」が木星や土星の様子を撮影して、それをテレビで見たのは中学生のころでした。あのとき見た土星の美しさは忘れられません。

その後発売された写真集では、シリーズ全4冊を買うと、ポスターがもらえる特典があって、それがどうしても欲しくて(笑)。でも、当時のお小遣いだと、とてもじゃないけど買えません。なので、土星の写真集を1冊購入して、ずっと眺めていました。

大学1年からプラネタリウムでアルバイトをスタート!

――いつから解説員を目指したのでしょうか?

子どものころから「いつか天文関係の仕事に就きたい」と思っていて、その流れで解説員の存在を知りました。思ったことはすぐに口に出す性格で、クラスメイトにも先生にも夢を語っていましたね。

高校の校長先生が「うちの生徒が解説員になりたいそうなんだが、話を聞かせてもらえないか」とプラネタリウムに電話してくれたこともありました。

▲オフィスには星座のグラスやブランケットがありました

――たしかに、解説員にはどうしたらなれるのか想像がつきません。

そうですよね。当時は、今ほどたくさんのプラネタリウムもなく、しかも解説員の多くは男性でした。私も何から始めればいいのかわからず問い合わせると、「とにかく理科系の大学を出て、それから各プラネタリウムに問い合わせてください」と言われました。

今はいろいろな経験を経て解説員になる方も多いですが、当時は理科系の大学卒業というのが、ひとつの必須条件だったんだと思います。

なので、東京理科大学の理学部・物理学科に進学して、天文部に所属しました。で、本当にラッキーだったのですが、天文部の先輩が、東京都町田市にあったプラネタリウム「東急まちだスターホール(※2008年に閉館)」に勤めていて、「誰かアルバイトしませんか?」と探しにきたんです。

私は大学でも「プラネタリウムで働きたい」と話していたので、先輩の耳に入ったことをきっかけに、雇っていただけることになって。大学1年生から、プラネタリウム人生がスタートしました。

――アルバイトではどんなことをしたんですか?

対面のチケット販売、誘導、接客などはもちろん、星空解説もしました。

――いきなりすごいですね!

ありがたいですよね。自分でシナリオを書いて、覚えて、スライドをめくる機械の操作もして、星を指しながら、45分間生解説するんです。真っ暗だからカンペも使えないし、最初はミスもいっぱいしちゃってました(笑)。電話ボックスで、通話中のフリをしながら練習したのが懐かしいです。

すべての番組を自作していて、1カ月ごとに内容も変えていたので、大学の4年間ですごくいい経験をさせてもらいました。しかも、卒業のタイミングで、渋谷にあった「五島プラネタリウム(※2001年に閉館)」に欠員が出たと知り応募したところ、採用が決まったんです。

――そんなタイミングに恵まれるなんて、もう解説員になるべくしてなった運命ですね。

本当にありがたいですよね。やっぱりやりたいことや夢は、口に出してどんどん言っちゃったほうがいいんです! そうすれば、いろんな人があんなこと言ってたな、こういうの好きそうだなって、いつの間にかつながるから。

宇宙は誕生から138億年も経っているんですよ。その中で人間が生きているのって本当に一瞬じゃないですか。そう考えると、小さな私が何を言おうが、恥ずかしいも何もないというか。100年後には誰も覚えてないって考えたら、何でも言えちゃいませんか?(笑)

プラネタリウムは「小さな幸せを持って帰ってもらう場所」

▲現在の永田さんの勤務先「コスモプラネタリウム渋谷」のホール

――出産を機に五島プラネタリウムを退職後、フリーランスの期間が10年ほどあったそうですね。

はい。時間的にそれまでの働き方が難しくなったとき、フリーの解説員になったものの、先が見えなくなって不安いっぱいでした。でも、だからこそ改めて、そもそもなんでこの仕事をしているんだろう? どうして星が好きなのか? を深く考えるきっかけになって。

――答えは出たのでしょうか?

私がこの仕事がしたいと思ったのは「宇宙を知ることで、地球がすごい星だと知り、さらに、そこに生きている私たちも素晴らしい存在なんだ」と感動したからだと再確認できました。この感動を伝えることが、私のミッションだと気づいたら、なんだかすごく気が楽になっていろんなことにチャレンジしたくなりました。どの仕事も、この想いが原点にあります。

――そこからは、新聞連載や書籍執筆、ラジオ解説など、さまざまな方法で天文や宇宙の魅力を伝えていらっしゃいますよね。

そうですね。でも、それこそ書籍だって何のつながりもなかったころから「本を出したい!」って言葉にしてましたよ。おっちょこちょいな性格で失敗も多いけど、「やがてネタになるから、本に書くから!」を口癖にしちゃってね。そうしたら、いろんなつながりで、ちゃんと実現しました。

今の時代って、好きなことを見つけるのが難しいかもしれません。でも、それって多分「こんなこと言うのは恥ずかしい」「やりたくてもできるわけない」って自分自身が可能性を否定してしまうからじゃないかなって。私は、好きな気持ちを否定せずにいれば、必ずどこかの道につながるって信じています。

――まさに『NHK子ども科学電話相談』の先生たちのような……。

そうなんです! 先生方はみなさん自分の分野が大好きなんですよ。私も参加させていただいて、なんて幸せな現場なんだろうって。いつも楽しくてしょうがないですね。

子どもたちって、大人の考えが及ばないような質問をくれるし、どうやってわかりやすく伝えるか、必死になります。やりとりの中で気付かされることもあるし、私も星が大好きだと気持ちを再認識できるんです。

以前、「大好きなからあげの星座を作りたい」という女の子がいたのですが、そのラジオを聞いた別の子が、プラネタリウムにからあげ座を絵に描いて持ってきてくれたんですよ。

――その放送、私も聞いていました。とてもうれしいエピソードですね。

アルバイト時代の上司に言われた、「プラネタリウムは、小さな幸せや感動を持って帰ってもらう場所。日々一日ごとの投影を大切にしなさい」という言葉をいつも胸にこの仕事をしていますが、私のほうがずっとお客さまから幸せをもらっているように思います。

プラネタリウムには、楽しくてうれしい人も、落ち込んで悲しい人も、いろいろな人がいらっしゃると思うんです。私は、どんな方にも笑顔になっていだけるように星を語りたいです。

星空解説は天文の知識だけじゃ、つまらない

――コスモプラネタリウム渋谷では、常時6種類ほどの番組を上映しているんですよね?

はい。同館はすべての番組制作をスタッフが行うので、解説員が番組の原案を考えて、仮台本を作り、絵コンテを描いて、そこから映像や音楽などの各専門家の方々と相談していきます。

観客参加型だったり、音楽や朗読とコラボレーションしたり、幅広い世代の人たちに楽しんでもらえる番組を、3カ月〜場合によっては数年単位で制作します。近年は、最新のデジタル機能との融合で、より迫力のある番組が楽しめるようになってきました。

――同館はそれぞれの解説員の方も、個性豊かですよね。

解説員には「40分間、星の話をしてください」としかオーダーしていないんですね。だから、同じ番組でもそれぞれ違う解説だし、視点もまとめ方もいろいろです。新しい天文ニュースが飛び込んでくることがあれば、柔軟に対応できるのも生解説だからこそ。お客さまには、一期一会の解説を楽しんでもらいたいですね。

あと、当館のスタッフミーティングは、報告会じゃなくて「夢を語る会」と呼びます。一緒にごはんを食べながら、それぞれが今やりたいことを話して、それを実現するために周りはどうサポートしようかっていう流れになるんです。

逆をいえば、やりたくないことはやらない! ってことなんですけど、何よりもお客さまに楽しんでもらうためには、私たち自身が楽しくて幸せでないとなぁって。

――永田さん自身は、どんなことを心がけて仕事をしていますか?

科学を優しく、わかりやすく、お客さまに伝えることです。私たちは科学者ではないので、天文の知識は必要だけど、知識量で張り合う必要はない。それよりも、今見えているこの星がどれだけ美しい存在なのかを、しっかり伝えたいんです。

感動力を持つ人は、きっとステキな解説員になれる

――これからチャレンジしたいことはありますか?

かつての私もそうだったように「解説員になりたいけど、どうしたらいいかわからない」という人がまだ多いので、そういった人たちがノウハウを知ることができる学校や養成コースなどを作りたいです。

いろいろな運営事情もありますが、良い運営をより長期間できるように、解説員もスキルアップして、育っていく、増えていくのが一番だと思います。

――では最後に、永田さんにとって良い解説員とは?

もうね、これは決まってます。絶対に「感動力が高い人」です! 

たまに新人研修を担当するのですが、「自分が好きなもの、映画でも本でもなんでもいいから、楽しさや美しさを感じるものにいっぱい触れて過ごしてください。その経験は絶対にこの仕事にも生きてくるので」と必ずお話ししていますね。

同館は見晴らしが良くて、月も星空もよく見えます。キレイな景色に気づくと、スタッフで集まって、みんなで一緒に空を眺めるんです。「わぁ〜きれい〜!」と声をあげて感動しているスタッフたちを見ていると、さすがだなぁって私もうれしくなります。そんな感動力の高い解説員がもっともっと増えてくれれば良いですね。

(取材・文:関紋加/ノオト 編集:ノオト)

取材協力

永田美絵さん

幼い頃より星が大好きで、大学卒業後、天文博物館五島プラネタリウム、東急まちだスターホール、五島光学研究所などを経て、現在は東急コミュニティーコスモプラネタリウム渋谷のチーフ解説員。NHK第一ラジオ『子ども科学電話相談』の天文・宇宙関連を担当。東京新聞連載『星の物語』を執筆するほか、著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(筑摩書房)など。

コスモプラネタリウム渋谷:https://www.shibu-cul.jp/planetarium

この記事の筆者

関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は料理、美容、健康、ライフスタイルなど、毎日の暮らしにまつわるなにげないこと。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。趣味は、食べ歩きとミュージアム巡り。

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