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2019/05/31 up

「行動力と気遣いでゼロから信頼を築く」インテリアコーディネーター・荒井詩万さん

text by 末吉陽子

撮影=小野奈那子

プランニングから床、壁、天井材選び、家具、照明、カーテン、ときにはアートまで室内装飾をトータルプロデュースするインテリアコーディネーター。依頼主の要望を汲み取り、快適な空間を創り上げるプロフェッショナルです。資格取得後は、会社員として住宅やインテリア関連商品のメーカー、工務店といった企業に勤めるケースもあれば、独立して活躍する人もいます。

今回、お話を伺う荒井詩万さんは、フリーランスのインテリアコーディネーターとして、戸建住宅や新築マンションのコーディネート、リフォームのプランニングから施工まではもちろんのこと、メディア出演や雑誌の監修、本出版、さらに大学講師まで精力的に活動されています。コネも経験もない駆け出し時代から、現在の成功を手に入れるまでにはどのような努力があったのでしょうか。詳しく教えてもらいました。

キャリアビジョンが描けなかった25歳。インテリアを学ぶため専門学校に通うことを決意

――荒井さんは新卒で秘書としてキャリアをスタートされ、未経験からフリーランスのインテリアコーディネーターに転身されたそうですね。

はい。日本女子大学では家政学部に所属しており、卒業後は設計事務所に就職。秘書として働いていました。でも、25歳の頃に「この仕事をずっと続けていけるのかな」と将来に漠然とした不安を抱くように。当時、事務職の女性は結婚や出産などのライフイベントで仕事を辞めるケースがほとんどだったんです。なので、年齢を重ねても続けられる仕事がないか探すようになりました。ちょうど職場が設計事務所だったので、インテリア関連の仕事ってすごく面白そうだなと。調べてみるとインテリアコーディネーターという職種があることを知り、興味を持ちました。

――興味を持ったところから、どのように勉強されたのでしょうか?

勤務先の近くに「町田ひろ子インテリアアカデミー」という専門学校があったので、まずは体験レッスンを受けました。授業ではインテリアの知識を身につけるところから、お客さまにプレゼンテーションするまでの実践的な内容が中心でした。それがすごく面白くて入学を決意。夜間コースで週2回、2年間通いました。課題も多かったですが、インテリアコーディネーターの仕事がどんなものか深く理解できました。

――働きながら学校に通うのは、大変ではなかったですか?

学校が近かったので時間的にはすごく助かりました。あと「仕事が終わった後、学校に行きます」と勤務先にも伝えて、定時に帰れるように協力をお願いしました。それまで、仕事の後に友だちと食事に行ったり、デートしたりしていたのですが、生活が一変。入学してからは仕事後に課題に取り組んだり、休日も一日中資料を作ったり。学生時代は勉強嫌いだったはずなのですが、自分できちんと計画して、時間を有効に使って何かを成し遂げる日々は充実していましたね。

――ちなみに、学費はどれくらい掛かりましたか?

100万円ぐらいだったと思います。一緒に入学したクラスメイトはしっかり貯金もしていて、一括で払っていましたが、当時私は貯金ゼロ(笑)。ローンを組んで月々+ボーナスで返済しながら学費を払っていきました。

――卒業されてからは、すぐインテリアコーディネーターに?

すぐに転職したいと思っていましたが、責任ある立場になっていたこともあって慰留されてしまい……。悩んだ末、まずは焦らずに勤めながらできることをやろうと考え直しました。そこで、友人や知人200人くらいに、ポストカードで「インテリアの勉強をしましたので、ぜひ何でもお手伝いさせてください」と案内を送りました。ちょうど周囲で結婚をする人が何人かいまして、「マンションを買おうと思っているけど、この間取りで大丈夫か見てほしい」「イメージするカーテンをどこで買えばいいかわからない」などの声が掛かるように。それで報酬をいただくというよりは、ランチをごちそうになる代わりに相談に乗るところからスタートしました。

年収はスタート時から20倍くらいに! 丁寧な仕事が実を結んだ

――最初は、アマチュアから活動を始められたのですね。

そうですね。ただ、「このままだとダメだな」と意識が変わったタイミングがありました。親友からマンションのインテリアをトータルでコーディネートしてほしいと依頼されたときのこと。家具やカーテンなどはもちろん、オーダー家具デザインなど、かなりボリュームがありました。それまで通り「報酬はいらないからランチをごちそうしてね」と伝えたら、「それはプロじゃないよ。きちんと請求して」と言われたんです。それがきっかけでプロとして働くという意識が生まれましたね。

――独立を決意されたのは、専門学校の卒業からどれくらい経ってのことでしょうか?

2年ほどですね。結婚を機に退職して、フリーランスデビューしました。

――企業に勤めて経験を積もうとは考えられなかったのでしょうか?

通常、3年間ぐらい会社で経験を積んでから独立する方が多いようですが、私はいきなりフリーになりました。ただ、正直なところ、結婚で生活費の心配がいらなかったことも大きいです。独身だとちょっと厳しいかもしれないですね。でも、いずれは「荒井詩万」という名前で仕事を頂けるようになりたかったので、遅かれ早かれ独立したと思います。自宅を事務所にすることにしたので、開業資金もパソコンとプリンター代くらいで済みました。

――とはいえ、ゼロから仕事を広げていくのは大変だったのでは?

当初のご依頼は完全に口コミでした。一つひとつのコーディネート物件を丁寧に取組み、お客さまにご満足いただけるよう気を配りました。そうすると、お客さまがお友だちや親族をご紹介くださるように。また、必ず竣工写真を撮影させていただきHPやブログにアップすることで、それを見て、少しずつ初めてのお客さまからお声掛けいただけるようになりました。その他、インテリア関連の新作発表会やショールーム・ショップになるべく足を運んで、最新情報を常にインプットするようにしていました。

――丁寧な仕事が実を結んだのですね。現在は、どのような仕事をされていますか?

具体的には三本柱で活動しています。一つ目が一般のお客さま宅のインテリアコーディネート業務。新築戸建住宅や新築マンション、リフォームのトータルコーディネートなどですね。二つ目は、講師。町田ひろこインテリアアカデミー講師や大妻女子大学非常勤講師、他にも同業者やエンドユーザー向けのセミナー講師を全国でしています。三つ目がメディア関連の仕事。インテリアに関するテレビや雑誌、ラジオなどに出演をさせていただいています。また、最近は企業からのご依頼が増え、商品開発に携わったりメディア向けトレンド発信をしたりと仕事の幅が広がっています。

――幅広いお仕事内容だと思いますが、報酬の基準は決められていますか?

インテリアコーディネートのフィーは、トータル費用の10%を目安にいただくようにしています。ただし、ボリュームや稼働日数によっても違うので、ホームページには要相談と記載しています。

――キャリアを重ねるにつれ、収入はどれくらい増えましたか?

フリーになった当初は1年に2、3物件、年収は数十万ほどでしたが、今は約20倍になりました。その分、もちろん仕事量も多いです。打ち合わせやイベント、メディア出演、セミナーなどスケジュールは埋まっていて忙しい毎日です。ただ、報酬は大事な基準ではありますが、「この人と一緒に仕事をしてみたいな」「この案件おもしろそう」など、自分がワクワクして楽しく仕事ができるかどうかも大切だなと思います。

依頼が絶えない秘訣は“気遣い”。自分を知ってもらうための努力は惜しまない

――荒井さんならではの”仕事のこだわり”はありますか?

お客さまの生活スタイルや好み、要望などをカウンセリングするように丁寧にお伺いしていきます。もちろんインテリアセンス、トレンドの知識は当たり前ですが、私の仕事のスタンスとしてはお客さまにどれだけ寄り添えるかが大事だと思っています。「休日はどういう風に過ごしてらっしゃいますか」「何をしている時に一番幸せを感じますか」など、インテリアには関係ないような質問をしながら、潜在的なニーズも汲み取るようにしています。

ナチュラルな感じとか、エレガントな雰囲気っていうのはあくまでインテリアのイメージであって、お客さまにヒアリングして、実際にどう過ごしたいのかを考えてコンセプトを立て、提案します。そのためには聞き上手になることです。お客さまが場所やモノで「これが好きです」と言ったときに、自分が知らないとまったく話が広がらないので、色々なものに、常にアンテナを張っています。

――どのようなことにアンテナを張ったり、自己投資されたりしていますか?

美術館や話題のレストランには、意識的に足を運ぶようにしています。インテリアは空間のデザインなので、実際に空間を体感しないと本当のよさはわかりません。また、海外旅行は毎年行っていまして、昨年は北欧3カ国へ。近年は北欧インテリアが人気で、私もお客さまによく勧めていたのですが、まだ行ったことがなかったんです。北欧といっても国によって、文化も、雰囲気も全然違うし、もちろんインテリアも違います。現地に行ったことでお客さまに北欧インテリアについて、より的確にお話しできるようになりました。

――フリーランスで活動されているインテリアコーディネーターの方は少なくないと思いますが、依頼が絶えない秘訣はどんなところにあると思われますか?

お客さまや、一緒に仕事をする業者さん・メーカーさんなどへのクイックレスポンスと意図を的確に伝えることを心がけています。信頼していただくこと、でしょうか。また、自分が動かないと、待っていても誰からも仕事が来ないので、自分から発信してブランディングをします。HP、ブログ、Instagram、Facebookなどせっかくツールが充実しているので、上手に活用して仕事につなげる工夫も必要です。あとは、20年間欠かさず残暑見舞いカードを送っています。お客さま、お世話になっている業者さんやメーカーさん、一緒に仕事をした方たちに、必ず手書きでお名前と一言を添えて。昨年は200枚以上になりほんとに大変でしたが(笑)、日頃の感謝を伝えたいので続けています。

――キャリアを重ねてどれだけ実績が増えたとしても、基本をおろそかにしてはいけないということですよね。とても勉強になります。では最後に、フリーランスを目指している方へメッセージをお願いします。

働き方も変わってきていますから、フリーランスにはチャンスに溢れている時代だと思います。ただ、会社員と違って誰も守ってくれません。すべて自分で責任を取る覚悟を持って仕事をすることが求められます。でも、そこから始まる世界は、自分の可能性を広げてくれるので、興味を持っている方はチャレンジしてほしいですね。

(取材・文:末吉陽子 編集:ノオト)

取材協力

荒井詩万さん

インテリアコーディネーター。個人邸のコーディネート、リフォームなど150件以上を手がける。インテリアスクール講師や大妻女子短期大学非常勤講師。TVやラジオ出演・雑誌の企画監修などメディア出演も多数。現在、『今あるもので「あか抜けた」部屋になる。』(サンクチュアリ出版)が好評発売中。

HP:http://chic-interior.net/

Blog:http://chic-interior.net/blog

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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