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2019/05/24 up

「個性のない声でも努力で仕事を手繰り寄せる」フリーランス声優・幸田夢波さん

text by 末吉陽子

撮影=小野奈那子

アニメのキャラクターや映画の吹き替えなど、声で演じる「声優」という仕事。子どもたちに人気の職業であり、競争が激しい職種の一つです。プロの声優として活動するには、俳優やタレントと同じように事務所に所属することが一般的ですが、なかには個人で仕事を受注している人もいます。

幸田夢波(こうだ・ゆめは)さんも、フリーランス声優のひとり。高校生で声優デビューを果たし、アニメや吹き替え、ラジオなど幅広い仕事でキャリアを積んできました。そんな幸田さんに、独立後の仕事内容や収入について気になる話をたっぷり聞きました。

歌手志望から声優の世界へ。「邪魔にならない声」で勝負する


――まず、声優を志したきっかけを教えてください。

私もともとは歌手志望だったんです。カラオケが趣味の母の影響もあり、子どもの頃から歌うことが好きで、小学生からオーディションを受けてきました。

転機は中学生のとき。女子校だったのですが、周囲の子たちはみんなアイドルかアニメに夢中でした。それで、コミュニティで生き残るためっていったらちょっと大げさかもしれないけれど、自然とアニメを見始めたんです(笑)。そしたら、いつしか毎日見るほどハマってしまい、「アニソン歌手になりたい!」という気持ちが芽生えました。それから、アニソン関連のオーディションも受けるようになったところ、声優事務所とご縁があり、高校在学中の17歳で声優デビューしました。

――学業と両立しながら声優活動されていたのですね。社会人になってからは声優1本で食べていこうと?

それがなかなか難しくて。学生時代から声優の仕事をしながらコールセンターやカフェ、塾講師、巫女、単発の派遣などアルバイトを掛け持ちしていましたが、社会人になってから続けていたアルバイトもあります。でも、どの経験も無駄ではなかったです。とりわけコールセンターは声の仕事なので練習になりますし、楽しく働いていました。

――幸田さんは声優として、自分の声のどのようなところをアピールしていますか?

「邪魔にならない声」ということですね。例えば、声優と聞くとアニメ声をイメージされる方が多いですが、そうではないキャラクターもたくさんいます。ナレーションだと内容の妨げにならないような、邪魔にならない声も必要です。日常に馴染む声がほしいときにご依頼いただくことが多いですね。

――確かに、キャラ立ちしていないことが特性になることもありますよね。所属から8年目、24歳で事務所から独立されたそうですが、そのきっかけは?

大学で映像制作を専攻していたこともあり、演じるだけではなくもっと制作に携わりたいなと思うようになりました。事務所に所属していると活動に制限もあったので、「思いついたときに新しい仕事を始めてみる」という環境にしたかったというのが大きいです。もうひとつは、海外に行きたい気持ちが強かったからです。

――独立に不安はなかったですか?

ありましたね。でも、声優だけで稼ぐ必要はないと考えるようになって、不安はなくなりました。声優の仕事だけに注力していたときは、ミスしたらもう呼んでもらえないかもしれない、そしたら仕事がゼロになってしまう、という焦りもあり精神的につらかったですが、いまはそのプレッシャーがないからこそ声優の仕事が思いきりできます。もちろん緊張感を持って声優の仕事に取り組むことは大切です。声優業以外の収入がある現在も、次の仕事に繋がるようにと思いながら取り組ませていただいています。

「声」から広がる多様な仕事で月収20万円を稼ぐ

――ちなみに、いまはどのような仕事をされているのでしょうか?

メインは「声優」と「ブロガー」です。声優は月ごとに収入が変動するので、どちらかというと収入の柱は、声優の仕事にまつわることを書いているブログですね。声優はオーディションが基本なので、受かって仕事をいただければギャラがいただけます。あとは、炊飯器の「炊きあがりました」なんていうシステムの音声や、コンビニやドラッグストアの店内放送なども声優の仕事なんですよ。

――本当に幅広いですね!

声を使った仕事ってアニメや吹き替え以外にも、割とたくさんあるんですよね。あと、最近はコンサルティングの仕事依頼もあって、声優業関連のコンテンツを制作している企業にアドバイスを求められることも。個人の方から声優関連コンテンツの監修をご依頼いただくこともあります。あとは、オンラインサロンやスマホケースのデザイン、ボイトレ講師などですね。

――本当にマルチな活躍ぶりですね。ちなみに、月収はいかほど?

月20万円くらいですね。声優だけでその金額を稼ぐのは大変ですが、5万円稼げる仕事を4つ持つ、というイメージならそこまで難しくないと思います。

――ちなみに、声優のギャラ相場はどれくらいでしょうか?

案件によってまちまちですが、協同組合「日本俳優連合」に加入すると3年まではジュニア料金が適用されます。その場合、アニメや吹き替えであれば1作品あたり1万5,000円と相場が決まっています。セリフ量は関係なく、主役でも脇役でもギャラは変わりませんが、3年を超えるとギャラが変動します。

個人的には日本俳優連合の相場がそのまま声優業界全体の目安なのかなという印象です。

――新規の契約は、どのように結ぶのでしょうか?

初めての取引先や個人の方は、契約に手間取ってしまうので、私は無形商品も販売することができる「BASE(ベイス)」でオンライン決済しています。例えば、1時間5,000円で、コンサルティングのチケットを売るようにしていて、問い合わせが来たら購入してもらって日付を決めるような流れで、とても便利ですよ。

独立が向いているかは性格次第。悩んでいるならお金を貯めてからでも

――フリーランスは仕事を自由に選べる一方で、案件を無下に断りにくいものですよね。仕事の取捨選択にまつわる、幸田さんなりの基準はありますか?

一番は、ギャラです。ただ、自分にとってプラスの実績になる仕事であれば、安くてもいいと思っています。例えば、アニメ作品やサービスなどの知名度ですね。逆に、フリーだから安く使えると思われているな……と感じる仕事は、自分にとってメリットがあまりなく、良い仕事もできないと思うのでお断りしています。

――その見極めは難しそうですね。とはいえ、声優はやはり依頼される仕事。選ばれるために努力していることはありますか?

基礎練習はいつも注力しています。さっきお話したように、あまり特徴がない声質で悩んだ時期もありましたが、「自分だからこそできる役があるはず」と切り替えました。役をいただいたときにいい演技をすること、自分の声の長所を引き出すことが何より大事だと思うので、発声・筋トレ・滑舌、あと体力をつけるためにウォーキングは毎日頑張っています。電車でどこかに出かけるときは、ペタンコ靴を持って3駅くらい手前から降りて歩くようにしています。

――日々努力されているんですね。

いやいや、長く活躍されているトップランナーの声優の方々でさえ、並々ならぬ努力をされているので、私が手を抜くわけにはいかないです。

――どんなところに仕事のやりがいを感じますか?

ひとつの作品をみんなで創り上げるところです。出来上がった瞬間よりも、制作のプロセスにやりがいがありますね。さらに、それを受け取ってくださる方に「よかったよ」とおっしゃっていただけるとやりがいを感じます。新しいことにチャレンジすることが好きなので飽きないですね。でも、歌への想いは変わらないので、いまは新しい活動を始めるために種まきをしている段階です。

――幸田さんのように、声優以外にもそのときどきで好きなことを追求したい人には、フリーランスという働き方がベストかもしれませんね。

独立の良し悪しは人によるとは思いますが、結局は自分の性格に合っているかどうかかなと思います。私は、朝の満員電車もデスクワークも向きませんでした。フリーランスが珍しくない、いまの時代で働けて本当に良かったと思います(笑)。

――では、フリーランスに興味を持たれている方にメッセージをお願いします。

いま置かれている状況に耐えられなくて、フリーランスになりたいのなら早めの独立をおすすめします。もう少し耐えられるのであれば、貯金をしてからがいいと思います。私もフリーランスになると同時にブログをはじめましたけど、ブログでお金を稼げるようになるまで時間が掛かり、最初の半年くらいは50万円の貯金を切り崩して生活していました。でも、その貯金があったからバイトせずにブログを書く時間を確保できました。

――先立つものはお金……ですね。でも、臆せずに好きなことを追及されている幸田さんの姿に励まされる人も多いと思います。最後に、幸田さんご自身の今後の展望を教えてください!

アニメでも活躍できたら嬉しいですね。あと、メディアでは声優のアイドル的な側面が取り上げられやすいので、アニメ声優を目標にする人が多いですが、それ以外にも多種多様な仕事があることを知ってもらいたいです。そのためにも、引き続きブログの執筆を頑張ります。音楽ももちろんやり続けたいです。それから、いまは2カ月に1回くらいのペースで海外に出掛けていますが、いずれはシンガポールやマレーシアに移住したいなと思っています。

(取材・文:末吉陽子 編集:ノオト)

取材協力

幸田夢波さん

声優ブロガー。声優業界の裏側などを実際に声優として活動している経験を活かして発信中。声優だけでなく、時間や場所にとらわれない新しい働き方ができないか、もっと楽しいエンターテイメントを作れないか、常に挑戦し発信し続けます。

ブログ: https://yumemon.com/
ツイッター: https://twitter.com/dreaming_wave

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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