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2019/05/08 up

「教育者の新しいあり方を示したい」 オンライン家庭教師・木村公紀さん

text by 五十嵐綾子

撮影=小野奈那子

家庭教師といえば、生徒の家を訪問して勉強を教える姿が思い浮かぶでしょう。そんな中、木村公紀さんは、現代のネット環境を生かした「オンライン家庭教師」という新しい教育スタイルに挑戦しています。

ネットを通じて国内外の生徒を指導する理由や、独立に至る経緯などについてお話を伺いました。

世界中の生徒にネット上で授業を行う「オンライン家庭教師」

――まず、「オンライン家庭教師」について教えてください。

パソコン画面上でオンライン授業を行う教育サービスです。Zoomを使用し、ミラーリングしたタブレット画面を黒板代わりにしながら、学習指導のほか、推薦入学でよく使われる自己推薦書の添削なども行います。ネットに接続できる環境があれば場所を選ばないので、国内外問わずさまざまな生徒を受け持っています。

――どんな環境にいる生徒を教えていますか?

親の赴任に同行して海外に住みながら、日本の学校への進学を考えて受験対策をする生徒が多いですね。そのほか、学校に通っていない子にも教えています。

受験対策に苦労したフィリピンの日本人学校時代

――オンラインで指導している理由は?

原点は、僕自身が海外生活を経験し、勉強で苦労したことにさかのぼります。

父の仕事の関係でフィリピンのマニラに住み、中学校3年間は日本人学校に通いました。卒業後に日本の高校に進学するため受験対策が必要でしたが、日本人学校や現地の塾の授業では難関校の受験に対応しきれず、一時帰国したときに参考書を大量に買い込んで、自分で勉強していたんです。

――それは想像しただけで大変そう……。

帰国子女入試といって、英語の重要度が高い一方、数学や国語など一部科目が易しく設定される仕組みの入試もあります。フィリピンの公用語は英語で、僕もヒアリングはできるようになりましたが、帰国子女入試レベルまで英語が上達するわけではなく一般入試を選択したので、もう必死でしたね。

学習を進めると「自分のレベルに合った、もっと難しい問題を解きたい」「志望校の過去問の詳細な解説が欲しい」と歯がゆさを感じることも多々ありました。このような経験から、場所や時間の制約を超えられるというネットの利点を活かし、教育格差に悩む遠方の生徒にも教えています。

教育への興味が明確になるも、塾の指導で生じた違和感

――教育に興味を持ったきっかけはなんですか?

実は、高校受験対策で中学3年生の夏休みと冬休みなどに一時帰国し、大手の塾にも通ったのですが、詰め込み教育だったので勉強が大嫌いになってしまって……。でも、大学進学前に1年間浪人したときに出会った予備校の恩師が学ぶ楽しさを教えてくれて、指導者としてこの喜びを分かち合いたいという思いが芽生えました。大学進学後は4年間塾講師のアルバイトをして、教育への興味がさらに増していきましたね。

――新卒で人材教育会社に入社されたのも、教育への関心からですか?

はい。塾講師のアルバイトを通して、周囲の大人が子どもに与える影響の大きさを知り、大人への指導が子どもの教育にもつながるのではと考え、社会人向けの研修を提供する会社に就職しました。

ただ、仕事を続けるうちにやはり子ども教育の関心が高いことに気付き、個別指導塾に塾長として転職することに。


――いきなり塾長なんですか?

そうなんです。社員が塾長を勤め、講師は学生アルバイトに任せる、というのが多くの個別指導塾のシステムです。塾長が基本設計した授業を、各講師が実行していきます。これは僕が塾長だった当時も今も変わりません。

ところが、個別指導塾の塾長は教育の知識よりも元気で明るいキャラクターを求められ、カリキュラムを塾長に依存してしまうと成績に差が出てしまう場合があるため、個別指導とは言うものの、結局はシステム化された教育だったのです。さらに、アルバイトの講師は全員が各生徒に合わせた1対1の教育をやりきれるわけではありませんでした。

一人ひとり生徒は異なるのに、同じ仕組みに乗せる教育では、自ら考え行動できる人間は育たないでしょう。多くの教育者が「このままでは子どもの考える力が育たない」と危機感を抱き、2020年から思考力に重点を置く新しい入試が始まり、思考力をはかる手段として記述問題の活用が謳われています。一方で、膨大な受験生の記述問題をどのように公平に採点するのかという課題もあり、難航しています。

――今は「レールに乗せる教育」から「自ら考える教育」への過渡期なのですね。

そうです。ただ、教育制度が整備されるのを待っていたら、変革期を生きる今の子どもたちが考える力を養えません。そこで僕は、子どもと1対1で向き合う授業を通して、自分で考えて未来を切り拓いていく力をどう培えば良いのか伝えたくて、2015年8月にオンライン家庭教師として独立することにしたんです。

活動初期の試行錯誤の中で実績を積み重ねる

――オンライン家庭教師というスタイルは、どれほど普及しているのですか?

実施している企業もありますが、まだまだメジャーではありません。ですが、やるからには新しいことをしたくて、挑戦を決めました。オンラインでの指導は共働き家庭が多い現代で、家族のいない時間の指導を心配する親御さんの不安を減らせるメリットも。時代に合った教育スタイルとして、やる価値があると思いましたね。

――活動初期の生徒はどう集められましたか?

それが結構苦労しまして……。ホームページを立ち上げて、SEOを意識した記事を量産して、海外向けに広告も出しましたが、生徒はすぐには集まらず……。問い合わせが来たのは開業から半年ほどたった頃です。「3カ月でどうにかして!」という緊急度の高い難しい依頼が多かったのですが、僕は難しい仕事はすごくやりがいを感じるのでどんどん引き受けて、実績を残していきました。

――木村さんの指導の魅力はなんですか?

人材教育会社で培ったヒアリング技術を駆使して、生徒にじっくり話を聞き、現状と目標のギャップを埋める、一人ひとりに合ったオーダーメイドのカリキュラムを作成できるところだと思います。各生徒に合わせた授業や宿題のほか、予習や解説用の動画を作ることも。

授業直後には、親御さんにその日の指導内容を伝える指導報告動画を作成し、授業の様子を詳細に共有することも欠かしません。

生徒には、これからを生き抜くために考える力を養ってほしい

――現在は何人ほどの生徒を教えていますか?

今は12人です。当初は3~4人の受験生を週5で教えるなど、一人にかけるウエートが高かったのですが、そうすると彼らが受験を終えたときに収入が下がってしまいますし、新規の問い合わせをいただいても多くの生徒を受け入れることができませんでした。今は多くの問い合わせに応えたく、安定した収入にもつながるため、「受験はまだだけど教わりたい」という依頼も積極的に受けて、リスクを分散させています。

――普段はどんなスケジュールですか?

午前中はアメリカ、日中は学校に通っていない子たち、夕方以降はオセアニア・アジア・ヨーロッパの子など、時差に合わせてスケジュールを調整しています。午前中と夕方~夜までが主な稼働時間で、それ以外は子どもと過ごすことが多いです。妻の実家帰省に同行し、帰省先で授業したこともありましたし、2018年は10回以上旅行に行き、ヨーロッパに3週間滞在したことも。自分の時間を大切にできるのも、オンライン家庭教師のメリットだと感じています。

――指導で心がけていることはなんですか?

あまり手取り足取り教え過ぎないようにしています。例えば、子どもが自転車の練習をするとき、後ろから大人に支えられながらも、何回か転んだりしつつ、徐々に手離れしていきますよね。これと同じで、カリキュラムに従うだけでなく、だんだんと自分で考える力をつけてもらいたい。例えば、宿題ひとつにしてもこちらが与えるだけでなく、生徒自身に今必要な課題はなんだと思う? と問いかけることもあります。最初はもちろん僕にお任せなのですが、繰り返していると自分で考えられるようになっていきます。

勉強は、知識だけを教えてもほとんど意味がありません。世の中には自分の頭で考えなければいけないことは山ほどあって、思考停止した方が楽なときもありますよね。でも、自分で考えずに常に流されるまま生きていたら、これからの時代は大変だよ、とよく伝えていますね。

――今後の目標を教えてください。

収入は会社員時代の3倍ほどになりましたが、家族との時間を減らしてまで、さらに収入を増やしたいとは思っていません。でも、問い合わせいただく機会は増えており、その期待には応えたいので、今後は自分以外の人に業務委託できるよう、法人化も考えています。ただ、教育は誰が教えるかが非常に大事なので、規模ではなく質を追求していきたいと思っています。求めるのは生徒に対してどこまで誠実か、その1点ですね。

また、今は教える以外の業務で忙殺されたり人間関係で悩んだりして、教育現場を離れる人が多いです。僕の働き方を発信することで、そういった人に「教育の道を諦めなくても、こんな方法もありますよ」と示していきたいですね。

(取材・文:五十嵐綾子 編集:ノオト)

取材協力

木村公紀さん

マニラ日本人学校卒業後、帰国子女入試と一般入試を経験し、私立桐朋高校に進学。その後慶應義塾大学法学部政治学科に進学し、大学時代は4年間集団塾講師のアルバイトを続ける。新卒で人材教育の会社に就職後、2社目の会社で個別指導塾の塾長を経験。配属された校舎を120名以上の生徒を集める人気校にしたのち、生徒一人ひとりと向き合い「できない」を「できる」に変える教育をしたいという志のもと、2015年8月に独立。現在はオンライン家庭教師サービス「旅する教育者」の代表を務める。
https://tabisurukyouikusya.com/

この記事の筆者

五十嵐綾子

ライター・編集者。立教大学史学科卒。編集プロダクションで情報誌編集・ライティングに携わり、フリーランスに。歴史への興味・関心を活かした歴史関連の取材記事・書籍執筆などをはじめ、ウェブ・紙問わず幅広く執筆。世界遺産検定1級・学芸員資格有。

Twitter:https://twitter.com/igacham

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