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2019/03/22 up

イベント販売を経て念願の店舗営業へ 「たいやき あんびえん」の開業秘話

text by 関紋加

撮影=小野奈那子

2019年1月、南阿佐ヶ谷にオープンした「たいやき あんびえん」。店主は趣味のあんこ作りが高じ、いつの間にか、たい焼きのとりこになっていたと話す池谷一樹さんです。

同店を構える約5年前から、音楽イベントやギャラリースペースで、ケータリングのたい焼き販売を行っていた池谷さん。どのような手応えを感じて、実店舗を構えるまでに至ったのでしょうか。

会社員をしながら小豆を炊き続ける日々 噂が広まりイベント販売へ

――まずは、たい焼き作りを始めたきっかけを教えてください。

料理やお菓子作りが昔からの趣味で、上京した24歳頃に初めてあんこを作ってみたんです。すると、ほかのお菓子に比べて、あんこだけはどうも自分が思い描いた味に仕上がらなくて、それがとても悔しかったんですよね。そこから、和菓子店が作るような本格的なあんこを作るには、どうしたらいいのだろうとスイッチが入りました。

――たい焼きの前に、あんこ作りに熱中したのですね。独学ですか?

そうですね。最初は簡単なレシピを参考にして小豆を炊いていましたが、自分なりに試行錯誤して、独学でどんどん研究しました。たまに、カレー作りに没頭するお父さんっているじゃないですか。僕の場合は、あんこ作りだったという感じですかね。完成したあんこをおいしく食べたいなと考えたときに、パッと思い浮かんだのはたい焼きでした。一番好きなスイーツなんです。

▲近年では、「一丁焼き」のたい焼きを「天然もの」と呼ぶこともあるそう

――どこかで修業するという発想はなかったのでしょうか?

なかったですね。やっぱり修業すると、誰かの味に似てしまうというか……。自分だけの味を作りたかったので、暖簾分けスタイルにあまり興味がなかったです。

でも、天然焼きと表現されることもある、ひとつの金型で一匹ずつ焼く「一丁焼き」のたい焼きは、都内のお店はほぼ食べ歩いたと思います。複数個を一気に焼けるいわゆる養殖ものは、生地が厚くなりがちなんです。自分はあんこをしっかり味わいたいので、皮はなるべく薄くパリッとしたものを作りたいと思うようになりました。

――趣味のあんこ作りが、どうイベント出店につながったのでしょうか?

初のイベント出店は、5年ほど前ですね。趣味の一環で、環境音を使用したアンビエントミュージックを制作する音楽活動を行っているのですが、その仲間内で「あいつ、あんこ作りまくっているらしい」と噂になって。それが広がった結果、音楽イベントのケータリング販売であん団子を売ったのが始まりです。その後、知人が運営しているイベントスペース「杉並 海の家」で、たい焼きを提供し始めました。

▲写真提供/増田怜欧 by SOOY

利益ではなく、経験を積んだイベント販売

――初めての販売はいかがでしたか?

やはり人前に出すことで、味に対する率直な感想やリアクションがもらえますし、モチベーションも上がりましたね。その後も友人や知人のつながりで、会社員をしながら、月1~3回のペースで、ケータリングのたい焼き販売をしていました。3回くらい出店した時点で、いつか実店舗を持ちたいと感じました。

――ケータリング販売で利益はでていたのでしょうか?

正直利益はなかったですね。ガスコンロとたい焼き器を1つずつ、それに生地とあんこだけを持っていくスタイルだったので、売れる個数に限界があるんです。イベントを告知する時点で「限定50個」などと販売個数を決めていたので、売り上げは最初から読めていました。

あくまでお金や利益目的ではなくて、単純に作ったものをみんなに食べてもらいたい! という気持ちだけでしたね。自分の味を知ってもらって、よりおいしくするためにはどう改良しようかなと模索していた感じです。

――イベントで出店するメリットはどんなところに感じますか?

メリットは客層がつかめるようになるところでしょうか。性別や年代などのデータが蓄積することで、その後の改良のためのヒントにもなるし、実店舗の出店にあたり、どんな街が適していそうかがイメージしやすくなりました。

――イベント出店時のマイルールはありましたか?

全て一人で焼いていたので、想定参加者数が多すぎるイベントは見送ることもありました。あくまで「迷惑をかけずにやれる範囲」で参加するスタンスでしたね。

1日に焼くのは350匹以上! 実店舗を持って変わったこととは

――開業にかかった資金はどれくらいですか?

設備資金・物件取得代込みで500万円くらいですね。冷蔵庫以外の設備は中古でそろえたので、安いほうだと思います。最大9キロの小豆を直火で炊くことのできる機械は、定価だと100万円ほどするのですが、中古品なので約半額で入手できました。

たい焼き器は、1丁5万円程度のものを10丁そろえたんです。今は全てのオペレーションを一人でこなしているので、これが最大の数かな……と。

――実店舗を持って変わったことはありますか?

売り上げがしっかり立つことですね。日にもよりますが、平日でも350〜370匹ほどは焼き上げます。ちなみに価格は1匹180円。現在この価格で販売できるのは、全て自分で一から手作りしているからですね。毎朝4時すぎから、あんこと生地を作っています。

――あんびえんのたい焼きへのこだわりを教えてください。

あんこは小豆本来のおいしさを丸々味わえるように、個性を引き出せるように炊いています。一般的にはマストであるアク抜きも、実はほとんどしていません。取り除きすぎると、せっかくの栄養も捨ててしまうことになるし、自分が目指す風味にならないんです。でもその代わり、もともとアクの少ない北海道産の小豆を仕入れています。

あと、生地の材料に乳製品は入れず、使うのは小麦粉と米粉のみ。たい焼きって、出来たてよりも冷めてから食べることが多いから、そんなときでもなるべくパリッとしているように米粉を入れています。あんこに米飴を使い、米油で焼いているのでまとまりがでるかな、と思っています。

――飲食に限らず、実店舗の営業を夢に見ながらイベント出店を行っている人にアドバイスをください。

いきなり実店舗を持つというのはなかなかハードルが高いので、まずイベント出店などで経験を積むのは、良い経験になると思います。実際に店舗を運営している先輩方のお話は、年間を通して営業して行く中で分かる貴重な意見であり、なかなか自分一人では気づけないことだったので、とてもありがたかったです。

例えば、天候によって客足や売り上げが大きく変わることなどは、初めはあまり気にはしていなかったのですが、実際に毎日店舗を運営して行く中で人の流れがガラッと変わることを痛感しています。

――最後に、今後の展望を教えてください。

イベント出店は存在を知ってもらうPRになったと思いますが、実店舗は毎日来てくださる常連さんがいたり、近所の人の口コミで思わぬ反響をいただいたりする、新しい喜びがありました。

これからは、あんこにナッツを入れてオリジナルの味を作ってみたいとも思いますし、実はジェラートも大好きなので、またこの経験を生かしてほかのスイーツ販売にも挑戦するかもしれません。

とはいえ、まずは準備期間を含め、約5年かけてオープンさせたこのお店をたくさんの人に知ってもらうことに注力していきたいです。

(取材・文:関紋加/ノオト 編集:ノオト)

取材協力

池谷一樹さん

静岡県出身。会社員生活の傍、自身の大好物であるたい焼き作りに没頭。5年間のイベント出店やケータリング販売などを経て、2019年1月、南阿佐ヶ谷に「たいやき あんびえん」を開業。

たいやき あんびえんFB:https://www.facebook.com/annbienn0000

この記事の筆者

関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は料理、美容、健康、ライフスタイルなど、毎日の暮らしにまつわるなにげないこと。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。趣味は、食べ歩きとミュージアム巡り。

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