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2019/03/01 up

職場は1台のワゴン! 今祐輔さんがニッチビジネス・自転車出張修理を選んだワケ

text by 末吉陽子

千葉で自転車出張修理の専門店「KIT cycle repair (キット サイクル リペア)」を営む、今祐輔(こん・ゆうすけ)さん。DIYで改装したワゴンを仕事場にして、自転車の不調や故障で悩む人のもとに駆けつけます。

会社員時代を含めると修理・販売した自転車台数は5万台以上。パンク修理やタイヤ交換、メンテナンスなど確かな技術を持つプロフェッショナルとして、地域で活動の幅を広げています。

開業5カ月目を迎える今さんのもとを訪ね、独立の経緯から自転車修理にかける想いまで心境を語っていただきました。

自動車整備学校に通うも自転車修理の道に進む

――今さんは、自動車整備学校の出身だそうですね。昔から乗り物好きだったんですか?

そうですね。子どもの頃から車のプラモデルやミニ四駆が好きでした。高校生になるとバイクや自動車の改造にのめり込んでしまい、他に好きなことも浮かばなかったので、進路は自動車整備学校以外に選択肢がなかったですね。学校では自動車を中心に、整備や塗装などを習いました。

――でも、卒業後はバイクや自動車関連の会社には就職せずに、自転車修理の会社にお勤めになったとか。

正直、バイクや自動車にくらべると、自転車には興味はなくて。ただ、高校時代から自転車修理店でアルバイトしていたので、仕事として考えると自動車より自転車の方が楽しいだろうなと感じていました。

――といいますと?

たとえば、自動車整備の会社は営業部門と修理部門が完全に分かれていることがほとんどです。僕はアルバイトを経験して接客も好きになったので、修理だけの仕事は気乗りしませんでした。あと、自動車やバイク業界は職人気質が強く縦社会なので、馴染めそうにないと気付いたんです。

――なるほど。それで、自転車修理の仕事を選ばれたのですね。

はい、専門学校を卒業するまでに二級自動車整備士や車体整備士の資格を取得しましたが、結果的にアルバイトを続けていた自転車店の社員になりました。でも、自分が所有している自動車やバイクの修理や改造だけで満足です。自転車は習得したスキルを活かせる仕事なので、仕事としての面白さはあります。

出張修理のニーズは高い。ほとんどの依頼はママチャリ

――独立のきっかけは、何だったのでしょう?

アルバイト期間も合わせると、15年ほど同じ会社で働いていたんです。うち6年くらいは店長を任されていたのですが、社内の事情で経営方針がガラッと変わり、考え方や売り方に疑問を持つように。未来に夢がなくなった気がしたのをきっかけに、辞める決意をしました。

――ちなみに、転職という選択肢は?

最初は悩んだのですが、大手に勤めていたのでどこに転職したとしても、規模は小さくなるんです。新しい職場で仕事の進め方を一から覚えるより、個人事業主として独立した方がいいなと思いました。

――開業資金はどれくらい掛かりましたか?

130万円ほどです。オークションで20万円のワゴン車を購入して、自分で修理や塗装をしてサービスカーに改造しました。座席部分を取り外して、工具を収納するスペースを作ったので、ワゴンさえあればどこでも修理できます。修理代を入れると車だけで60万円くらいですね。残りは、工具や部品などの購入に充てました。

――店舗を持たず、出張修理サービスにされたのはなぜですか?

自転車店に勤めていたときに、「修理に持っていくのが大変だから家に来てもらえないか」と要望されるお客さまが多かったんです。でも、大手の販売店だったからか、出張まではカバーしていなかったんです。確かに、自転車は車に乗せにくいですし、押しながらお店に持ち込むのも面倒。出張サービスのニーズはあるだろうなと思ったのが大きいですね。

――なるほど。大手が狙わないところを狙っていくという戦略ですね。

自転車に乗る人は急激には減らないので、これからも修理の仕事はなくならないと思います。かたや、高齢化も相まって個人の自転車修理店がどんどん潰れているので、逆に出張サービスの需要は増えていくんじゃないかなと。

――最近は、ロードバイクやクロスバイクもブームですし、自転車通勤している人も増えていますよね。

そうですね。ただ、自転車の世界は圧倒的にママチャリの数が多いですね。なので、自然とママチャリの修理がメインになっています。スポーツバイクは、構造がシンプルとあって修理はそんなに大変ではありませんが、部品がとても高いんです。

また、新規格が導入されるサイクルも早いので、工具を買わないといけません。商売としては割に合わないんです。

――スポーツバイクのように高い自転車と違って、ママチャリは修理代によっては買い替えを希望する人もいそうな気が。

もちろん、費用によって修理を希望されないお客さまもいらっしゃいます。もし処分を希望されたら、500円~で買い取っています。バラせばどこかしら使える部品が残っているので、買い取りのメリットはあります。

工賃は1分あたり50円×作業難易度で計算

――修理内容的に出張に掛かった時間と修理代が見合わない……なんてことはないですか?

出張エリアは絞っていますが、単価の低いパンク修理の相談が多いので、それだけだと見合わないですね。ただ、実際に見ると、チェーンも交換しなきゃいけなかったりブレーキも直さなきゃいけなかったりと、一カ所の修理だけで済むケースは少ないかもしれません。自転車は野ざらしで置かれていることが多く、乗り物の中でも傷みやすいんです。

――なるほど。その場合、修理代はどのように算出するのでしょうか?

工賃は1分50円で、作業の難易度によって計算しています。たとえば、パンク修理で呼ばれたとして、パンク修理だけなら1,000円です。でも、せっかくなら同時に直してしまおうと思ってもらえるケースがほとんどなので、結果として1件あたりの単価は上がります。

――ちなみに、開業されてから手掛けた修理の中で、一番高かったのはおいくらほど?

部品代も含めて約3万8,000円です。何年もずっと放置していた大切な自転車を修理して、また乗れるようにしたいということで、今後の使い道に合わせてほとんどの部品を交換したので高くなりましたね。

――修理だけではなく部品の発注までするとなると、さらに時間もパワーも必要ですよね?

そうですね。取り寄せの場合は、手間賃を上乗せすることもできます。でも、お客さまの立場からすれば、見えない部分でお金を取られると、いい気持ちはしないと思うので、それはしていません。基本的なスタンスとして、明快な料金プランを心掛けています。

――それも他店との差別化につながりそうですね。

そうですね。「出張だから高くてもしょうがない」だと、「次は店舗に持っていった方がいいかも」と思われるはずなのでそれは避けたいなと。なので、「家に来てくれて、確かな技術もあって、料金も一緒だったら来てもらった方がいい」と思っていただけるような価格設定にしています。とはいえ、単価が低いと仕事として成り立たないので、そのバランスが難しいですね……。

――個人事業主として仕事を続けていくうえで、不安に感じることはありますか?

一人きりだといつか限界がきそうだなとは思っています。作業にも時間がかかりますし、出張は1日5件が限度。一人あたりの単価を考えても、一生裕福にはならないビジネスモデルなので、新しいことにチャレンジするしかないなと。

――新しいこととは?

たとえば、オリジナル自転車や修理業者と個人のマッチングサイトを開発している会社と、つい最近業務提携したんです。もうすぐリリース予定なのですが、私も開発に協力しています。自転車関連の新しいビジネスも増えているので、これまで培ったノウハウを活かしながら携わっていくことで、私自身の仕事の幅も広げたいと思っています。

自転車出張修理は自分の存在が認められてこそお金になる

――職人として磨いた技術を武器に、臆せずに新しいビジネスに飛び込む姿勢が素晴らしいですね。

もちろん職人としても、引き続き頑張っていきたいです。そして、ひいては自転車修理市場を変えたいと思っています。いまショッピングモールがすごく増えていて、そこに売り上げが集中している状況です。ただ、ショッピングモールの商圏から漏れてしまい、困っている人は少なくありません。出張修理サービスで、この現状を変えていきたいと思っています。

――仕事への向き合い方は、独立前とはかなり違いそうですね。

そうですね(笑)。実際のところ、会社に雇われていた頃、修理に関しては最低限の業務しかやらないというか、とにかく多忙だったので、気になったことがあってもあえて黙っていましたね。かなり受け身な姿勢だったと思います。でも、独立してからは気付いたところをしっかり伝えていこうと、自然と思えるようになりました。お客さまにも直すべきところはちゃんと提案して、安全に乗れる自転車にしよう、そのためには我慢しないで自分に正直でいようと心に決めています。

――独立してよかったですか?

はい。もちろん社会保障など心配になることはあります。とはいえ、そのために納得していない仕事を一生続けるのは無理だなと。あとは、身体的にもかなり楽になりました。片道2時間くらいかけて通勤していたこともありましたから。トータルでストレスフリーな生活を送っているため満足度は高いです。ただ、現状は収入面が課題なので、安定した売り上げを出すことにしっかり注力したいです。

――では、最後に仕事でやりがい感じる瞬間について教えてください。

自転車出張修理は、スキルも含めて自分という存在が認められて、はじめてお金が発生する仕事だと思っているんですよね。知識だけではなく人柄も含めて、悪いイメージがないからお金を払おうと思っていただける。なので、自分がこうするといいんじゃないかと思っていることを、納得していただけるように説明して、それに賛同して修理を決めてくださるとやりがいを感じます。

この仕事は新しいものを生み出す仕事ではなく、あくまでもマイナスをゼロに戻す仕事です。使える部品も作業内容も読めるので、プラモデルを組み立てるような達成感もあります。そうしたプロセスも好きなので、この仕事をずっと続けていきたいですね。

(取材・文:末吉陽子 編集:ノオト)

取材協力

今祐輔さん

1984年、千葉県船橋市生まれ。学生時代よりオートバイや自動車に興味を持ち、自動車整備学校に進学し自動車整備士の資格を取得するも、それまでのアルバイト先である大手自転車販売店に就職。5万台以上の販売・修理経験を積み、会社の経営方針が変わったことを機に独立を決意。https://kit-cr.1net.jp

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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