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2018/12/27 up

90%以上のリピート率! フリーランス日本語教師・由利智美さんが目指す理想の働き方

text by 五十嵐綾子

撮影=小野奈那子

外国人に日本語を教える日本語教師。入国管理法改正で話題の技能実習生をはじめ、来日する外国人の増加により、その需要は高まっています。しかし、給料と仕事内容が見合わないという悩みを持つ人も少なくないそう。

由利智美さんは13年の経験を持つ、フリーランスの日本語教師。フリーランスになったきっかけや、90%以上の顧客にリピートされる秘訣、これから目指したい理想の働き方などを伺いました。

「時給10円」の衝撃でフリーランスになることを決意

――まずは、日本語教師を目指した理由を教えてください。

高校卒業後、英語を学ぶ専門学校で受けた日本語教育の授業がきっかけでした。英語が過去形になると「ed」がつくように、日本語にも言葉のルールがあることに面白さを感じて、420時間学ぶ日本語教師養成講座に通い、日本語教育能力試験に合格しました。

――2007年に日本語教師養成講座を卒業後、翌年にはもうご自身で教室を立ち上げられたとか。

そうなんです。実は、講座の先生が「日本語学校の教師は時給10円だ」と言っていて。もちろん、ちゃんと給料はもらえますが、授業以外に雑務がたくさんあり、時給換算すれば10円程度だという例え話ですが、とても衝撃的でした。そんな環境では絶対働きたくないと思い、講座で知り合った女性二人と一緒に教室を立ち上げました。

場所は大使館などが近く、外国人の多い恵比寿。駅前でのビラ配り、外国人向けのフリーペーパーやウェブへの広告掲載、既存クライアントからの紹介などで、主にビジネスマンが集まり、マンツーマンの授業を3人でそれぞれ行いました。

独立するも副業優先の日々。再起を助けたのは人の繋がり

――教室を続けず、独立したのはなぜですか?

教室は7年ほど続けましたが、決定的だったのは給料面ですね。途中で2人体制になったのですが、どれだけレッスンをしても給料は折半でした。「私が今担当している生徒数を維持したまま独立したら、家賃などの経費を引かれず、収入が増えるのでは」と考え、2014年から個人で活動を始めました。

――独立後はすぐに波に乗れましたか?

それがなかなか……。顧客が減った場合の共同経営者の負担を考え、どうしても私とのレッスンを続けたいという生徒さんのみに継続してもらったものの、新規の生徒さんをどう増やすのかを具体的に考えずに独立してしまったので、副業しないととても苦しい状況でした。副業に時間や労力を割いている自分に情けなさを感じて体調を崩すこともありました。

――苦しい状況から、どう再起したのでしょうか?

以前担当した生徒さんからクライアントを紹介してもらえたんです。レッスンを通じて深い信頼関係を築けていたことや、レッスン後も生徒さんとコミュニケーションを取り続けたことが功を奏しましたね。以降は大使館や企業などとも仕事が始まり、年収はどん底時代に比べると3倍近くにまで上がりました。

またこの頃、日本語教師の集まるセミナーに参加して、そこで出会ったフリーランスの方々30人ほどにインタビューもしました。日本語教育業界はフリーランスが少ないと知って、それぞれの方にクライアントの獲得法や、どんな信念を持って仕事をしているのかなどを聞いたんです。

当時は心理学などの勉強もしていて、「自分の行動は自分の信念に沿っている」ということに気付き、インタビューはそれを確かめる場でもありました。私の場合は、「人の理想を現実につなげる」という信念がありましたね。

相手に寄り添うレッスンがリピートのカギ

――現在はどんな方々に教えていますか?

欧米のビジネスマンの方が中心です。自分で仕事の時間を調整できるなど、時間的な自由度の高い方が多いので、なるべく同じ日にレッスンを集中させ、週2~3日の休みが取れるようにしています。最大で週に18件レッスンが入るときもありました。

――どのようなレッスン内容ですか?

クライアントがどんな場面で日本語を使うかによるため、実にさまざまです。読み書きを重視する方もいれば、話すことに重点を置く方もいます。基本的にレッスン中は日本語のみですが、あまり時間を割けない方には英語も交えて教えることもあります。場所もクライアントの会社やご自宅、カフェなど、相手の都合に合わせていろいろです。

――レッスン料はどのくらいに設定していますか?

企業の場合は事務作業が増えるため少し上げることもありますが、基本は60分5,000円です。フリーランスの先生方に聞いた料金を参考にしました。中には500円でやっている方もいますし、日本語学校では1コマ1,500~3,000円ほどが相場なので、少し高めの料金設定ですが、幸い経済的に余裕のあるクライアントに恵まれ、5,000円で回せています。8回、12回などパッケージプランで提案することが多いですね。

――高めの料金設定にも関わらず、リピート率90.9%という数字に驚きました。リピーターになってもらうために、工夫していることはありますか?

初回のトライアルレッスンは、とにかく相手がリラックスできる雰囲気作りを心掛けていますね。こちらが緊張してしまうとレッスンの質にも影響してしまいますが、もともと人と話すことが大好きなので、そこは自分の強みだと考えています。クライアントに「この人、話しやすいな」と思ってもらえれば、色々なことを話してくれるので、その方のためのレッスンを考えることができます。レッスンの目的をしっかり把握することはもちろん、同じ文法を教えるときも、例文にその方の友人の名前や職業に関わることを盛り込んでみるなど、一人ひとりアレンジしています。

――「自分のために」という特別感は、きっとうれしいはずですね。

多忙なビジネスマンが毎週60分をレッスンに割くことは大変ですよね。その貴重な60分を無駄に過ごさせたくありません。語学の勉強は思うように上達しないときもありますが、「毎回有益な情報が得られる」と感じてもらえれば、モチベーションを下げることなく、結果として契約更新に繋がります。

自身の経験をもとに、フリーランサーのサポートも行う

――2017年からはフリーランス日本語教師志望者へのセミナーやコンサルティングもされているそうですね。

はい。フリーランスの先生方にインタビューをしていた時期、独立していない同業の方に「どうやってフリーランスを始めたらよいですか?」という質問をたくさんもらったので、ニーズがあると考え、始めました。

ここ数年、日本語を学ぶ外国人は増えていて、日本語教師は需要があります。しかし、日本語教師は給料よりもやりがいを求めて仕事をしている人や、ボランティアの人が多いです。さらに、日本語学校の中には朝起きられない生徒を起こす電話をかけたり、ビザの発行の手続きを手伝ったりと、日本語を教える以外の雑務が発生するところもあるそうです。

もちろん、ボランティアの方々や日本語学校の先生方によって、さまざまな背景と多様なニーズを持つ多くの日本語学習者が支えられています。とはいえ、30代後半でキャリアがあるにも関わらず、非常勤で学校を掛け持ちして、やっと手取り16万円という相談者もいて、もっと稼ぎたいと考えている人がいることもまた事実なのです。

――セミナーやコンサルティングはどんな内容ですか?

セミナーは1回3,000~5,000円ほどで、フリーランスの活動内容やプライベートレッスンについて教えるほか、自分の軸を探すワークショップも2万円で実施しています。私自身、日本語教師の方々にインタビューしたことで、個人の日本語教師として成功するには、単にレッスンのテクニックやノウハウだけでなく、「自分はどんなことが好き、または得意なのか」を分析し、それを生かせるクライアントと繋がるにはどうしたら良いかを考える必要があると気付いたんです。そのため、基本となる自分の信念を自覚してもらうことには重きを置いています。

9万8,000円のコンサルティングではより具体的に、目指すクライアントの業種や価格を設定するほか、新しいビジネスプランを一緒に作ることもしています。例えば、クライアントのお子さんの幼稚園入園手続きのサポートを加え、追加料金をいただくなど。日本語教育1本で食べていくのは難しく、ほかに課金できる要素があればプラスするよう伝えていますね。

さまざまな自由が手に入る働き方を広めたい

――レッスンやセミナー、コンサルティング以外に収入源はありますか?

日本語教師と学習者の仲介もしていて、紹介料をいただいています。自分が教えられないときや、別の先生の方がうまくいきそうと感じるクライアントの場合、紹介することがあります。

――仕事の幅がどんどん広がっていますが、月収はどのくらいですか?

70万円ほどになったこともありました。私は交通費を請求しているので、経費もカフェでレッスンしたときの飲食代や、宿題の印刷に使う用紙代・インク代、書類を送る時の切手代くらいで、支出は少なめ。個人の日本語教師は経費が多く引かれない点がメリットです。

ただ、多くの方は日本語教育だけでは月20~30万円も厳しいのが、現在の業界の実情かなとも感じています。

――厳しくても続けたいと思える、日本語教師のやりがいは何でしょう?

人の理想を現実につなげていけることでしょうか。あとは「教えてもらった『禁煙』の看板を街で見つけて読めたよ!」と連絡してくれたり、「この間習った『優柔不断』の言葉を、カフェで隣の人が話していて聞き取れた!」と報告してくれたり(笑)。生徒さんが「わかった!」と実感してくれることがうれしいですね。

――今後の展望をお聞かせください。

私が一番やりたいことは、時間的・精神的・経済的に自由な働き方を手に入れることです。今後はクライアントのレッスンはあまり増やさず、フリーランスの方々をサポートするセミナーやコンサルティング、教師と学習者の仲介にさらに力を入れ、自由な働き方を広めていきたいですね。

2018年9月に出産し、現在は育休中ですが、2019年春から復帰予定です。セミナーなどで指導した方々から続々と「クライアントが見つかりました」という報告をもらって、仕事したい気持ちが高まっているので、復帰する日を楽しみにしています。

(取材・文:五十嵐綾子 編集:ノオト)

取材協力

由利智美さん

2007年、都内に日本語教室を立ち上げプライベートレッスンを多数受け持つ。7年後にフリーランス日本語教師に転身し、個別契約で 90.9%のクライアントリピート率を保っている。現在は個人、企業、大使館などと契約を結び、日本語教師を続けながら、自由な働き方を目指す語学教師向けにセミナーやコンサルティングを実施している。http://forteachers.lovinglifeintokyo.com/

この記事の筆者

五十嵐綾子

ライター・編集者。立教大学史学科卒。編集プロダクションで情報誌編集・ライティングに携わり、フリーランスに。歴史への興味・関心を活かした歴史関連の取材記事・書籍執筆などをはじめ、ウェブ・紙問わず幅広く執筆。世界遺産検定1級・学芸員資格有。

Twitter:https://twitter.com/igacham

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