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2018/12/25 up

印税が入ったら銀行から電話がきた 『こぐまのケーキ屋さん』作者・カメントツさん

text by 松尾奈々絵

『こぐまのケーキ屋さん』という漫画をご存知でしょうか。漫画家・カメントツさんが、2017年11月にTwitterで公開してたちまち人気となった作品で、単行本の発行部数は50万部を超えました(2018年11月現在)。

今回は、収入が激増した(であろう)カメントツさんに、現在の収入内訳や原稿料など、ウェブで活躍する漫画家さんのリアルなお金の話を伺いました。

4年前は通帳残高が29円だった

――まず、カメントツさんが漫画家を目指した経緯を教えてください。

もともと地元の工場で働いていたんですが、物欲があまりない人間なので、普通に生活しているとどんどんお金が貯まっていくんですよ。気付いたら100万円になったので、東京に住んでみよう、でもフリーターになるのは嫌だなと。「なら、漫画が好きだから漫画家を目指すか」って上京して、漫画家志望の若者に格安で住居を提供する「トキワ荘プロジェクト」にお世話になりました。言い訳みたいなところから始まったんですよ。それが2013年、27歳の頃です。

そこでライターのヨッピーさんに出会って「オモコロ」で連載を始めたのが2014年、小学館が発行する漫画雑誌「ゲッサン」で連載を始めたのが2016年でした。

オモコロ連載当時は、アルバイトもしていましたね。毎月通帳の残高が2ケタになるような生活でしたけど、毎日楽しかったです。お金がなくても、将来に対してあんまり不安を抱かないタイプなんですよね。ご飯と納豆あれば生きていけますし。

 

▲【カメントツのルポ漫画地獄】ヒプノセラピーに行ってきた編(オモコロ)より  https://omocoro.jp/kiji/39396/

――昨年11月にTwitter投稿後、すぐにお声がかかり、今年3月には『こぐまのケーキ屋さん』(小学館)を出版するなど、この1年振り返っていかがでしたか?

めっ……ちゃくちゃ忙しかったです。この間「またM-1グランプリやってる。再放送?」と思ったら1年たっていました(取材日はM-1グランプリの5日後でした)。速度が速くて、密度が高くて、不思議な1年でしたね。

アインシュタインが「相対性理論を簡単に説明してください」と言われて「ストーブに手を置いた1分は死ぬほど長いけれど、恋人と一緒にいる1分はすごく短く感じる」みたいなことを言ったそうなんですが、まさにそんな感覚。この1年は「好き~~! ああああああ熱い~~~~!」って、幸せと辛さが同時に来て、時間の感覚が伸びたり縮んだりしていました。

正直、漫画を描く作業はずっときついです。でも、作品が完成した達成感を味わう瞬間と、読者さんから感想をもらえることを考えると、毎回ストーブに手を置いちゃいますね。もう麻薬です。

Twitter連載は原稿料ゼロ?

――そんな苦しみがありながらも、先週『こぐまのケーキやさん そのさん』も発売したばかりなんですよね。おめでとうございます!

ありがとうございます。うれしい~~~!

 

▲そしてショートケーキを頬張るカメントツさん

――最近は、Twitterで話題になった作品の書籍化が増えていますよね。これまで無料で読めていたものだし、単行本化してもあまり売れないのでは? と思っていたので驚きました。

そうそう、みんなそう言うじゃないですか。でもそれはちょっと前の情報で、今はTwitterのリツイート数と売上は比例してきているんですよ。以前は明らかにネットで流行っているものと、現実世界で流行っているもののギャップがあったんですが、今は日常生活で物欲を刺激するものも含め、だんだん同じになってきていている感じがします。

もちろん作品によって紙媒体との相性もあります。『こぐまのケーキ屋さん』は、作品の世界観に合うように単行本の紙質にすごくこだわったので、それも「単行本で読みたい」と思ってもらえるひとつの要因かもしれません。

Twitter漫画の単行本化は「ネットから引っ張ってきやがって」「編集は仕事しろ」という声も聞きますが、僕はそんなことは思わないですね。

そもそも近代から現代漫画の歴史ってまだ100年前後ですし、10~20年スパンでビジネス形態が変わることはそう珍しくないと思います。それこそ40~50年前は「単行本がさほど重視されていなくて、原稿料のみが漫画家の収入だった」というお話を大先輩の先生に聞いたことがあります。その時代の編集さんからすると単行本で人気作になるなんて邪道! となるわけです。常に変わり続けているものなんですよね、何事も。

 

▲表紙も各ページも、インクやコーティングなど細部にこだわっている

 

――『こぐまのケーキ屋さん』はカメントツさんのTwitterアカウントで連載中ですよね。漫画家さんの収入源って、基本的に漫画を描いた「原稿料」と単行本が売れた「印税」だと思うのですが、Twitter連載だと原稿料は発生しますか?

ゼロ円です。「ねとらぼ」さんは、Twitterで更新したものからまとめて掲載しているので、掲載料をいただいています。原稿料が出ない分、マネタイズに協力していただいているのでありがたいです。

――原稿料が出ないというのは、驚きです。

基本的に「原稿料=媒体に掲載するお金」です。雑誌連載を持たない作家にとって、原稿料が出ないということは珍しくないし、僕自身ずっとネットで描いてきたので、原稿料というより1記事あたりのギャラベースでの仕事が多いですね。

『こぐまのケーキ屋さん』は、ふと疲れたときや、嫌なことが起こったときにスマホを取り出して読んでもらえるような作品になってほしくて、誰でもアクセスできるTwitterを公開する場所に選びました。いつもたくさんの読者さんからの応援をいただいていて、これは原稿料以上のものだと思います。

収入割合は単行本:グッズ:大学=6:3:1

――原稿料無しとなると、今の収入の割合は単行本の印税が中心ですか?

現在の収入の割合は、単行本の印税6割、グッズ3割、京都精華大学での講師料1割です。グッズについては、できる限り細かな修正指示をする打ち合わせを毎週行っています。大学では「新世代マンガコース」という次世代の漫画を研究学習するコースの授業とゼミを担当しています。雑誌、ネット、広告媒体、プロデュースなど広い視野を持つ漫画家を目指す学科なのですが、生徒の中には、ネットで収入を得ている人やバズってニュースに取り上げられた人など、すでに頭角を現している生徒がチラホラいて、今後が楽しみです。

 

▲人気のぬいぐるみ。目の位置が少し変わるだけで、まったく違う表情になってしまうそう

――ちなみにどういったものが経費になるんですか?

基本的には本が多いです。ペンと紙は数百円で済みますね。あとは、MacBookを買ったくらい。税理士さんからは「もっとお金を使って経費で落としてください。もったいないですよ」とよく言われます。僕は歩きや電車移動が多いのですが、車を買ったり、タクシーに乗ったりした方が良いらしいです。

――税理士さんには、いつからお願いしてるんですか?

昨年からです。さほど収入がない頃は自分でやっていたんですけど、単行本を出版してからですね。ライターのヨッピーさんに紹介してもらいました。ヨッピーさんってお金好きゴリラなんで、お金周りのことは相談しようと思って。「こいつ、儲かってまっせ!」って、バンバン僕の肩を叩きながら紹介してくれました。やはりお金面でいつも「困ってないかウホ?」と気遣ってくれるゴリラ先輩の存在はとってもありがたいので、いつか樽でもプレゼントしようと思っています。

銀行から「何かありましたか」と電話がかかってきた

――ここ1年、収入状況が変わって変化はありましたか?

銀行から「何かありましたか」と電話がかかってきました。急に収入が増えたので不審に思われたようです。説明したら「こちらが緊急用の電話番号です。何かご用命の際はお電話ください」と言われて。気になったので「例えば何をしてくれるんですか?」って興奮して聞いたら「現金をお持ちすることも可能ですよ」って。「世の中にはそんな対応があるのか~!」と勉強になりましたね。絶対に使わないですけど。

――(笑)。収入が増えてよかったと思うことはありますか?

面白いと思うものに、パッとお金が払えるようになったのはいいことだなと。ニッチでくだらないアプリゲームを作ってるやつに2,000円課金したり、ツイッター漫画で面白そう! と思ったらすぐに買ったりしています。あ、そうだ、最近服を買ったんですよ。僕の今までで一番高い服見ません? 

 

▲左からぬまがさワタリさん、とよ田みのるさん、カメントツさん

実はこれ、30万円したんですよ。昨年、漫画家のとよ田みのる先生と「コミコンにスターウォーズのコスプレで行きたいね」って話をしていて、ずっと欲しかったけどなかなか手が出なくて。

でも『こぐまのケーキ屋さん』の重版がかかったときに「とよ田先生……今年、いけるんじゃないですかっ……!」って相談しました。『絶滅どうぶつ図鑑』を描いているぬまがさワタリ先生も最終的に加わって、3人で仲良くコスプレしてきましたよ。大きい買い物はそれしか思いつかないな。そう考えると、自分自身のお金に対する感覚はあまり変わらなかったです。

――基本的に「欲」が少ないんですね。

ないですねぇ。とある先輩ゴリラには「マンション買うウホ! 外車買うウホ!」とか言われるんですけど、完全無視です。僕は最低限月8万円あればやっていけます。収入が減ることへの恐怖も感じないですね。

漫画にしたら、言いたいことが伝わった

――カメントツさんが漫画を描くモチベーションはなんですか?

やっぱり、読んだ人が喜んでくれることです。もともと『こぐまのケーキ屋さん』は落ち込んでいた友人を励ますために描いた作品で、今もその人に向けて描いています。それはそのほかの作品も同じで、「オモコロ」なら原宿編集長をどう笑わせるかとか、身近な個人を思い浮かべていて。もちろん、内輪ネタにならないようには気をつけますけど、小学生の頃に隣に座っているクラスメイトに先生の似顔絵を見せて、クスクス笑わせる感覚がずっと続いています。

なので「どうやったらバズるんですか」「どうやったら人気が取れるんですか」と聞かれても、全然わかりません。漫画家はお金目的にやる職業じゃないと思います。こんなに大変なのに実入りがない職業ないですよ。夢はあるけど儲かる人が少ない職業だし、僕はラッキーです。

――漫画を描くのをやめたいと思ったことはありますか?

やめたいですよ~、辛いですもん。でも、自分は基本的に取り柄がなくて、この世に向いていない人間だと思うんです。

中学高校の頃、話すことが全然周囲に伝わらなくて、自分はつまらない人間だと思っていました。ただ、伝えたいことを漫画にしたら「すっ」と受け入れてもらえたんですよね。それがうれしかった。漫画があって本当によかったなって。天職というより、唯一できる仕事です。

――最後に今後の展望を教えてください。

『こぐまのケーキ屋さん』に関していえば、大人だけでなく、子どもが一生懸命読んでくれているそうで驚いています。文字も多いし、結構難しい言葉を使っているので予想外でした。自分の描いた漫画が、誰かが人生で初めて読む作品かもしれない、という責任感を持ちながら描き続けたいですね。

(取材・文:松尾奈々絵/ノオト 編集:ノオト)

取材協力

カメントツさん

愛知県出身。名古屋造形大学卒。2013年より漫画家の道へ。2017年にTwitterに投稿された漫画『こぐまのケーキ屋さん』が話題を呼び、投稿から6日後には書籍化が決定。2018年12月にシリーズ3冊目の『こぐまのケーキ屋さん そのさん』が発売された。
https://www.kamentotu.com/

この記事の筆者

松尾奈々絵

有限会社ノオトの編集者・ライター。担当ジャンルは街ネタや働き方など。複業で「マンガナイトBOOKS」の書店員も。

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