> マルナゲとは?

2018/12/10 up

音楽とコラボした即興パフォーマンスが圧巻! 国内外で盆栽の魅力を伝える「成勝園」店主・平尾成志さん

text by 関紋加

撮影=栃久保誠

自然美と造形美が融合する盆栽。どちらかというと「静」のイメージが強いですが、DJや楽器に合わせたダイナミックな即興パフォーマンスを繰り広げるのが、盆栽師・平尾成志さんです。

国内外で盆栽デモンストレーションやパフォーマンスを経験後、現在はさまざまなアーティストとのコラボレーションなど独自の活躍をしている平尾さんに、仕事をする上で大切にしていることや、自身の盆栽園「成勝園」のオープン経緯などを伺いました。

修業2年目で芽生えた将来への焦り

――大学卒業後に修業をスタートしたとのことですが、盆栽師を目指したきっかけを教えてください。

大学時代は陸上の長距離走に打ち込んでいて、盆栽について何の知識もありませんでした。ある日、京都市にある東福寺の庭園の美しさに感動したことがきっかけで、盆栽協同組合の本部である上野グリーンクラブに足を運ぶことになったんです。そこで盆栽の寄せ植えを見たら、幼少期に遊んでいた地元・徳島県の森の記憶が蘇ってきて。

その体験から、一気に盆栽の世界に興味がわいたんです。その後、いろいろなご縁が重なって、タイミングよく私の師匠である故・加藤三郎にも巡り会いました。

――修業期間はどれくらいでしょうか?

私が所属した「大宮加藤蔓青園(おおみやかとうまんせいえん)」では、基本5年間です。職人の世界ならではの厳しさを覚悟していて、まずは掃除などの雑務をこなすだろうと予想していたら、初日から高価な盆栽の手入れをさせていただいて、ある意味で拍子抜けしましたね(笑)。

――具体的にどのようなことをするのか教えてください。

1年目は、園が所有する盆栽の管理や、お客さまの盆栽の手入れ、配達などを率先して行いました。盆栽は配達便で送ることができないので、車での移動が多いんです。

2年目からは、水やりも。盆栽の世界では「水やり3年」と言われるほど重要な作業で、私もそのくらいの期間をかけて、4年目でやっと木の声がわかるようになりました。

5年目は、幹や枝に針金を巻いて固定し、樹形の姿を整える針金掛けを教わります。手取り足取り指導してもらえるわけではないので、たくさんの盆栽を見るのはもちろん、自然や建物、空間、照明、車、文字などいろんなデザインに興味を持って、少しずつ盆栽に生かすような感じです。

剪定や芽摘み、針金掛けなどの作業自体の質を高めるためには、ひたすら反復練習ですね。修業を経て、やっと基礎がわかり始めました。

師匠が鑑賞用の自然石を見ていたときに「形があって形がない、形がないのに形がある」と言われたことがあって。それがずっと心のどこかに引っかかっているんです。目に見える部分だけではなくて、内側から出るもの、そういうもっと深い部分を追求していかないといけない職についたのだな、と感じました。

 

▲10年以上使い込んでいるという道具

――修業後はすぐに独立したのでしょうか?

いえ。まずは蔓青園で1年間、専属の職人として管理士として管理を任されました。盆栽が家業であれば、初期投資もなく商売を始められると思うのですが、自分の場合そうではない。とてつもないハンデなのではという悩みや危機感が、修業2年目くらいからすでにありました。

ただ「跡継ぎはこれまでやってきたことを継承しないといけないから、大それたことができない。そういった意味で君は有利だよ」と言ってくれた人がいて。それもひとつの考えだなと思い、そこからは誰もやったことのないことができればと、常々考えるようになったんです。

また、正直この6年間で日本の盆栽業界に対して、疑問も生まれていました。

海外でのパフォーマンスを通じて気付いた、本当の課題

――それは、どういった疑問ですか?

簡単にいうと、木を作ることよりも売り買いがメインだな、と感じました。盆栽師の仕事として想像していたのは、もっとクリエイティブな部分。なので、このまま日本にいるだけでは職人としての技術は向上しても、視野が狭くなる感覚があり、海外に行こうと思いました。

もともと師匠から、「国内外で盆栽の魅力を伝えられる人間になれ」と言われていたので、海外への興味はずっとあったんです。

――とはいえ、いきなり海外行きのチャンスをつかむのは、そう簡単ではなさそうです。

実はそうでもなくて。蔓青園は世界でも有名な盆栽園で、海外の人がよく来ていました。そこで盆栽の貿易を行う人に相談したところ、初めての海外として、スペイン・マドリードの盆栽園の手入れに行くことが決まったんです。

そこから少しずつ海外で活動が増えていき、それがきっかけで、2013年には文化庁文化交流使に任命されました。これまでに25~30カ国ほど訪問しています。当時は自分の盆栽園を持っておらず、長期的に海外に行くことは特に問題がなかったので、タイミングがよかったのかもしれません。

▲パフォーマンス中の平尾さん(本人提供写真)

――海外ではどんな活動をしたのですか?

ヨーロッパの愛好家は、完成品を愛でることよりも、ワークショップやデモンストレーションを好むため、そうした活動が主でした。でも活動を広めていくうちに愛好家だけでなく、もっと多くの人に盆栽を知ってほしいと思うようになって。

一般の人にも楽しんでもらう方法を考えた結果、現地の人の協力を得て、地元のバンドと共にライブハウスなどで盆栽のパフォーマンスを行うようになりました。これが、今のスタイルの始まりです。

――海外で挑戦したからこそ、得たものはありますか?

イタリアの盆栽職人に「なぜ東京の若者は『盆栽』について何も知らないのか? 海外に来る前に日本をどうにかしろ」と言われ、結局日本で勝負することから逃げていたのかもしれないと思うようになりました。

ただ単に場所を変えて活動するだけでは意味がない。現在は国内での活動が9割で、年間20点ほどの作品を制作しています。

完成のイメージは50%だけ固めておく

――仕事をする上で大切にしていることはありますか?

ボランティアではないので、ギャランティをしっかり確認します。最近は、派手な作品を作ることもあり、仕入れの費用も製作期間もそれなりにかかるようになりました。また、完成した作品はバラすことなく、そのままの形で残します。こういった管理面のコストも考えなくてはなりません。

 

▲数日後のパフォーマンスのために準備中の盆栽

――パフォーマンスのオファーが来てから、どのように準備を進めるのかを教えてください。

時期によっても変わりますが、オファーが来るのは大体2カ月前くらい。まず、盆栽と合わせるオブジェ製作に取り掛かるのですが、ギリギリまでイメージを膨らませてから作るようにしています。

そのあと盆栽を仕入れるのですが、イメージ通りの盆栽が見つからない場合は2~3日かけて探すことも。音楽とコラボする際は、アーティストの方と軽く打ち合わせをすることもありますが、基本ぶっつけ本番です。

――現在はどんな作品が多いですか?

ちょっとひねったものだとか、巨大なもの、不安定なものなどにチャレンジしています。パフォーマンスは会場の環境や、観客のボルテージなども重要な要素です。完成のイメージは50%くらいに留めておいて、あとはその場の雰囲気を自分自身も楽しみながら作り上げています。

パフォーマンスのクオリティを高めるために自らの盆栽園をオープン

――2016年5月に「成勝園」をオープンされました。自分の盆栽園を持つきっかけは?

文化交流使の任命をきっかけに、国内でもパフォーマンスするようになったのですが、作品の管理場所が十分に確保できなくて困っていました。あとは、インタビューの機会も増えてきたので、いつでも使える拠点があれば、という理由が大きいです。

――成勝園のコンセプトを教えてください。

盆栽だけでなく、それぞれの楽しみ方ができる場所。よく行っていたオランダの「出島盆栽」はカフェバーのようになっていて、お酒を楽しみながらワークショップをしているような空間で、そういうのいいなって。

盆栽は我々職人からしたら芸術作品ですが、一般の人からしたら、あくまで趣味ですよね。せっかく趣味として時間を費やすなら思いっきり楽しんでほしいなと思うので、とにかくゆったりくつろいでもらえればと。

子連れでも利用しやすいようにおもちゃを用意したり、盆栽と関係ないアンティークの骨董品を置いたりしています。

――オープンのための費用はどのくらいかかりましたか?

トータルで2,000万円くらいかな? もともと盆栽園だった場所なのですが、自らリノベーションしてそれだけで500万円ほど使いましたね。あとは盆栽の仕入れや車などもそろえました。農地と宅地の混合地って、このエリアでなかなかなくて、ユートピア感が気に入っています。

2017年には世界盆栽大会がさいたま市で開催され、盆栽が注目されていた時期だったので、そういった意味では借入もしやすいタイミングでした。

――オープンして2年以上たちますが、運営は順調ですか?

楽勝かと思っていたけど、大変ですね(笑)。うちは売上の7割以上が私のパフォーマンスです。納得いく作品を作り上げるために、予想外の出費が続くこともあります。盆栽はその場で現金払いが多く、パフォーマンスの収入が振り込まれてもあっという間に消えていく時期は、ちょっと不安になることはありますね。

あと、現金出納帳の作成が大変ですが、今はあえて人に任せずに自分でやることでお金の流れを把握するようにしています。今年は作品も増えたので、棚卸しも大変だろうなと(笑)。

盆栽が枯れた場合は損失になるのかといった判断や、一作品に何枚もの器を使用しているので、その計算は税理士さんに相談しなくてはならないのですが……。

――なるほど。ちなみにどういったものが経費に該当しますか?

成勝園の家賃と、弟子の社宅費用、盆栽・土などの資材の仕入れなどですね。固定費だけで年間500万円以上はかかります。

全国巡回の先にある本当の目標は、東京オリンピックでのパフォーマンス

――現在フリーランスですが、法人化を検討したことはありますか?

そうですね。今は弟子がいるので、まったく考えていないということはありません。弟子には、基礎を学ぶ時間を大切にしながら、将来は社会と密接に繋がりのある人間になってほしいです。そのために法人化が必要であれば……という感じでしょうか。

――最後に、平尾さんご自身の今後の目標を教えてください。

今はパフォーマンスに注力していますが、予期せぬアクシデントや体力的なことを考えると、また違うことにチャレンジしないといけないといった思いがあります。

また、2019年は瀬戸内国際芸術祭のほか、全国を巡る展覧会も開催予定です。その流れに乗って、2020年の東京オリンピックでも何かパフォーマンスしたいですね。

(取材・文:関紋加/ノオト 編集:ノオト)

取材協力

平尾成志さん

1981年徳島県生まれ。2003年さいたま市盆栽町にある「大宮加藤蔓青園」に入門。師匠の故・加藤三郎の「盆栽を国内外問わず、いろんな人に伝えられる人間になってくれ」の言葉を胸に修業に励み、海外でのデモンストレーションやパフォーマンスなどを経験。2013年文化庁文化交流大使として4カ月半で世界11カ国を回り、盆栽を通じた国際文化交流を実施。2016年5月に自身の盆栽園となる「成勝園」をオープン。現在は異業種と融合したパフォーマンスや未経験者向けのワークショップなどを中心に活動している。 成勝園HP: http://seishoen.com/

この記事の筆者

関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は料理、美容、健康、ライフスタイルなど、毎日の暮らしにまつわるなにげないこと。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。趣味は、食べ歩きとミュージアム巡り。

ほかの記事を検索する

関連ワード