> マルナゲとは?

2018/11/30 up

年間400人のママを支援! セミナーやグッズ開発も手掛けるフリーランス助産師・浅井貴子さん

text by 末吉陽子

撮影=小野奈那子

妊娠中から産後のケアまで、女性に寄り添ってくれる「助産師」。女性限定の国家資格で、全国で約3万9,000人が従事しています(平成29年『看護関係統計資料集』より) 。病院で分娩をサポートするイメージが強いですが、その活動範囲は育児サポートや家族支援など多岐にわたります。

今回お話を伺ったのは、27年のキャリアを持つフリーランス助産師・浅井貴子さん。毎月30件、年間400件近い新生児訪問を行い、育児アドバイスをメインに活動。さらに、ベビーマッサージや妊婦向けセミナーの講師、企業との商品共同開発に携わるなど精力的に活動されています。そんな浅井さんの仕事にかける想いや、気になる年収を教えてもらいました。

起業を決意したのは、小学生時代

――まずは、助産師としての道を歩まれるまでのお話を教えてください。

昔から、漠然と女性と子どもに関わる仕事をしたいと思っていたんです。それで、高校卒業後の進路を決めるときには、助産師になろうと決めていました。ただ、助産師になるための試験は看護師の資格がないと受けられないので、まずは看護大学に入学。看護師の資格を取り、国立大学の助産過程を経て、助産師の資格を取りました。それから、実家に近い大学病院の産婦人科で働き、NICU(新生児集中治療室) などに勤務。結婚を機に退職して、27歳でフリーランスの助産師になりました。

――フリーランスになろうと決めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

小学生の頃から、自分で起業して、好きなように働きたいと思っていたんです。実家がそろばん塾で個人事業主のようなものだったので、育った環境の影響もあると思います。

――病院はたくさんの人がチームとなり仕事をするイメージがあります。浅井さんが思い描いていた働き方とはギャップがあったのでしょうか?

そうですね。病院組織には、いろいろなルールがあり、私が注力したかった母子の心身ケアに関してもなかなか思い通りにはできなくて、正直ちょっと息苦しかった。自分だからこその仕事ができませんでしたし、「将棋の駒と一緒で、私がいなくても代わりがいれば仕事は回る」と感じてしまいました。

大事にしているのは「親子のためになること」

――自分らしい仕事をするために独立を選ばれたということですね。いまはどのような活動をしているのでしょうか?

役所から委託を受けて、相談員として地域のお母さんの相談に乗るほか、ベビーマッサージ教室の運営、「メディカルハーバリスト」「アロマセラピスト」「コンディショニングトレーナー」といった資格を活かして、企業との共同商品開発、セミナー講師を務めることも。いずれにしても、女性や子どもの心身ケアにつながる仕事がメインになります。

――想像していたより、ずっと幅広いことに驚きました! 具体的にはどのような内容ですか?

商品開発だと、赤ちゃん用の布団の開発にアドバイザーとして参加したり、妊活している人向けの湯たんぽを監修したりしました。セミナーは、オーガニックコスメブランドのWELEDAからの依頼が多いのですが、プレママ向けに妊娠線マッサージの実技とペリニウムマッサージ(会陰マッサージ)などをレクチャーしています。このセミナーはとりわけ人気が高く、キャンセル待ちもしばしばです。

――ちなみに、出産に立ち会うことはありますか?

それはありません。助産院を開業したり、自宅での出産を介助したりする助産師もいますが、医療行為ができないので、とてもリスクが高いと考えているからです。赤ちゃんとお母さん2つの命を同時に守るためには、何より医療のバックボーンが大事。私はお産で赤ちゃんを取り上げることよりも、出産前後をケアに専念したいと考えています。

過去には炎上も経験。フリーランスは自分の発信することに責任を持つ覚悟が必要

――独立したことで、仕事への向き合い方はどのように変化しましたか?

とても自分らしく仕事ができるようになりました。アドバイスできることの幅も広がりましたね。たとえば、病院で医師に妊娠中のむくみについて相談した女性に対して、「産まなきゃ治らないよ」と突き放す場面を多く目にしました。ひと昔前は、つらくても我慢しなさいという時代でしたから。でも、私なりにハーブやアロマの勉強をして資格も取得したので、むくみの原因や解消法をアドバイスできるようになりました。

また、病院だと入院したとしても1週間ほどなので、その間だけでの関わりしか持てませんでした。妊娠・出産の場面だけではなく、産後もずっと長いスパンで親子に寄り添っていきたいと考えていたので、そういう意味では、いまの働き方がベストかなと思っています。

――仕事はどのように広がっていったのでしょうか?

最初、自治体の公式助産師として登録したので、そこから広がった感じです。あとは、総合情報サイトの「All About」でガイドとして記事を寄稿してきたので、それを読んだ企業担当者から問い合わせをいただくことも多いですね。

――個別訪問はどれくらいのペースで行っているのですか?

毎月30人くらいのプレママやお母さんに会いに行きますね。キャリアに比例して知見を期待されてか、講師やアドバイザーなど発信する仕事が増えましたが、だからこそ今の女性たちが求めていること、どんなことに不安やストレスを感じているのか、リアルな声を知らなきゃいけないと思うんです。個別訪問があるからこそ、それらを知ることができますし、彼女たちの心に響くような言葉や商品に思いを巡らせることができるんです。

――でも、それぞれにパワーがかかるというか、単純に時間給では割れないような気も。

そうですね。ただ、それも含めての個人事業主だと腹をくくっています。たとえば、ケーキ屋さんだって仕込みの時間もあるし、集客のためにチラシを作って配ることもありますよね。その間、直接的なお金は発生していなくても、全部ひっくるめての収益だと考えれば無駄な時間ってないと思います。独立して27年経ちますが、3年目まで赤字でしたから。

――フリーランスになって大変だと感じることはありますか?

自分が発信したことは全部自分に返ってくるということですね。まず、言葉に対して責任があります。自分がいいと思って発信したことも、表現次第で炎上してしまいます。組織が守ってくれるわけではないですし、ましてや健康に関わることですから、リスクがありますよね。

――どんなことで炎上してしまうのでしょう?

たとえば、私は監修しているだけで開発費しかもらっていないのに、助産師という肩書で品物を売ろうとしているとネットで叩かれたこともあります。でも、出る杭は打たれるで、目立つことをすれば反発する人は一定数いるのは覚悟のうえです。動揺せずに自然と火が消えるのを待つ心構えでいます。

平均年収は1,000万円! “お金を稼ぎたい欲”はほとんどない

――では、少しお金の話を聞かせてください。収入の割合は?

セミナーの収入が一番多く、次いで、ベビーマッサージ教室の売上が多いかもしれません。ただ、収入の安定度合いでいうと、赤ちゃん訪問です。これは自治体の公式助産師としての仕事ですが、必ずニーズがあるので。あとは、不定期ですが商品開発に携わると、30万円から50万円のまとまった収入になります。

――年収にすると、平均どれくらいですか?

1,000万円くらいですね。少ない年でも700万円は達成したいと思って働いています。そう目標を設定しているのは、自分がやりたい活動をするためであり、老後の生活を見据えてでもあります。私は特別、お金が欲しいとは思っていないんですよね。普通に生活していければ御の字かなと。

――日常生活でお金をかけていることはありますか?

パーソナルトレーナーをつけて週1回トレーニングしたり、マッサージに行ったりして、自分のコンディションを整えるお金はかけています。定年がないので、働こうと思ったら80歳、90歳でもできるので、健康に気をつけていますね。

――プライベートの時間はとれていますか?

休みは月1回しか取れないこともあります。まとめて休みを取るのは年末年始くらい。でも仕事が趣味みたいなものなので、ストレスはないですね。

子どもの自己肯定感を高める活動に力を入れていきたい

――まさに天職なのですね。助産師の仕事以外に、別の道を考えたことは?

ないですね。本質的には、誰かに必要とされる人間でいたいっていうのが願いです。その方法として、助産師を選んだことに後悔はありません。困ったときに、ふっと私の顔を思い浮かべてもらえたらなと思っているんです。でも、この境地に達するまでに、27年かかりましたけどね。フリーランスになった当初は、この仕事で本当に食べていけるのかなと不安だらけでしたから。

――それでも諦めなかったからこそ、いまがあると。

そうですね。助産師の資格があるだけで簡単に仕事はいただけませんし、企業との信頼関係を構築するのにも、時間はかかります。「好きなことをやりたい」だけではフリーランスは続けられないし、食べていけないと思います。自分に期待されていることを、きちんと理解して仕事をするように心掛けています。やはりどんなにネットが発達して便利になろうと、最終的には人と人とのつながりの温度やご縁が大事なのではないかと思います。

――では、最後に今後の展望を聞かせてください。

この生活を1日でも長く続けていくことです。あとは、仕事を通じて子どもの健全な育ちあがりに尽力したいです。いまの時代、情報が氾濫しているせいか、いろいろなことを急ぎ過ぎている気がするんです。それもあってか子育ての仕方にも疑問を感じることが増えました。さらに言えば、自己肯定感が低い子どもが、あまりにも多いです。共働きで世帯年収はアップするかもしれませんが、心の教育がともなわず、物質的に恵まれているだけでは、内面の豊かさは乏しいままです。

でも、たとえばベビーマッサージでスキンシップをすれば、赤ちゃんの頃から自己肯定感がしっかり上がるんですね。「あなたは必要とされて生まれてきた」というのは、肌を通して分かるものなんです。そんなことを一つひとつ丁寧に、活動を通して伝えていきたいです。

(取材・文:末吉陽子 編集:ノオト)

取材協力

浅井貴子さん

新生児訪問指導歴27年以上のキャリアを持つフリー助産師。アロマセラピスト、日本コンディショニング協会(NCA)認定トレーナー。産前、産後や赤ちゃん対象の代替療法の専門家としても活躍。毎月30件、年間400件近い新生児訪問を行い、出産直後から3歳児の育児のアドバイスや母乳育児指導を実施。ベビーマッサージやプレママ向けのセミナーの講師を多数務め、オーガニックハーブティー&アロマオイル専門店「AMOMA」の母子向けナチュラルケアブランド商品開発にも携わる。http://www.mid-wife.info/

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

ほかの記事を検索する

関連ワード