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2018/11/26 up

脱サラして家業を継いだ6代目みかん農家・小澤光範さんに聞く、農家の仕事と課題

text by 万谷 絵美

撮影=田中純子

全国的に有名な温州みかんの産地である和歌山県有田川町の山間に、「みかんのみっちゃん」と呼ばれる若きみかん農家・小澤光範さんの農園があります。その広さは、なんと約3町(9000坪)。

サラリーマン生活を経て、地元・和歌山にUターンした小澤さんに、数千本のかんきつ類の木が植えられた広大な畑から生み出される収益や仕事の内容、農家が持つ課題などを伺いました。

「農家はスターになれる」 ある農家の一言がUターンのきっかけに

――大学で農学を学んだ後、一般企業に就職。そこから農家を継いだ経緯を教えてください。

大学での専攻は、農業生産学科でした。主に野菜や果物の栽培について勉強していましたが、家業を継ぐつもりはなかったですね。普通に就職活動をし、サラリーマンになって、生協のグループ会社で全国の農家さんのところへ買い付けに行ったり、作物の魅力がより伝わるような商品カタログを作ったりする業務をしていました。

そんな仕事を通じて、とある農家さんと知り合い、それがUターンを決心するターニングポイントになったんです。

――Uターンの決心に至るほどの出会いとは、どんな農家さんだったんですか。

その方は65歳くらいの野菜農家で「農家はスターになれる。君は実家が農家だから絶対継いだほうがいい」と僕に言ってきました。最初は意味がわからなかったのですが、「これからはSNSを使って、たくさんの人と簡単に繋がれる時代になる。どんどん便利になる世の中で、消費者との距離ももっと近くなって、農家が輝ける時代が来る」と。

すぐには理解できない部分もありましたが、生産者自らが生産物に付加価値を付けることができれば、注目されるかもしれないと何となく思ったんですね。とはいえ、いきなりUターンする気にはなれなくて。

その農家さんには僕と同じ年くらいの息子さんがいて、すでに家業を継いでいたので、軽い気持ちで理由を聞いたんです。そうしたら「お父さんがかっこいいから」と。すごく驚きました。僕は「農業は汚れるし、儲からない」という現実を見てきて、嫌な思い出がたくさんあって。でも、彼は父親を一度もそういう風に見たことがない。

やはりそれは、生産もきちんとこなしながら、常に先端を見て付加価値を高める努力をたゆまない姿を見ていたからなんだと思いました。同世代の一言がすごく心に響いて、こういう考え方っていいなとちょっとずつ感化されていき、最終的に「自分は故郷に戻るべき人間なんだ」と決意して、和歌山へ戻ってきました。

見よう見まねで農家を継いで、約9000坪の農園を管理

――農家を継ぐ決心をご両親に伝えたときは、どのような反応が返ってきましたか?

親は前々から、「とりあえず一度は社会に出てみれば」という考え方だったので、サラリーマンになったことに反対はありませんでした。故郷に戻る話を切り出したときは「勤め人のほうが収入もいいだろう」と驚いていましたが、「畑に来てくれるなら、一緒にやろう」と言ってくれて、苦労はなかったですね。戻ったことを喜んでいるんだなと感じることもあり、うれしくなりました。

――スムーズに戻ってこられたのですね。農作業のノウハウなどは、どのように学んでいったのですか?

両親の背中をみながら、見よう見まねで覚えました。枝の剪定(せんてい)や肥料の知識などがなかったので、後ろに付いていって。約9000坪の畑で、温州みかんやはっさく、デコポン、清見(きよみ)、ネーブル、伊予柑、せとか、はるみなど約60品種を育てています。収穫量が多いのは、温州みかんで年間100トン、はっさくは30トンくらいです。

――みかんは冬の果物のイメージがあるのですが、収穫や剪定など、いつ頃どんな作業をしているのでしょうか?

収穫は9月半ば頃から始まり、冬の間はずっと続きます。春になると剪定作業に農薬の散布、肥料まきなどを行い、花が咲いてくると、大きい実を収穫するための摘蕾・摘果作業が収穫前までずっとですね。

その合間に、木の植え替えも。みかんの木の寿命は30年~40年くらいなので、自分の世代の間にすべての木が入れ替わります。全部一気に植え替えると収穫できなくなりますから、古い木を少しずつ切って新木を植えるんですね。100トンの温州みかんを収穫するには、だいたい2000本の木が必要なんです。

――みかんだけで2000本! 人手もたくさん必要そうですが、収支のバランスはどうなのでしょうか。

家族以外の人を雇うのは、収穫時期だけです。それよりも、肥料や農薬代が高いですね。年間で約2,500万円の売上を見込んでいて、支出は人を雇うために60万円、農薬や肥料代で200万円、設備費は年によってバラつきがありますが100万円程度でしょうか。

「JAありだ」の組合員なので、収穫したものはJAへ持っていきます。ただJAには販売時の規格が決められていて、条件を満たさないみかんは買い取ってもらえないんです。そういう規格外になってしまった小さいみかんや、ちょっと外見が汚いからと捨てられるみかんは、SNSなどを通じて友人や昔からお付き合いのある方に少しですが送っています。

ちなみに一度JAを通すと、いろいろな農家がつくったみかんが1箱に混じった状態になってしまうので、「僕のみかんを食べたい」と言ってくれる人には直接届けたいと思ってしまいますね。

▲果頂部(ヘタのないほう)から4つ割ってむく方法は「有田むき」と呼ばれる、和歌山ならではのむき方

農家は国からのサポートを受けられる職業

――台風で農産物が被害を受けたというニュースを目にするとリスクも大きそうですが、自然災害への対策はしているのですか。

今年9月の台風21号で、うちも被害を受けました。そういうときは国や県から補助金が出ます。そのほか、JAなどに加盟していると、そこからも補助があります。台風21号の場合、折れた木の写真と植え替えた後の写真を提出することで苗木代や肥料代、見込めた収益なども含めた金額として60万円ほどもらえる予定です。すべての補償があるわけではないですが、それほど心配しなくていいですね。

――個人経営の事業として、国のバックアップがあるのは心強いですね。

ただ、新規就農は結構大変かもしれません。まず、土地を借りるハードルがすごく高いです。売上目標や、借りる畑の面積も最低限度とされるところをクリアしないと、この農家の土地は貸せないなど暗黙の了解があって、とってもシビアです。

持ち主には畑を荒らされるかもしれないとか、貸した人の振る舞いによって近隣に迷惑をかけるかもしれないなどの心配などがあり、どうしても厳しく見られてしまうんですね。逆に土地さえ借りられれば、あとは新規就農者支援の制度などがあるので、うまく活用すれば個人負担は少なくできます。

いいみかんの「いい」はいろんな基準があるべき

――なるほど、お金があれば新規就農できるわけではないのですね。農家ならではの悩みや課題があれば聞かせてください。

やはり販売方法についてでしょうか。うちは代々「いいものをつくるのが仕事。売るのは他の人」という生産特化型で、販売はJAにお任せ状態です。

両親が言う「いいもの」は、色と形がきれいで、味もおいしいみかんを指している。でも、それは昔ながらの「いい」だと思うんです。その基準は、僕には前時代的に感じられます。

というのも、僕はサラリーマン時代に販売方法や商品の伝え方など多くのことに気を使っている農家さんにたくさん会ってきました。形が悪くても味がいいもの、サイズは小さくても日当たりのいいところでできた甘いものなど、「いい」の基準にもいろいろあることを学びました。

おいしいみかんであることが前提ですが、それさえクリアしていれば、サイズが小さくても自分で付加価値をつけることで売れるようになります。でも、それは代々伝わる考え方と違うので、正直わかってもらえないところもあって辛いですね。

でも、悩んでいても仕方がないので、自分なりに捨てるみかんをおいしく食べられないか試行錯誤しています。昨年は規格外のみかんでみかんペーストを、今年はみかんのお酒作りにも挑戦。これからは、マーマレードとみかんジュースなどを考えています。

「みかんのみっちゃん」として、みかん農家界のスターになりたい!

――農家としての課題を解決するために積極的に行動されているんですね。小澤さんは、全身みかん柄の衣装が特徴的な「みかんのみっちゃん」としての活動も印象的ですが、そうしたキャラクターが生まれたのも、その流れからですか?

▲自宅のみかん倉庫で「みかんのみっちゃん」衣装に着替えてくれた小澤さん

このキャラが生まれたのは、1年ほど前。JAに買い取ってもらえなかったみかんを大阪のイベントで無料配布していた頃です。そのときは普通の格好で出向いていたんですが、「せっかくなら、みかん農家だとわかりやすいようにオレンジ色のものを身につけたほうがいいんじゃないか」との指摘があり、少しずつ身に着けていったら、いつの間にかこうなりました。

この衣装は特に県外のイベントでみかんを配るときに反応がよく、普通の服のときより「みかんが目に入ってきたので食べたくなった」などと手を伸ばしてもらえることが多いです。それで全身みかん衣装の自分に「みかんのみっちゃん」と名前を付け、”非公認ゆるキャラ”に仕立てることにしました。この名前は一度聞くと忘れないようで、SNSでも「#みかんのみっちゃん」とタグを付けてもらえることが増えました。スターになるには、まず覚えてもらうところからですよね。

――今後の展望など、考えていることがあればお聞かせください。

大きな目標は、みかんの産地としての有田を守っていくことですね。これから産まれてくる子どもにも、職業の選択肢のひとつとして農業を残したいです。そのためには消費者にみかんをもっと食べてもらいたい。それで始めたのが料理専門学校との提携です。未来の料理人である学生たちの実習先に、来年からみかん農園が入ることになりました。収穫体験などを通じてみかんを身近に感じてもらえたら、食材としてもっと活用してもらえるようになるかもと期待しています。

また、農家の高齢化と人手不足による産地の規模縮小を解消するため、農家を助けたいという人たちに住み込みで手伝ってもらう「援農キャラバンみかん採りプロジェクト」を始めました。今年の農作業繁忙期には主に大学生~30代の男女が全国から集まってくれています。

たくさんの人にみかんを食べて、おいしいと思ってほしい。一人のみかん農家の立場からもっと視野を広げて、農業が続くように人手不足を解消する対策を練ったり、観光でこの地域に人を呼び込んで活性化させたりしていきたいです。

(取材・文:万谷絵美  編集:ノオト)

取材協力

小澤光範さん

有田みかん農家の6代目。みかんの本当の美味しさを多くの人々に伝えたい! みんなをオレンジ色のような笑顔にしてあげたい! と全身みかん衣装で、"非公認ゆるキャラ"として普及活動を実施。「援農キャラバンみかん採りプロジェクト」の一員であり、農家を助けたいという人を全国から呼び寄せている。

この記事の筆者

万谷 絵美

和歌山県在住。関西学院大学総合政策学部卒、専攻はまちづくり。大手外食チェーン勤務からフリーランスを経て、2015年より和歌山県初の広報支援会社・Crop代表取締役兼ライターになる。和歌山ではグルメ分野の引き合いが多く、グルメライターとしてローカルテレビやラジオにも出演中。https://crop.wakayama.jp/

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