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2018/11/16 up

時給5,000円の案件も! 企業の成長に携わる喜びと責任-社会保険労務士・筈井弥生さん

text by 末吉陽子

撮影=小野奈那子

労働法や社会保険制度をマスターしたスペシャリスト「社会保険労務士(社労士)」。企業が人事・雇用・労務といった体制を整えるにあたり、相談に乗ったり書類を作成したりと、いわば強い組織にするための助っ人で、経営者にとってはパートナーのように寄り添ってくれる心強い存在です。

今回インタビューに登場していただくのは、人事労務コンサルティングを得意とする社労士、筈井弥生(はずい やよい)さん。就業規則を整え、勤怠を適切に管理できる道筋をつくる仕事をメインに行っています。なぜ社労士の道を選んだのか、仕事のやりがいや気になる収入などについて、根堀り葉堀り伺いました。

中学時代からブレなかった「法律を使う仕事がしたい」という想い 

――筈井さんは、会社員時代に社労士の資格を取得されたそうですね。その経緯を教えてください。

中学生くらいから、「将来は法律に関係する仕事がしたい」と思っていたんです。まずは法律の知識を身につけたくて、大学は法学部を選択しました。卒業後は大学院進学も考えたのですが、ゼミでは労働法を専攻していたので、学問を習得するよりも実社会で働きながら学ぼうと思い法律事務所に就職することに。仕事は、法律事務や秘書業務を担当していました。

細かい仕事は自分に向いていましたが、次第に日々働く「労働」に関する基本的なルールについて関心が強くなりました。そこで、従業員の働きやすさ、職場の環境づくりを考える手助けをする社労士の勉強をしてみようと、働きながら週2回、1年ほど予備校に通って社労士の資格を取得しました。

――資格取得後、すぐに独立開業を?

いいえ、就職3年目で結婚を機に退職して、それからしばらく専業主婦をしていました。ただ、引越しにより住み慣れた土地から離れ、周囲に知り合いもいなかったので塞ぎ込むことも。そこで、社会復帰しようと決めて、社労士の知識も活かせそうな法務部に再就職しました。

――再就職先ではどのような仕事を?

最初は、法務関連の書類作成などですね。10年間勤めましたが、異動で営業の仕事も経験していろいろな取引や契約の実情を知れたことは、大きな学びになりました。というのも、法務部にいると、ルール通りに契約書を出さなかったり、提出期限を守れなかったりする人がいて、頭を悩ませることもしばしばでした。

でも、実際に自分が営業として現場に行ってみると、契約書をもらって終わりではなく、たくさんの業務を抱えるわけです。管理サイドにいると書類がすべてになってしまい、営業に対してきつい言い方をして催促することもあったので、それまでの自分の態度を反省。社内の事情ばかりに気を取られるのではなく、もっと広い視野をもたなければいけないと身をもって感じました。

36歳で部長に抜擢されるも、キャリアの新天地を求め独立を決意

――2社では、幅広い仕事を経験してこられたんですね。

そうですね。営業を3年担当してから法務部に戻り、部長を命じられ、管理職も経験することができました。ただ、そのときの年齢が36歳。このまま会社に居続けるのか、はたまた別の道でキャリアを開拓するべきなのか考えるように。収入は安定していましたが、せっかくなら社労士の資格を活かした仕事をしたいなという思いもあり、独立するなら年齢的にもいましかないと。会社での仕事も充実してやりがいはありましたが、自分のやりたいことを突き詰める方向に舵を切りました。それが3年前のことです。

――開業資金はいくらほど?

最低限必要なのは、パソコンとプリンターくらいですね。あとは、社労士の開業登録費の支払いがありますが、それを合わせても全部で30万円ほどです。

――独立してから、すぐに軌道に乗りましたか?

やはり実務をしていないので、もう一度勉強しなおす必要がありました。セミナーや研修会にも随分と足を運びましたね。あと、社労士は法改正がすごく多いので、キャッチアップするにも時間がかかりました。

――覚えることが多くて大変そうですね……。

社労士の仕事は、コンサルティングや相談業務のほかに、就業規則の作成や社会保険の手続き、助成金など、社労士にのみ許可される独占業務があります。ほかの士業と同じように得意分野に応じて人によって活動内容が異なる職業でもあります。私の場合は、経営者の意向や社内事情を加味して、その企業に合ったシステム構築に注力したいと考え、「入退社の社内書式整備」「勤怠システム・給与計算システム導入支援」「就業規則・社内規則整備」「給与計算」を得意分野に設定しました。

就業規則作成のため、企業に1カ月常駐することも 

――経営者が、見落としがちなところをケアされているのですね。

しっかりしたルールさえつくれば、そこに合わせる努力をすればいいので、あとが楽になります。そのルールについても法律を知らないと適法なのかどうなのかなど不安がつきもの。実際にあったことですが、労働条件通知書を会社が自己流でアレンジし、不適切な記載をしていて、従業員が「聞いていた給与と違う」「休日が思っていたものと違う」と訴えるケースも。社労士が携われば、法律に則って決めていくので、経営者だけではなく従業員の安心にもつながると思います。

――労働条件などのルールが曖昧だと、トラブルの火種にもなってしまいますよね。

そうですね。よくあるのは、固定残業時間が聞いていた内容と違うといったもの。もし書面できちんと示していたとしても、法律的に問題があるケースも。最初から社労士に依頼していれば、そうしたトラブルにもならずに済みます。弁護士はトラブルが発生したら対処してくれる存在ですが、社労士はトラブルを未然に防ぐために知恵を出す存在といっていいかもしれません。

納得できる仕事をするために報酬は妥協しない

――どのようなルートで仕事の依頼が届くのでしょうか?

税理士からの紹介が多いですね。なぜかというと、経営者は会社設立時に司法書士のお世話になり、次に経理まわりのことで税理士に相談します。ここまでは、社長一人の会社でも必要になってくるわけですね。そこから半年、1年と時間が経ち、経営が軌道に乗り始めたら、社員やアルバイトの採用を検討するフェーズになります。さらに、社員が10人程度になると、それまで曖昧だった労務面もシビアに考えるように。そのタイミングで、税理士に相談して社労士を紹介してもらうという流れがスタンダードですね。

――案件ごとにかかるパワーも違いそうですが、報酬はどのように決めているのでしょうか?

たとえば、勤怠システムの初期設定が10~15万円、就業規則作成が20~30万円のように設定しています。時給のボリュームゾーンは、3,000~5,000円ですね。属人的なスキルによって報酬を大幅に上げられるかというと、そこまでインセンティブをつけられる業務ではないので、東京都内の社労士の値段を参考に、相場から大きく外れないことを大事にしています。すぐに解決する相談もあれば、半年近くかかるケースもあるので、作業やリサーチ、メールを打つ時間なども含めて1時間いくらになるか計算して作業時間を設定しています。

――「こんな仕事は引き受けない」と決めていることはありますか?

「言いたいことが言えない仕事」はやりません。社労士の仕事は、事務的で淡々とした作業だと思われがちですが、たとえば就業規則ひとつとっても経営者と何度もやり取りして、納得できるものをつくっていきます。フォーマットを渡して、これで終わりですというわけにはいかないので、「これで大丈夫ですか?」と何度も確認します。それには、やはり時間がかかるので、比例して見積り額も高くなりますが、妥協してしまうと現場に合ったいいものはつくれません。

外注さんだけど社員に近い存在でいたい 

――社労士としてのやりがい、面白さはどんなところですか?

労働現場において、人と会社、人と人の問題をルール化したり、解決したりできるのが面白いです。なので、法律だけ知っていても、人の心の動きがわからないとうまくいきません。クライアントの方針を汲み取り、アドバイスしながらルールを作って、それがうまく運用できたときはほっとしますし、やりがいを感じます。

あと、社労士は人がいかに働きやすいようにしていくかを考える仕事なので、いろいろな会社に訪問して、どのような環境でどんな人たちが働いているのか知ることも大切にしています。今日もコワーキングスペースで取材を受けていますが、本がいっぱいあるんだなとか、コタツを置いているんだとか知ると、働きやすい環境を考えるうえで参考になります。

――では、筈井さんが今後目指していきたいこととは?

私は外注さんですが、社員さんに近い存在を目指しています。たとえば、ずっとその会社に寄り添っていけば、収入の安定にもつながります。でも、私の場合ゆくゆくはクライアントに総務担当の人を採用してもらって、その方に私の仕事を引き継いでもらうようにお願いしています。知識のある人が社内で仕事を回せるのが一番いいわけで、社員さんを教育して卒業するスタイルを続けていきたいです。

今後は、営業、法務、人事など職種に限定しないで、興味があることは何でもチャレンジしたいと思っています。今の日本は働き方がどんどん変わっていますし、ひとつの仕事でも内容が変化していますよね。なので、自分自身も社労士という枠組みにとらわれず、スピーディに変化しなきゃいけないと思います。

(取材・文:末吉陽子 編集:ノオト)

取材協力

筈井弥生さん

1978年生まれ。大学卒業後、法律事務所勤務を経て企業の法務部へ。契約書作成、就業規則・社内規則整備、コンプライアンス・社内研修講師を担当。法務部長を務めた後、2015年コンサルタントとして独立。特定社会保険労務士として、「はずい社会保険労務士事務所」の代表を務める。スタートアップ企業の経理・人事のスペシャリスト集団「teamCTRL(コントロール)」のメンバー。teamCTRL:http://t-ctrl.net/

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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