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2018/09/14 up

お客さまとともに日本文化の魅力を伝えたい――レンタル着物店店主・盟子さんの仕事論 

text by 関紋加

撮影=小野奈那子

日本の伝統衣装である着物。七五三や成人式、婚礼行事など人生の節目や祝いごとのシーンで着用すれば、その場の雰囲気や周囲の人の気持ちをぱっと華やかにする魅力があります。とはいえ、時代とともに袖を通す機会が減り、どう着こなせばいいかわからないと感じるかもしれません。そんなときは、レンタル店を利用するのも一つの手。

今回は、東京・浅草でレンタル着物店「美麗Kimono&Culture」を営む盟子さんに、開業の経緯や仕事を通して伝えたいことを聞きました。

母の着物姿、アメリカ留学……これまでの経験がつながってお店をオープン

――盟子さんは結婚を機に浅草に住むようになったそうですね。お店をオープンしたきっかけを教えてください。

元々は航空会社に就職して、地上職を6年半勤めました。結婚後は派遣で秘書の仕事をしながら、家事や育児との両立していたのですが、3人目が生まれてすごくバタバタするようになってしまって、金曜の夜は倒れ込むように眠る生活に……。そんなときに、夫が突然「浅草で着物レンタルのお店をやってみたら?」と提案してきたんです。

――日頃からよく着物をお召しになっていたんですか?

いえ、特にそういうわけではなんです。ただ、母が寿司割烹の店を営んでいて、毎日着物を着ている姿を見て育ちました。着物姿でマニュアル車も運転するような母で、娘の私がいうのもあれなんですけど、とにかく着物を着ることが生活の一部になっていて、その風景や生き方が美しかったというか。子どもながらにすごく印象に残っていました。

とはいえ、夫の提案があまりに急で、ピンとこなかったのが正直なところでした。しかし、「いい物件見つけたよ」とこれまた突然報告されて……。夫は浅草で人力車の「小杉屋」を営んでおり、仕事で町を回りながら物件を見つけて契約してしまったんです(笑)。

――それは予期せぬ急展開ですね!

ちょうど派遣の仕事の更新時期で、もう少し家族との時間を大切にした働き方をしたいと考えて始めた時期だったので、夫に背中を押してもらう感じというか、勢いでオープンしました(笑)。

――思いきった挑戦に、不安や迷いはありませんでしたか?

実は大学時代にアメリカに渡って、国際関係学を専攻していたんです。そのときに日本文化がいかに素晴らしく、そして世界からも称賛されているかを肌で感じていました。

いつか自分なりに日本文化を伝えていきたい想いが頭のどこかにあったので、「もしかしたら、いい機会かもしれない」という気持ちもありましたね。いままでの経験が、ふわっとまとまったような感覚というか。とはいえ、最初は一人でのスタートで不安もいっぱいでした。

着物の価値は値段だけでは測れない

――まずはどんなことから始めましたか?

自分で着物を着ることはできたのですが、人に着せる経験がなかったので書籍やネットを活用して研究したり、実際に習いに行ったりしました。でも、母に教えてもらったのが一番勉強になりましたね。着物も小物も最初からたくさん仕入れていたわけではなく、まずは母のものを20種類ほど用意しました。今では、着物が100着、浴衣が120着ほどあります。

――毎月どれくらいの着物や浴衣を仕入れるのですか?

毎月の仕入額は、特に設定していません。アンティークや中古の着物は3,000円ほどで手に入ることもありますし、作り手が少なくなっている絞りは7万円ほどすることも。着物の価値は値段だけでは測れないと考えているので、金額よりも「ときめくものしか仕入れない」ことにこだわっています。

ときには浅草にお住まいの方々が、今ではどこに行っても手に入らないような素敵な着物を持ってきてくださることもあります。ほんとうにありがたいことですね。

――美麗は、レンタル店によくあるオプションの追加料金がなく、5,000円のフリープランなど、すべての価格設定がシンプルかつリーズナブルだと思うのですが、どのように設定されたのでしょうか? 

他店の価格設定も参考にはしましたが、浅草においては平均的な値段だと思いますよ。オプションの追加料金がないのは計算が苦手なのと(笑)、追加の支払いをためらうと仕上がりに満足が得られない料金制度はどうかなって。ちょっとゆるい感じですけど、個人でやっているからこそ、できることなのかもしれませんね。

――ほかに個人店ならではのメリットはどんなところに感じていますか?

出張着付けは、時間や価格の融通がきくので、対応しやすいですね。今年2月には、東京マラソンのイベントに参加しました。ランナーの方々がゼッケンなどを受け取るブースにいるモデルさんに着物を着ていただいたのですが、指定されたテーマやカラーでスタイリングをするところから、当日の着付けまでをお任せいただいて、忘れられない経験になりました。そこからテレビ撮影の仕事なども舞い込んできましたね。

毎年売り上げが突出して伸びる、隅田川花火大会!

――季節によって繁忙月と閑散月はあるのでしょうか?

比較的ゆったりしているのは、5~6月、10月でしょうか。それ以外はお正月に始まり、春の卒業式や入学式、お花見、夏の花火大会、秋の婚礼や七五三など四季折々のイベントに合わせて、着物の需要が高まります。

――売り上げが伸びる時期はいつ頃ですか?

やはり夏は書き入れどきです。毎年、隅田川花火大会は突出して売り上げが伸びますね。あとは、秋頃に増える礼装や七五三でのレンタルは単価が高いので、客数が少なくても売り上げが見込めますね。

――繁忙期ならではの工夫はありますか?

委託のスタッフが10名いて、一緒に着付けを行います。みなさんママ友であったり、知り合いの紹介であったりといったご縁です。着物と同じで良い素材というか、技術をお持ちなのに、活躍の場がない人が意外にたくさんいるんですよ。

みなさん、私のポリシーに共感して楽しんでくださっているようでうれしいですし、私自身も心細さがなくなりました。こういった人件費のほか、花火大会の日は近所のスペースをお借りして着付ける場所を確保することもあるので、普段とは異なる経費が少しかかりますね。

――普段はどのような経費がかかりますか?

やはりメインは仕入れです。あとは、店舗家賃、人件費のほか、予約サイト「じゃらん」の手数料くらいで、広告費はあまりかけていません。

お客さまとともに、日本文化の魅力を伝えたい

――盟子さんが仕事をする上で心がけていることを教えてください。

お店は予約制ですが、なるべくお断りしないこと。繁忙期であっても15分以上お待たせしないことですね。着物を着ることはそれだけが目的ではなくて、いろいろな時間を大切にしたくて、来ていらっしゃるはず。だから、こちらの都合でその気持ちを台無しにしたくないんです。

あとは、これまでの仕事を通して「お金をいただいている以上、期待通りは当たり前。それ以上を目指さなければ、感動は生まれない」ことは、いつも忘れずにいます。

――仕事で喜びを感じるのは、どんな瞬間でしょうか?

お客さまが着付けをして、晴れやかな表情でお店を後にされる瞬間ですね。みなさんが着物姿で街を歩くだけで、日本人であるという自信をお伝えしてくださっている気がします。海外の人は、単に着物の美しさだけでなく、佇まいや日本人の美意識を、特別と感じているのではないでしょうか。

着物は、その場や相手に対する敬意や思いやりを想像する文化。この仕事を通して、そういった日本文化ならではのスピリッツを伝えたいし、日本人の誇らしい部分を大切にすることで、世界の人と対等に話せるようになると思います。

――これから挑戦したいことはなんですか?

婚礼の衣装を着てみたい、写真を撮りたいというニーズにお応えしたいです。あとは、子ども達に向けて伝えられるものがあるといいな、と思っていて、今はお店で英語を教えることもあります。

今まではお客さまに対して、日本の文化を体験していただいたりお伝えしたりしていましたが、ゆくゆくは海外の文化を知るきっかけを発信できるようにもしたいです。

店名に「Kimono&Culture」とついているのも、そういった考えがあるから。私ひとりでできることは限られているので、ここに来ていただくみなさんと一緒にさまざまな文化に触れるきっかけを提供したいです。

(取材・文:関紋加 編集:ノオト)

取材協力

盟子さん

1978年、茨城県出身。幼い頃、母親の影響で着物がすぐ傍にある毎日を過ごす。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校への留学を終え帰国。航空会社勤務を経て、接客の世界にどっぷりと浸かる。結婚後浅草に移り住み、三人の子育てに奮闘しながら、着付けを習得。地元の名店や観光のアドバイスの引き出しも豊富。幼い頃の母の姿を想いながら、浅草の風情や粋を世界中の人々に体験していただけるよう、日々思考錯誤中。

「美麗Kimono&Culture」
http://birei-asakusa.tokyo/index.html

この記事の筆者

関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は料理、美容、健康、ライフスタイルなど、毎日の暮らしにまつわるなにげないこと。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。趣味は、食べ歩きとミュージアム巡り。

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