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2018/07/13 up

食の力を信じて自分らしく生きる――食養生研究家・塚本紗代子さんが伝えたいこと 

text by 関紋加

撮影=小野奈那子

人を良くすると書いて、「食」。さまざまな選択肢がある中で、日々どんな食べものを口にするのか。それは、私たちの身体はもちろん、心にも影響を与えるように思います。

それぞれの土地や気候、季節に寄り添った食べものをいただくことが、自分らしく健やかな日々に繋がっていく。そんな考えのもと活動しているのが、食養生研究家の塚本紗代子さんです。日ごろの仕事内容や食を通して伝えていきたいことについてお聞きしました。

無理なダイエット経験から学んだ、健康のありかた

――塚本さんが食に興味をもったきっかけを教えてください。

子どもの頃から料理もお菓子作りも、それを食べてもらって喜んでもらうことも好きでした。幼少期の写真を見返すとキッチンで親の手伝いをしている写真がいっぱいあります(笑)。

海と林に囲まれた静岡の田舎育ちで、小学校にはグラウンドほどの広さの畑があったんです。クラスごとに野菜を育てて、収穫して。「青空市場」という名前で採れた野菜を地域の人たちに販売したり、自分たちでメニューを決めて親と調理をしたりする授業がありました。

――自然と食が身近な環境だったのですね。昔から将来の夢は料理家だったのでしょうか?

いえ、高校生までは獣医になりたいと思っていました。でも、17歳の頃に炭水化物を一切摂らない無理なダイエットで減量したことで「食べたら太る」という恐怖感にかられて拒食症のような状態になってしまって……。生理がとまり、婦人科で処方される薬を服用していたのですが、自分の身体を薬でコントロールすることに違和感を持ちました。自分の力で改善したい、と思ったんです。

――なるほど。ご自身の経験がターニングポイントとなったのですね。

そうですね。大学進学を機に上京した際、「中美恵のキレイになるマクロビ教室 食べるエステ」という本と出合ったのも大きなきっかけになりました。この本はマクロビオティックを紹介する内容で、中先生が表参道で料理教室を開かれていると知ってすぐに通い始めました。それまで、独学で栄養学を勉強していたのですが、先生に教わることは自分の経験として実感することも多く、納得できましたから。

――どういったことを実感されたのでしょうか?

干し芋が大好きで、当時毎日のように食べていたんですね。砂糖を使ってなくてヘルシーなおやつくらいに思っていたのですが、いつもお腹が張っているし、気持ちもどこか後ろ向きというか、ちょっとしたことでくよくよしがちで。

中先生に話したら、「それは干し芋の食べ過ぎよ」と。そんなことで解決するの? と驚いたら(笑)、「食物繊維が豊富だけど食べ過ぎると腸の動きを妨げてしまうし、マクロビの観点からすると芋類は陰性の食材だから、気分が落ち込みやすくなるのよ」と説明してもらったんです。言われた通りにやってみると、体調がよくなりました。

 

▲自家製梅シロップのドリンクをいただきました

――食がダイレクトに身体と心に影響することを経験されたんですね。

はい。もちろん、西洋医学を否定するつもりは全くありません。でも、たとえば生理がこないという現象に対して、薬を使ってアプローチすることはできるのですが、そもそもなぜ止まってしまったのかまでを考えることができません。それだとまた同じような状態になってしまう恐れがあります。

私は根本的な解決を目指したくて、それがマクロビや食養ならばできると思いました。本当の健康は、楽しいや幸せという感情もついてきて、身体も心も満たされていることだと考えるようになったんです。

――確かに心身のバランスがとれていることは大切ですよね。そういった考えも中先生から教わったのですか?

先生は「食養生は家庭料理からできる」と教えてくださって、その考えに共感しました。お金をかけず、病院に行く必要もなく、ちょっとした知識と知恵があるだけで豊かに暮らせるならば、私もこれを必要としている人たちに伝えたい。就職活動が始まる前くらいから、そんなことを考えるようになりましたね。

営業と販売の仕事を経て、食の道へ

――では、就職活動は食関係の仕事を目標にしていたのでしょうか?

ゆくゆくはフリーランスの栄養コンサルタントのような働き方をしたいと考えていたので、まずはコミュ二ケーション能力や人脈、お金の知識が必要だと考え、大学生の頃からインターンをしていたベンチャー企業に新卒入社しました。働く女性に向けてビジネス&カルチャースクールを提供している会社で、インターンを含めると4年間ほど勤めたことで、求めていたスキルを学ぶことができました。ただ、毎日のように終電まで働き、倒れるように寝て、リラックスする時間が全くない生活だったので、私自身が体調を崩してしまったんです。

――そうだったのですね。体調はすぐに回復されたのですか?

過労やストレスで後天性アトピーになってしまったんです。中先生を訪れたら外食ばかりの生活を指摘され、それを改善したところアトピーが改善されました。

――またも中先生のもとで食の力を実感したのですね。

はい。働く女性の大変さも身をもって体験したので、癒しを与えるオーガニックなものをもっと知りたいと考えるようになりました。これをきっかけに、ナチュラル&オーガニックコスメを取り扱うブランドの販売員に転職し、同時にお休みの日を中先生のアシスタント業を行うことになったんです。

――販売員というお仕事を選択されたのは、ちょっと意外でした。

そうですよね。ただ、接客ではコスメの成分でおすすめするのではなくて、今まで自分が勉強してきた食と照らし合わせながら提案をしていました。というのも、お客さまのライフスタイルを聞いてみると、当然そうなるよねということが多かったからなんです。たとえば、ニキビに悩んで化粧品を探しにくるけれど、話を聞いていると乳製品を摂りすぎていたり。そのうちお客さまだけでなく、お店のスタッフも食について知りたいと言ってくれるようになって、毎月フリーペーパーも作るようになりました。

――確かにコスメを買いに行って、そういったアドバイスをもらえるのはうれしいですね。

やっぱり自分の強みは食なんだな、と思いましたね。そんなときに、中先生のもとにマクロビのメソッドを取り入れたカフェをプロデュースしないかという話が舞い込んで、やってみたいと手を上げました。きっと自分のキャリアのプラスになるだろうと思って。

――またしても新たな挑戦ですね!

どういう人がお店に来てほしいかというマーケティングから、メニュー考案、金額設定まで、もっと細かいことをいうと、ネット回線の申し込みや備品調達、業者とのやりとりなど、やることが多すぎてもう大忙しでしたね。

カフェの売上は、平日のランチタイムが勝負所です。立地的に受け入れられるランチ価格は800円で、ドリンクを付けて1,000円。ただ、それだと40人でやっと40,000円です。これだけでは採算が合わないと考え、ファッション誌の撮影現場へのケータリングを始め、土日はワークショップを行うことで集客を広げ、売上を伸ばしていきました。私自身もワークショップで講師をするのが楽しくて、その気づきが独立のきっかけにもなりましたね。ここを起点に、フリーランスとしてのキャリアをスタートしました。

初期投資は引っ越しを含めて約80万円!

――フリーランスになるために、ある程度の蓄えを準備していたのでしょうか?

正直ありませんでしたが、まずは作業のできる拠点が必要だと考え、すぐに物件を探して今のアトリエキッチンに引っ越しました。あとは、食器や調理器具、テーブルなど必要最低限の準備に80万円ほど使いましたね。

最初の出費が大きくなっても、私がやりたかった仕事にはいつでも使えるキッチンが必要でした。レンタルキッチンは安くても1時間4,000円~という場所が多いですし、使いたいタイミングで使えるとは限りません。公共施設のキッチンを借りる人もいますが、食材を運ぶだけで時間も労力もかかります。私は固定費がかかってもゆとりをもって料理に取り組める環境を選びました。

――現在は、具体的にどんな仕事をされていますか?

定期開催の料理教室と、業務委託で保育園の給食メニューを監修するお仕事がメインです。ただ、収入の比率としてこれが大きなウエイトを占めるかというと、そうとは言い切れません。一定の収入確保だけでなく、自分が強い関心をもっている「人に伝える」「食育」にチャレンジする場をいただいている感覚ですね。

これにプラスして、これまでの経験を生かせるケータリングや飲食店プロデュース、レシピ提供なども行っています。また、Girls Farmer’s Marketという日本の伝統や食を伝える活動に参加したり、毎週土日に東京・青山で開催しているFarmer’s Market @UNUのイベントに企画・運営として関わったりしています。

▲塚本さんのInstagramより。ケータリングメニューは栄養も彩りもバランス良く

――1カ月の平均売上はどれくらいでしょうか? また経費はどのようなものを計上していますか?

平均売上は30万円くらいだと思います。経費は売上の大部分を占めていますね。食材費全般、ケータリングやレッスンで使う資材や備品類、アトリエ家賃、光熱費などの固定費、打ち合わせや外食なども交際費や勉強代として計上しています。知識を偏らせないためにも食文化の歴史を学ぶ講座受講費や書籍はおしまず投資します。

――固定の仕事以外で、報酬の設定や心がけているルールはありますか?

委託されたイベントでは、売上の何割かをいただく場合もありますし、場所代をこちらが負担して売上をすべていただくケースもあります。レシピ提供は1レシピ8,000円くらいが相場ですね。材料費は別途いただくこともあります。

ケータリングは飲食業界でよく言われる「3331の法則」で、梱包を含めた食費原価が3割、人件費と場所代が各3割、そして残りの1割が利益です。私の場合は、ひとりでアトリエキッチンで作業できるので人件費と場所代を押えられるのが強みですね。

――食って身近だからこそ、いろんなアプローチができますね。塚本さんが仕事を通して実現したいことは何ですか?

ものを大切にしたり家族の絆がつながったりするような、スローダウンした暮らしができる世の中になってほしいです。自然の循環を大切にして、人にも自分にも寄り添ってほしい。そんな願いから自身で立ち上げたのが衣・食・住の3つを軸にワークショップなどを行う「tumugiLAB」です。

野菜を選ぶにしてもこの生産者さんだから買いたい、洗剤も肌や地球環境に優しいから使いたいという基準をもつ人が増えてくれたら、企業はそういうものを作り始めるでしょう。そんな価値観をもっと広げていくためにも、私の知識や情報をダイレクトに提供することができるとしたら、それが今は料理教室なんです。

――お話を伺って、あくまで料理は塚本さんが描くビジョンを実現する一つの手段なんだなと感じました。

本当の理想は、自然と都会のバランスがほどよい地域へ移住し、庭でいっぱい薬草を育てて、近所の人がなにか不調を抱えたときに駆け込めるような場所を作ることなんです(笑)。今はいろいろなことに挑戦していますが、いつか全部つながるようになると思っています。

 

(取材・文:関紋加 編集:ノオト)

取材協力

塚本紗代子さん

フードディレクター・食養生研究家。10代の頃に無理なダイエットから摂食障害を経験し、食や健康に対して本当の知識を得るため探究していく中でマクロビオティックに出合い、中美恵先生に師事。2017年4月に独立。現在は、暮らしのレシピ研究所"tumugiLAB"を立ち上げ、アトリエにて料理教室やワークショップを開催する。食養の考えや自然のリズムを意識した、身体と心を整える家庭料理を中心に、レシピ提供や商品開発、飲食店や保育園給食のプロデュース、イベントのディレクションなど幅広く活躍中。

tumugiLAB:
http://tu-mu-gi.jp/

Instagram :
https://www.instagram.com/tuka34/

この記事の筆者

関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は料理、美容、健康、ライフスタイルなど、毎日の暮らしにまつわるなにげないこと。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。趣味は、食べ歩きとミュージアム巡り。

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