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2018/06/15 up

投げ銭で生きていく! 「お金をかけず好きなことだけして暮らす」曲芸師・縁さん

text by 末吉陽子

撮影=小野奈那子

駅前や公園など、ふとした場所で見かける大道芸。室町時代の絵巻に大道芸人が描かれるなど、日本でも古い歴史を持つエンターテインメントのひとつ。いまではジャグリングやパントマイム、アクロバット、マジックなど多様な芸が披露されています。

観る人を笑顔にする大道芸人ですが、その生計はというと、芸事を賞賛する意味を込めて金銭を渡す「投げ銭」で成り立つケースがほとんど。つまり、収入が非常に不安定な仕事の部類に入るといえます。

写真提供/縁さん

この大道芸をなりわいに、16年間にわたり曲芸師として活動しているのが縁(えにし)さん。迫力たっぷりのパフォーマンスや軽快なトークで、道行く人の足を止める実力派です。芸の道で生きていく大変さ、楽しさについて聞きました。

大道芸との偶然の出合いがその後の人生を変えた

――これまで5,000回以上のパフォーマンス実績をお持ちの縁さん。ジャグリングや一輪車など多彩な芸で観客を惹きつけていらっしゃいます。大道芸の道に進むことになった経緯から伺えますか?

僕は奈良県出身なのですが、もともと映画と映像の勉強をしたくて、東京の専門学校に入学しました。卒業後は、1年間くらい大道具のアルバイトをしたり、8ミリのフィルムカメラで映画を撮ったり。大道芸を始めるきっかけは、ちょうど1998年頃でしょうか。偶然、新宿で大道芸を目にしたんですよね。で、自分にもできるんじゃないかなって。

――ちなみに、それまで芸事のご経験は?

いや、特にないですね。ただ、大道芸って面白いなと思ったので、ちょっと練習してみようかなと。

――それから独学で?

そうですね。すぐに路上に出ても技術的に見せられるレベルではないので、アルバイトをしながら2年間くらい練習を重ねました。

――その頃は、大道芸で食べていこうと考えていらっしゃったのでしょうか?

いや、そのときは映画制作で食べていきたいって思っていましたよ。でも就職がうまくいかなくて、お金もないですからね、自然と大道芸にシフトしていきました。

――でも、大道芸は稼ぐのが大変そうなイメージが……。

毎日やれば多少は稼げます。食べていくだけなら何とかなるかな、と。ただ、実際やってみて、そうはうまくいきませんでしたけどね。

――うまく稼げなかったのは、何が理由だったのでしょうか?

まず、天気に左右されます。雨が降ったらできないので、梅雨のシーズンはかなり厳しいですし、夏も暑すぎて人が集まらないとか。前提となる環境条件が整わないと、そもそもパフォーマンスができないんです。

――なるほど。確かに大道芸は環境ありきですよね。場所選びはどうですか? お客さんを集めやすい場所の見極めも難しそうですが。

私が大道芸を始めたばかりの頃は許可がいらなかったので、いろいろな場所を試せましたが、いまは許可が必要なので大変にはなりました。でも、井の頭公園など、人が多い公園は比較的集めやすいと思います。

リーマンショック以降減る「投げ銭」。不安は絶えないものの、楽しさが上回る

――ちなみに、大道芸をはじめた当初といまを比べると、どれくらい収入は変わりましたか?

若い頃はもうちょっとよかったんですけど、年齢を重ねるにつれてどんどん悪くなっていますね。全盛期の半分くらいかもしれないです。

――ん? 経験値が増えると投げ銭も増えそうなイメージでした。

いや、下がると思いますよ。若いから応援したくなるんじゃないですかね。とどのつまり、お客さんがパフォーマーのことを好きになれるかどうかじゃないかなと。あと、別軸の話ですが、リーマンショック以降、厳しいなぁと思いますね。おそらく皆さん収入が下がっているので、投げ銭しようと思わないのかも。どこでパフォーマンスしても、投げ銭してくれるのは外国人ばかりですから。

――なるほど。聞けば聞くほど、仕事として成り立たせるのはやっぱり大変そう……。縁さんが大道芸で食べていけると確信したのはいつ頃ですか?

最初は、お客さんの足を止めることが全然できなかったんですけど、路上に出て4カ月くらい経った頃から、投げ銭の額が安定しました。でも、収入はいまも大したことがないので、常に不安はありますね。

――不安がありながら16年間続けてこられたのは、やりがいがあるからですか?

やりがいというか、楽しいからですかね。ほかの仕事をして同じくらいの収入なら、好きなことをしている方がいいですから。いまは週2日練習、土日祝日はパフォーマンスといったスケジュールで、悠々自適な生活。収入や活動の範囲は、まだまだ満足はしてないですけど、映画を観たり、絵を描いたり、好きなことをして暮らしています。

大道芸はお客さんとの一体感を創り出す「コミュニケーション芸」

――でも、やっぱり稼ぎの見通しが不透明過ぎると、不安がつきまとって、素直に楽しめなそうなのですが……。

生きていくのに、お金ってそんなに要りますか? 僕、よくタンポポ取ってきて食べるんですけどね。あく抜きに結構時間が掛かりますが(笑)。お金がないならないなりに、生活費を抑えればいいんじゃないかな。

――確かに、おっしゃる通りかもしれません。

ただ、稼げていない若手の芸人は、たくさんいるんです。いくら好きでも20代で稼げないなら、最大の武器である若さを生かしきれていないってことですからね。繰り返しですが、収入は年齢とともに下がっていく一方だから、本当に辞めた方がいいと思いますよ。

――縁さんは若い頃から活躍されていますが、どんなところが他の芸人さんと違うと思われますか?

しゃべりですかね。たぶん一部の人を除いて、ほとんどは技そのものに興味がないと思うんです。それを使って、面白いことを見せてくれるかではないでしょうか。僕は、これまでのパフォーマンスでしゃべった内容でウケがいいものや、日常生活で笑えたネタを指し込んでいます。あと、しゃべり以外でもパフォーマンス中に偶然ネタができあがることも。

たとえば、一輪車の上から観覧者にお願いしてアイテムを手渡ししてもらう芸のとき、たまたま恋人つなぎになってしまったんですが、それがとてもウケたので、それを機にずっとやるようになったんです。芸はもとより、割と小ネタを計算しているかもしれません。

――「ウケた経験」の積み重ねがモチベーションに?

そうですね。人がたくさん集まって拍手をもらえる経験は普通ないので、それを1回味わうと、なかなかやめられないですよね。うれしさよりも、「勝った!」って感じですかね(笑)。

大道芸ってお客さんとの勝負なんです。皆さんが盛り上がってくれて一体感を創れたら、こっちの勝ち。大道芸というコミュニケーションをベースに、どれだけ一体感を演出できるかどうかの芸事だと思います。

写真提供/縁さん

――ほかにこだわっていることはありますか?

パフォーマンスの構成でしょうか。始まり~中間~終わりの流れを、なるべく途切れさせないように考えています。全体が自然につながっている感じじゃないと、途中でお客さんが帰っちゃうので。

こうして話しているとあらためて思いますが、やっぱり技のスゴさは、あまり関係ないかな。新技を練習していますが、それはできないものができるようになるのが楽しいのと、芸の選択肢が増えるととっさのときに役に立つ、くらいの動機です。

――縁さんの潔い生きざまに刺激を受けました。これからの目標はありますか?

うーん、目標らしい目標はないかな。強いて言うなら、大きなイベントに出たいくらいですかね。大道芸でも、舞台でも何でもいいんですけど。結局、芸事が好きなので、それを利用して生活ができればいいかなと思っています。

 

(取材・文:末吉陽子 編集:ノオト)

 

取材協力

縁さん

奈良県五條市出身。新宿で大道芸をみて独学で練習を開始。2001年頃に、路上パフォーマンスをはじめ、2002年には「東京都ヘブンアーティスト」を取得。それ以降、祭り、企業イベント、ミュージシャンとのコラボ、PV出演、海外公演など活動の幅を広げる。

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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