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2018/05/25 up

「物語の世界を整えて作品をより良い形で届ける」 SF考証の仕事とは

text by 松尾奈々絵

映画やアニメなど、映像作品で必ず流れるスタッフロール。監督や声優、俳優などはわかりやすいですが、中には「具体的にどんな仕事をしているんだろう?」と疑問に思う肩書きも。

今回はSF作品には特に欠かせない「SF考証」の仕事内容に迫ります。『ゼーガペインADP』や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』などで「SF考証・設定」を担当する高島雄哉さんに、どんなお仕事をされているのか、考証にかかるお金のあれこれなどお話を伺いました。

どうしたら作品がより面白くなるのかを考える

――高島さんは日本でも数少ないと言われるSF考証の仕事をされていると聞きました。そもそもSF考証とは、どんなことをするのでしょうか。

人によって仕事の範囲は異なりますが、僕の仕事は大きく分けて2種類です。1つは監督やプロデューサー、デザイナーさんなどと集まる打ち合わせでの仕事。作品の時代背景はいつなのか、ロボットの機能にどんなものが備わっているのかなど、アイデアを出し合います。キャラクターや脚本、美術設定など、テーマごとに参加する人も変わりますが、SF考証はほとんどの現場に関係するので、それら多くの会議に参加していますね。

もう1つはひとりで考えたり調べたりする案件です。たとえば登場人物や新しい兵器のネーミングですね。ありきたりな名前にすると飽きられてしまうので、最先端の科学用語をヒントにすることもあれば、神話や映画から持ってくることもあります。

ガンダム作品の場合、NASAでかつて研究されていたエンジンから現在の最新のものまで、歴史的にも幅広く検討しています。こういう調べものの案件では、ネットで論文を読んだり、大学時代のつてを使って専門家に話を聞きに行ったり、場合によってはJAXAや自衛隊に取材に行くこともあります。

――非現実な物語世界の設定となると、とっかかりとしてどこから考えていくものなのでしょうか。

テレビ番組の『タイムスクープハンター』を手掛けている中尾浩之さん、窪之内英策さん、出雲重機たちと進めているオリジナル企画『ブルバスター 』では、“経済的に正しいロボットヒーロー物語”というテーマで企画を作りました。民間会社が巨獣を駆除する設定で、僕は駆除にかかる人件費や巨獣発生のメカニズム、ロボットの操縦法などを考えています。

たとえば、物語に登場するロボット「ブルバスター」を運用する費用はどう設定していったのかと言うと、作品上のロボットはクレーンやショベルカー、ブルドーザーがモデルになっているため、まずはブルドーザーを1日にレンタルするのに、いくらかかるのかを調べました。すると、意外と1日数万円で借りられるようだと。ロボットが一般的になった社会を描く作品なので、運用費が何百万、何千万になると作品イメージから離れてしまいます。そこから具体的に運搬経費や銃弾などの装備費用、本体整備費などを考えていき、資料では55万7,000円と計算しました。数字によって作品の世界観を見せるという、SF設定らしい仕事ですね。

『ブルバスター 』の設定資料集

――情報を集めて形にするお仕事なのですね。私がなんとなく抱いていた「考証」という仕事のイメージとは異なります。

SF考証というと、SFや科学的な部分の「間違い」を訂正する仕事だと勘違いされやすいのですが、それはSF考証の役割のほんの一部に過ぎません。たとえば、監督が「作品にタイムマシーンを出したい」と言ったとき、アイデアそのものを否定することは基本的にありません。どうしたら作品がより面白くなるのか、深みや広がりが出るのかをスタッフ全員で考えていくことがほとんどです。

そういう中で、SFや科学上の矛盾やわかりにくいところが出てくれば、もちろんSF考証として訂正しますし、その矛盾を活かしてもっと面白くできるんじゃないかと考えることも。作品を見ていて「あれ? こんなことある?」と気になるところが出てきてしまうと、そこが気になってしまい、ストーリーに集中できなくなるじゃないですか。その違和感をなくして作品により深く入っていただくためにどうすればいいのを考える仕事ともいえますね。

――SF考証というのは1つの作品にじっくり関わるイメージですが、同時並行的に複数の仕事に携わることはあるのでしょうか?

はい。まだ公開できないので具体的なタイトルは言えませんが、今はアニメや漫画、映画、エッセイ、ゲームなどSF考証の仕事を5~6本同時に担当しています。1本につき、だいたい月3回くらい打ち合わせをしています。時間はまちまちで、15時から23時くらいまでずっと話していることもありますね。それぞれの作品は、1年からそれ以上の期間ずっと担当します。

あと、今回はSF考証としてインタビューを受けていますが、僕は本業が小説家で、現在2本の連載を持っています。それぞれどれくらいの時間を割くかは厳密に考えていませんが、基本的にはパソコンをカタカタ鳴らしていつのまにか寝落ちする毎日です(笑)。ただ土日は妻と映画を見に行くなどリフレッシュも必要なので、基本的に平日のみ働くようにしています。

(C)創通・サンライズ
高島さんのお仕事の一つ。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』は全国35館で上映中

資料代も取材費も自分次第! SF考証のギャラはどう決まる?

――収入はSF考証と小説、それぞれどのような割合でしょうか?

月によってまちまちですが、どちらも最近は安定してきています。SF考証は1本の作品で1カ月5万円から、もう少しもらっている企画もあります。SF考証も人によって仕事の範囲は変わってくるので、ギャランティは人によって全然違います。支払いは月単位のこともあれば、まとめて支払われることもありますね。

文筆業は、サンライズのWebサイト矢立文庫で戦争SF『WAR TIME SHOW戦場のエクエス』を、東京創元社Webミステリーズ!で取材エッセイ『想像力のパルタージュ』を連載しています。収入の割合でいうと半々くらいでしょうか。また「今回は脚本だけでなく絵コンテのチェックもお願いします」と、担当する領域が広がるとギャラが上がることもありますね。

――仕事でかかる支出についても教えてください。

支出は、参考資料や取材にどれくらいお金をかけるかで決まります。僕は自分の小説の資料にもなるので、ついでにこれも、という感じで、割合は特に決めていません。ただ、調査にかかるお金はギャランティの中からまかなっているので、さすがにギャラ以上は使わないように心がけています(笑)。

東大・藝大を卒業して10年。35歳の小説家デビューがいまの仕事のきっかけ

――そもそも高島さんがSF考証の仕事を始めたきっかけを教えてください。

取材エッセイで、AI研究者の三宅陽一郎さんにインタビューしたことがきっかけです。三宅さんから『ゼーガペイン』の原作者・ハタイケヒロユキさんをご紹介いただき、『ゼーガペインADP』のスタッフとして声をかけてもらいました。

――仕事が仕事に繋がっていて、かなり順調な足取りですね。

ありがたいことにそんな感じですね。とはいえ20歳のときに小説家になろうと思って、小説で賞をいただいてデビューしたのが35歳。そろそろ辞めようと思っていた頃だったんですよ。それまでは、家庭教師とか塾講師とか結婚式場のカメラマンをしていました。

――プロフィールに東京大学理学部物理学科卒とありながら、東京藝術大学美術学部芸術学科卒でもあるという経歴に驚きました。

物理学科には宇宙のことが知りたくて進学しました。東京藝術大学に再入学したのは、小説を広く芸術として捉えたかったからです。こちらでも主に芸術の理論を学びました。どちらの大学の友人たちも、その道の専門家になった人が多く、知りたいことがあるたび色々聞いています。科学と芸術という全然違う世界に行けたのも良い経験でした。

――当時はSF考証にも携わるのは、考えていなかったですよね。SF考証の仕事を始めて、戸惑いはありませんでしたか?

子どもの頃から映画が好きで、映画のスタッフロールでSF考証の存在自体は知っていたんですよね。ずっと憧れていた仕事だったので、ゼーガペインの設定の仕事をいただいたときには純粋にうれしかったです。多くのことを教えていただきつつ、精一杯やりました。

以来、『ガンダム』他、色々な作品に声をかけていただいています。僕の小説や担当した作品を見て、最新の科学を作品に取り入れたい、と依頼されるケースが一番多いです。

――仕事で「考証」と「演出」などそれぞれの意見でもめることはありますか?

意見が対立することはもちろんあります。それぞれの立場で大切にしたいことがありますし、SFについても、みんな一人一人に好きなSFの方向性があるんですよね。僕は結構どんなSFでも面白がるので、決裂するようなことはないですね。みんなの意見が反映されるような、大きい世界観設定を目指しつつ細部を調整します。

――人間関係が何より大切なのですね。最後に今後の展望を教えてください。

映像作品ではどんなに複雑な設定でも、セリフで説明できることは限られていて、パッとわかるビジュアルで見せる必要があります。文字表現ではないメディアに接するのは非常に面白いし、勉強になります。これまで関わったことがないような作品にも今後も積極的に参加したいですね。あとは作品によっては、科学に加えて今後はアート系の世界設定も提案して、作品に取り入れてもらえるようになれたらいいなと思います。

小説家としては、僕の作品が原作となり、映像化したらうれしいです。そのときはぜひSF考証は僕以外の人にお願いして、意見を交わしたいですね。

(取材:松尾奈々絵/ノオト 編集:ノオト)

 

取材協力

高島雄哉さん

作家。東京大学理学部物理学科卒、東京藝術大学美術学部芸術学科卒。2014年、「ランドスケープと夏の定理」で第5回創元SF短編賞受賞(Kindle等で電子書籍化)。同年、「わたしを数える」で第1回星新一賞入選(『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』所収)。SFマガジンcakes版にて『世界を設定する』、サンライズWebサイト矢立文庫にて『エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部』を連載。現在は、Webミステリーズ!にて取材エッセイ『想像力のパルタージュ』矢立文庫にて戦争SF『WAR TIME SHOW戦場のエクエス』を連載中。設定考証として、『ゼーガペインADP』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』『ブルバスター』などを担当。TwitterID:@7u7a_TAKASHIMA

この記事の筆者

松尾

松尾奈々絵
有限会社ノオトの編集者・ライター。品川圏域のニュースを届ける「品川経済新聞」や仕事が楽しくなるための情報サイト「はたラボ」を担当。ビールを飲みながらの野球観戦がなによりの楽しみ。

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