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2018/03/02 up

「個人でネットショップは太平洋に針を落とすようなもの」雑貨店店主が実店舗を開業して気づいたネットとリアルの違い

text by 皆本かおり

ラブディエン

撮影=南澤悠佳/ノオト

「自宅のパソコンで、誰でも気軽に始められる」――。そんなイメージのあるネットショップ。最近では副業の一つとしても人気です。でも、始めるには何が必要? 収益はどのくらい? それだけで食べていけるの? とわからないことだらけ。

今回は、東欧雑貨のネットショップを開業後、東急目黒線「不動前」駅近くに実店舗をオープンした「Labdien(ラブディエン)」のオーナー・横川雅子さんにお話を伺いました。

「世の中の女性を幸せにしたい」。東欧雑貨のネットショップを開業

――ネットショップをオープンされたきっかけを教えてください。

この仕事を始める前までは、印刷会社に10年勤め、ディレクターをしていました。忙しい日々を送るなかで、あるとき「この仕事はいったい誰を幸せにしているのだろう?」と疑問が浮かんだんです。

私は自分が関わる仕事の知名度や金額の大きさよりも、人からの「ありがとう」という言葉に充実感を覚えることが多く、自分の仕事が誰かを幸せにしているという実感がほしかったんです。特に、男性も女性も関係ない職場で働いていて、現代社会で厳しい状況にある女性を幸せにしたいという想いが強くなっていました。

なので、ちょうど勤続10年という区切りを迎えたことを機に、ずっとやりたかった雑貨屋を始めようと決め、2013年に退職しました。その後は、2014年1月に開業届を提出、4月にネットショップをオープンという流れですね。

ラブディエン

――ネットショップを始めるにあたって、どんな準備をされましたか?

開業資金として、個人資金で300万円を用意しました。開業のために貯めたというよりは、会社を辞めるにあたってちょっとずつ貯めていたという感じです。

一番お金を使ったのは、商品の仕入れ。もともと海外の雑貨が好きだったので会社員時代からちょこちょこ集めてはいましたが、退職後にリトアニアを中心とした東欧を巡り、初めてちゃんと買い付けをしました。

帰国後、開業届を提出してから開業までの3カ月は、ひたすら商品の写真撮影やサイトの作成をしていましたね。幸い、前職の経験からディレクションとデザインは多少できるので、コーディングやイラストの書き起こしを外部にお願いしました。知り合いの方にお願いできたのもあって、支払う制作費は10~15万円と、比較的安く抑えられたと思います。

ラブディエン

ネット広告に10万円かけても、売り上げに大きな変化がない……

――ネットショップを始めてみて、売り上げはどうでしたか?

これが全然、売れなかったんです! もう本当に、ナメてました(苦笑)。そもそもネットショップを始めた理由って、「対面の接客は難しそうだけど、ネットで売るなら私にもできるんじゃないか」って思ったからなんですよね。「ネットショップは誰でも簡単に始めらますよ」「タダで気軽にできますよ」っていう、よくあるうたい文句を鵜呑みにして。でも実際に始めてみたら、「そんなことあるわけがない!」と。

個人でネットショップを始めるのって、太平洋に針を落とすようなもの。まずサイトを見つけてもらわないことには売れません。オープン当初はネット広告も出すといいですよ、と言われて出したこともありますが、10万円かけても売り上げがあがるなんてこともまったくなく……。個人事業主なので、経費はすべて生活費に直結してるじゃないですか。開業資金の300万円なんてあっという間に底をついてしまいました。

――売り上げがほとんどない状態で、どうやって生計を立てていたのでしょうか?

しばらくはフリーや派遣でディレクターの仕事を掛け持ちして、その収入で生活費と、事務所兼倉庫の家賃や仕入れ費といった店の運転資金をまかなっていました。小売業って、とにかく仕入れにお金がかかるんです。月に100万円使うこともザラだし、自分への給料なんてないに等しい状態。一番しんどい時期でしたね。

ちょうどこの頃、武蔵小山創業支援センターの方から、「横川さんが会社員時代と同じくらいの生活水準を求めるなら、年間3,000万円の売り上げが必要だよ」と言われて……。月100万円とかで大騒ぎしている場合じゃないなとハッと気づかされました。

ラブディエン

定期的なイベント出店と高単価商品の導入で、売り上げ増に

――何か営業活動や売り上げ対策はされていたのでしょうか?

開業して一年くらい経ち、売り上げがあがらず「もう辞めようか……」なんて悩んでいた頃、代理店の方から「百貨店にイベント出店してみない?」とお誘いいただいて出てみたんです。そうしたら、ネットよりはるかに商品が売れたんですよ。それがきっかけで、宣伝も兼ねて積極的にイベント出店をするようになりました。

――イベントではどのくらいの売り上げがあったのでしょうか?

会場によってまちまちですが、一日3万円くらいのときもあれば、30万円くらいのときもありました。それぞれに出店料がかかるのですが、それも一日1,000円から2万円くらいと幅があります。百貨店だと、売り上げの25~40%を出店料として引かれちゃうこともありますね。

そうすると、全然利益が出なくて……。商品は売れるんだけど、収支的にはマイナスということがほとんど。宣伝費ととらえるにしても厳しい……、小売業って本当に大変なんだなと思い、同じイベントに出店していた同業の方に話を聞くうち、自分の致命的なミスに気がついたんです。

雑貨

――と、いいますと?

なんせ小売も輸入も初めてで、値付けのことすらちゃんとわかっていなかったんです。小売業の掛け率って、一般的には3~6掛けという感じだと思うんです。それなのに、私は「このくらいでいいのかな?」という感じで、何の根拠もなくだいたい7掛けで売っていたんですよ。つまり700円で仕入れたものを1,000円で売って、利益は300円。そこから出店料を差し引いたら完全にマイナスです(苦笑)。そりゃ儲かるはずもないですよね。それに気づくまで2年かかりました(苦笑)。

――イベント出店はいい機会だったんですね。

ネットショップって、商品写真を何枚も撮って、素材から使い心地、サイズにいたるまで、細かく説明する努力が必要ですよね。それって、パソコンに向かってコツコツ行うかなり地道な作業。一日中、誰とも話さない日が続くこともあります。これが私にはあまり向いていなかった。

その点、まず商品を手にとって実際に見てもらえば、その良さや魅力が一瞬で伝わります。そして、特性や使い方をしっかり説明することで納得して買っていただくことにつながるし、私自身、お客さまと直接お話しするのが楽しかったんです。

リネン

――接客が苦手だと思っていたけれど、実は向いていたんですね。

そうなんです。ネットだけではわからない、リアルなコミュニケーションから得られるものってたくさんあって。接客が意外と嫌いじゃないということに気づけたのは大きかったですね。

お客さまのリアルな反応を見ることで、売れ筋がちょっとずつわかってきたこともよかったです。いまでは主力商品になっているリトアニアリネンのお洋服。最初は弱気に5着くらいしか仕入れていなかったのですが、ある百貨店でのイベントでこのリネンを販売したときに、同じ会場にいた出店者さんから絶賛されたんです。同業の方からこんなに評価が高いなら、売れるのかも? と、自信につながりました。

――売り上げが軌道に乗ってきたのは、この頃くらいからですか?

そうですね。リネンのお洋服という高単価の売れ筋を持てたことも、お店としてやっていけるかもと思った要因の一つです。雑貨屋って、基本的に商品単価が低い。一つ数百円の商品を何百個、何千個と毎日売り続けるのは大変ですが、高単価商品が一つ売れれば、その日はホッとします。

ラブディエン

売り上げ目標は月30万円から100万円に

――実店舗オープンに踏み切ったきっかけは何だったのでしょうか。

対面販売が楽しいと気付いてから、3年めくらいには実店舗を持ちたいとは考えていました。イベント出店も毎回の設営が大変だし、出店料だけで月に何十万と払うこともあったので、それだったら思い切って店舗を作っちゃおうと。

――実店舗をオープンするにあたり、改めて準備したことは何ですか?

実は物件が決まったタイミングではお金が全然なくて、店舗を借りる初期費用や内装費として200万円を借りました 。

かかった費用としては、店舗の賃貸契約料が一番大きい出費で、あとは什器の購入費、在庫も少し増やしたので、その仕入れ費。内装は大工さんに入っていただきましたが、知人にお願いできたこともあり、かなり安い金額でしていただきました。

――売り上げ目標は、ネットショップ時とどのくらい変わりましたか?

ネットショップだけの頃は月30万円くらいが売り上げ目標で、いまの実績もそのくらいです。本当はネットだけで月50万円の売り上げが欲しいところですが、そのためには実店舗と同じくらいお金と労力をかけることが必要になりますね。現状では、一人ではとても無理です。

実店舗のほうはオープンして間もないので、まだ何とも言えませんが、ネットと実店舗、あとうちは卸もしているので、その3つの売り上げを合わせて月100万円が当面の目標です。ちなみに小売業は2月と8月が売れないというセオリーがあるのですが、オープン翌々月にその洗礼をきっちり受けました(苦笑)。

雑貨

――イベント出店期間中はお店を閉められていますが、それはマイナス要素にはなりませんか?

もちろんリスクではありますが、店舗に閉じこもっているよりどんどん外に出ていったほうが、勉強にもなるし、必ず新しい出会いがあるし、最終的には売り上げアップにつながると感じています。

イベント出店のメリットって、やっぱり宣伝効果が大きいことなんです。イベント期間中にインスタのフォロワー数が急増したり、出店先のお客さまが後日実店舗に来てくださったり。先日も、浦和のイベント出店で知り合ったお客さまが、埼玉からわざわざお店まで足を運んでくださったんですよ。

同業の仲間がたくさん増えたことも、イベント出店を続けていてよかったことですね。実店舗のオープニングイベントに協力してもらったり、お互いのお客さまがお店を行き来してくださったり、相乗効果があると思います。ただ、イベント出店が続くとネットショップがますます疎かになる、というデメリットもありますが(苦笑)。

「この人から買いたい」と思ってもらえる店主を目指して

――今後、個人でネットショップやお店を始めたいと考えている人は、どんなことを意識したらよいでしょうか。

実体験からですが、開業から3年くらいは自分のお給料はないと覚悟しておいたほうがいいかな……。いまも「収入」といえるものは正直ありません。それでも、好きなことをできているこの生活の方が、会社員時代よりもストレスがなくて豊かだと思っています。

あとは、どんなお店にしたいのかを自分で認識して、それが第三者に伝わるようにいかに表現するかでしょうか。私にとってはお店は自分の分身みたいなもの。だから自分のキャラクターをどんどん出すことが大事だと思っています。いまの時代、言ってしまえばどこのお店でも同じようなモノが買えてしまいます。いい商品を見つけてくるのも店主の力ですが、まずは「この人から買いたい」って思ってもらうことが重要になってくると思っています。

インスタ

――横川さんは、インスタのコメントが面白いですよね。

最初は誰が見ているかわからないので、変なことを書かないように気をつけていたんです。でも、いまは本音も愚痴も書いて、自分のキャラクターを出しています。それを「面白い」と言ってくださるお客さまもいます。「お腹すいた!」とつぶやいた後に、それを見た近所のお客さまが差し入れを持ってきてくださったことも(笑)。「この人と話したい、会いに行きたい」って思ってもらえるような店主でいたいですね。

ラブディエン

――今後やりたいことはありますか?

イベント出店で知り合った雑貨屋さんと一緒に、「夏はメキシコ」、「クリスマスはスウェーデン」といったシーズンごとの企画を立ててイベントもしたいですね。最初は自分一人でもできると思って始めたネットショップでしたが、いまはいろんな人を巻き込んで、楽しんで続けていけたらと思っています。

(取材・文:皆本かおり 編集:南澤悠佳/ノオト)

取材協力

横川雅子さん

横川雅子さん

大阪府生まれ。大学卒業後、老舗の手芸メーカーに就職。退職後、渡米した際に「IKEA」に出会い、北欧雑貨の魅力を知る。帰国後、印刷会社に勤務しディレクターを務める。2014年にネットショップ「ラブディエン」をオープン。2017年12月、東急目黒線「不動前」駅近くに実店舗をオープン。
http://labdien.jp
Instagram:@labdienmasako

この記事の筆者

皆本かおり

編集者・ライター。カルチャーやライフスタイルの分野を中心に、雑誌・WEB、企業のオウンドメディアにて執筆。ライター業とは別に、セレクトショップの広報も担当している。

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