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2018/01/26 up

書店をもっと多様かつ臨機応変な提案ができる場所にーフリーランス書店員の挑戦

text by 末吉陽子

撮影=林和也

本の発注や売り場づくりなど、本屋のあらゆる仕事に携わる書店員。書店員というと、店舗に所属して働く姿が一般的ですが、新しい働き方のかたちを開拓している人もいます。

現在、フリーランス書店員として活躍する久禮亮太さんは、その第一人者。学生時代から本屋チェーンでアルバイトを始め、その後は店長に。書店員として20年の経験を活かし、現在は書店のコンサルティングや人材育成などを請け負っています。

フリーランスとして書店に携わるようになったきかっけは? どんな仕事をしていて、収入はどれくらい? などなど、気になることを久禮さんに教えてもらいました。

書店員は、お客さまの願望や悩みに間接的に寄り添える仕事

――久禮さんは、大学時代から書店でアルバイトを始めていますが、もともと本がお好きだったんですか?

本の虫というほどではないですが、読書は好きでした。子どものころから、人気のスポットで遊ぶよりは、本屋や図書館が落ち着くタイプでしたね。学生時代に書店でアルバイトをしようと思ったのは、たまたま家から近いバイト先だったから。早稲田にある「あゆみBOOKS」という本屋ですが、品ぞろえも好みのジャンルが多かったので、趣味と実益を兼ねるつもりで働こうと決めました。働いてみると思いのほか面白いなと思いましたね。

――書店員のどんなところが面白いと感じられたのですか?

お客さまの潜在的な願望をくみ取れる接点があるところです。たとえば、「内面や外見にこうしたコンプレックスを抱えている人には、ぜひこの本を読んでもらいたい」と思ったとします。

そんなとき、本のセレクトはもとより、陳列の仕方やポップによって、お客さまがハッとするような瞬間を提案できる、それが書店員ならではの面白さだなと思うんですよね。直接喋るわけじゃなくても、間接的かつ深入りせずにカウンセリングできる仕事というか。

もちろん良書ありきですが、自分の発想の組み合わせ次第で、お客さまに手に取ってもらえて、結果喜んでくれたら世の中の役にも立つなって。

くれさん

機械的に管理される店舗運営……書店はもっと柔軟にそのあり方を変えてもいいのでは?

――アルバイトではなく、社員になられたのはいつ頃だったのでしょう?

働き出してから6年目くらいです。留年していたこともあって、ダラダラしていたんですよね。書店のアルバイト以外にも、ギターとベースを弾いたりスタジオを手伝ったりと、ミュージシャンの真似ごともしていました。

とはいえ、学生時代の友人が正社員でちゃんと働いているのに、このままでいいのかと焦りもありました。それで、縁あって三省堂書店に契約社員として働くことになったんです。

――2003年に「あゆみBOOKS五反田店」の正社員として転職されて、2010年には小石川店の店長も任されながらも、2015年に独立されます。なぜフリーランスに?

独立するまでの4年間は店長として、お店の運営に比較的大きな裁量をあたえてもらっていました。でも、会社の運営体制が変化していく中で、上層部から画一的な棚づくりを要望されることや、現場の実情に合わない数値目標を設定されることも増えてきました。

新刊書店では、発注から納品・売上・返品・在庫・顧客管理まで、あらゆる業務が「POSシステム」のデータによってサポートされるようになってきたんです。もちろんデータは活用の仕方次第では、面白くて売れる品ぞろえをするための強力な武器になります。

ただ、チェーン書店の運営においては、売り上げ上位のものを無難にそろえて、仕入れはこれくらいにして、どの店も同じ商品を同じ場所に置きなさい……というように、”機械的な運営”が安全だと判断をしがちです。

――それが物足りなかったと。

そうですね。僕としては、いち書店員としてもっと能力を高めるチャレンジをしながら、経営側とせめぎあいをしたかったんです。その土地ごとに、お客さまごとに、書店はもっと多様かつ臨機応変な姿でもいいはず。そうすることが、ネット書店やいろんなウェブサービスが充実していくなかで、書店が残っていくための方法だと思っていたので。

でも、それができなさすぎてつまらない……と鬱積していました。店長として4年間勤めてやりきった実感も持てたので、独立の決意に至ったという流れです。

本

独立当初は選書から棚作りまで5万円で引き受けたことも

――フリーランスの書店員として、どのように仕事を広げたのでしょうか?

店長時代に出版社の営業さんといい関係性を築けていたので、そのつながりから「実はこういうことで悩んでいる書店さんがあって手伝ってみませんか」という相談をもらえるようになりました。

品ぞろえや公式サイトの見せ方などについてアドバイスをして、その都度コンサルティング料としてギャラをいただくなど、少しずつ仕事を作っていきました。

ほかにも、ほんのわずかな在庫と書棚を持ち込んでカフェで出張販売するとか、原稿整理やテープ起こし、編集の補助、本の紹介文を執筆するなど、本に関することなら何でもやりました。

――独立当初のコンサルティング料はどれくらいでしたか?

約1,000冊在庫の見直し、リストを作成、提案して、棚作り作業まで含めて5万円くらいでした。何者でもない僕に仕事を振ってくれたのはうれしかったですし、お店にとってもすぐに結果が出るかどうか分からないのにギャラのある仕事を振ってくれたことはありがたかったです。

そこから徐々にスケールアップしていき、たとえばレストランのフロアに2,000冊の本棚を作って、コミュニティスペースにしたいという企画に携わったときは、数十万円の仕事になりました。

神楽坂モノガタリ

――コンサルティングを依頼される書店は、どのようなことを久禮さん期待されているのでしょうか?

独創的なアイデアや、誰も考えつかないような品ぞろえをすることは求められていなくて、オーソドックスな業務の改善を言葉で説明できる部分が評価されていると感じます。僕は、現場からの叩き上げなので、雑務からお客さまとの接し方、店舗の整理から品ぞろえのノウハウなど、細かくて具体的なことを積み上げてきました。

また、書店の仕事について一冊の本を書く機会にも恵まれて、業務全体の仕組みを、今までよりもわかりやすい言葉で伝えることもできるようになってきたと思います。新刊書店の業務は、流通制度や店舗設計がよく出来ていて、何も考えなくても商品が入ってくるという面があります。ちょっと気を抜くとルーティン・ワークをやらされている感じになっちゃう。

目先の作業をやっつけることが第一になってしまって、「なぜこの仕事が必要なのか」「なぜこうすれば売上につながるのか」を、自分の言葉で考える機会がだんだんなくなってしまうんです。なぜこの仕事が必要なのか、逆に必要ないのか、根拠を持って自分で判断するための手伝いが、僕に求められている役割だと思います。

あとは、個人経営の書店は、チェーン店ならではの効率的な仕組みをあまり知らないので、他店のノウハウを伝える橋渡しができるだけでも、役には立てているかなと思います。

――いわゆる管理職的な役割を補っているようなイメージでしょうか。

そうですね。書店は全般的に管理職の人が不在だったり、現場を知っているベテランの人が少なかったりする状況ではあります。そこを補うことが期待されているのかもしれませんね。

久禮亮太さん

収入は年々アップ。とはいえ店長時代にはまだ及ばない

――フリーになられて3年目ですが、収入面はどれくらい変化しましたか?

1年目は生活を支えるほどのお金は稼げず、貯金を食いつぶしていました。収入としては、店長時代1年目の半分に届くかどうかくらいでしたね。2年目からは実績をもとに、コンサル・出張販売・原稿書きの3本柱がそれぞれスケールアップしていきました。

なかには、固定で月額顧問料をお支払いくださる書店さんも。正直、自分の収入をちゃんと整理してないので、正確なところはわかりません。とはいえ店長をしていたときの収入の方が、まだまだ上だと思います。

――現在、東京都新宿区にある「神楽坂モノガタリ」での書店業務一般から、熊本市の長崎書店などで書店員研修も担当しているとか。ご自身の書店を持たれるご予定は?

うーん……、自分の店を持つことに憧れる一方で、今はひとつの店に縛らなくてもいいなという思いもあるんです。

――特定のお店に縛られたくないのには、何か理由が?

店長を辞めたこと自体は勢いでしたし、一軒のお店にこだわって続けたいと、いつも思っています。でも一方で、ひとつのお店、ひとつの会社の中にいたときには気づかなかった問題を俯瞰できる立場というのも、滅多にないチャンスだと思います。

それに、そういう視点からのアドバイスを望んで、お仕事をくださる書店がある以上、今はこのスタイルを結果的に気に入っています。

あと、これも結果的になんですが、僕と妻がフレキシブルに稼ぎも時間も融通しあって生活を組み立てている今のほうが、いろいろな面で勤めのころよりも豊かになったと感じています。

くれさん

お金も時間も大切な資産。だからこそ、いまの働き方がいい

――いまはどのように仕事と家事を分担されているんですか?

ここ2年くらいは、妻と一日交代で仕事をしています。基本的には火・木・土は僕が仕事をして、妻が月・水・金で仕事、日曜はみんなで休むというサイクルです。仕事の日は朝出かけたら夜まで仕事に集中させてもらっているんですが、仕事がない翌日はご飯を作ったり、娘の送り迎えをしたりと、なんとか家事をしています。

――育児中の共働き夫婦の理想的な生活スタイルですね。でも、働き方から察するに、お金に執着がないように見受けられるのですが。

そうかもしれませんね。お金がないと困りますが、お金も時間も資産だなと思っているんです。どちらかといえば、いまは時間のゆとりが欲しいなって。金銭で得られるものではなくて、時間で得られる経験や体験を重視しているからかもしれません。

ただ、本音を言えば、新しいギターが欲しいですね。妻から怒られそう……(笑)。ギターを買えるお小遣いを稼げるように頑張りたいです。

くれさん

――では、最後に今後の展望についてお聞かせください。

喫茶店やレストランなど本に出合える場所を増やすことに挑戦したいのと、もっと一冊一冊を丁寧に紹介できるような仕組みを作れないかなと思っています。中期的には、本屋で働く書店員たちのコミュニティを作りたいですね。

あとは、「神楽坂モノガタリ」をもっといろんな人に利用してもらえる場にしていきたい。できることなら同じくらいの規模の店を、もう1店舗生み出したいですね。書く仕事は依頼あってのものなので、成り行きに任せて続けます。僕の過去の経験をもっと先へ活かしていきたいです。

(取材・文:末吉陽子 編集:南澤悠佳/ノオト)

取材協力

久禮さん

久禮亮太さん

1975年、高知県生まれ。早稲田大学法学部中退。97年、あゆみBOOKS早稲田店にアルバイト勤務。三省堂書店八王子店に契約社員として勤務したのち、2003年よりあゆみBOOKS五反田店に正社員として勤務。2010年より同社小石川店店長。14年退職。15年、「久禮書店」の屋号でフリーランス書店員として独立。

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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