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2017/10/27 up

脱サラして鎌倉で古本屋を開業 「books moblo」店主が語る、その経営事情

text by 松尾奈々絵

booksmoblo

鎌倉駅から徒歩5分。小さな通り沿いにある「books moblo(ブックスモブロ)」は、ゆったりとした時間が流れる古本屋です。

出版不況とも呼ばれているこのご時世、街の本屋は相次いで閉店しています。そんななか、店主の荘田賢介さんは脱サラをして、このお店を2011年に開業しました。いまなぜ古本屋なのか、古本屋で生計を立てるのは難しいのでは? そんな疑問を抱きつつ、開業までの背景や、これまで店を続けてこられた経営のヒントを教えてもらいました。

荘田賢介さん

妻からの「辞めちゃいなよ」、その一言が背中を押した

――お店を開く前は、どんなお仕事をされていたのでしょうか?

編集プロダクションに約5年間勤め、版下(はんした)データといわれる書籍が印刷される前のデザイン原稿を作成していました。イラストレーターを使い、文字や写真、イラストなどの配置を考えて形にしていきます。担当していたのは主に書籍やカタログでした。

仕事内容は好きでしたが、会社で朝を迎えることがよくあり、会社の椅子を並べてその上に寝袋をおいて寝ることが多く……。しまいには、より快適に会社で寝る方法を考えたりもしていました(苦笑)。

――激務だったんですね……。それが、別の仕事を考えるきっかけになったのでしょうか?

それも一つの理由です。仕事が激務になったのは、リーマンショックの影響も大きかった。企業はまず広告費から切っていくので、広告を出す企業が減りますが、出版側からすれば広告は必要不可欠な存在です。どうしても広告を出してほしいからと、ページの単価がどんどん落ちていき……業界内で悪循環が生まれてしまいました。それで業務がさらに激務になり、就職してから5年たち30歳になったときに「このままの状態で仕事を続けられるのかな」と悩み始めました。

荘田賢介さん

――そのとき、すぐに仕事を辞めようとは思わなかったんですね。

自分の中では、どうやって会社をいい方向に変えられるのかしか考えていなくて、辞める選択肢はありませんでした。でも、妻に相談したら「辞めちゃいなよ」と、ズバッと言われ(笑)。その一言があって「そうか、その道があったのか!」と。妻も私も本好きなので、それなら古本屋を始めようかと決めました。

書店ではなく古本屋を選んだのは、「自分のこだわりの本を並べたい」という気持ちと、本の中でも特に古本が好きだから。装丁やデザイン、使われている紙など、古本は情報媒体としてだけではない魅力が詰まっていて、「こんな本があるんだ」と思うような面白い本が多いんです。昔の方が製作費をかけられたという面もあると思いますが。

――古本屋を持つことを決めたとき、まずは古本屋に転職しようとは考えませんでしたか?

まったく考えていなかったです。若ければ最初にバイトとして古本屋に入り、修業してから開業するのがいいと思います。でも僕はすでに30歳だったので、店を自分ですぐに持った方がいいなと。その分、お客さんとして古本屋に行ったときには、店主の動きなどをじっくり観察するようになりました。

店内

「儲けたい」だけなら本屋は始めない

――店を鎌倉に構えた理由を教えてください。

妻が横浜に勤めているので、まずはその近辺で場所を探しました。鎌倉はその中でも書店数が多くないところが良かったです。また、チェーン店ばかりではなくて個人経営の店が多かったので、それなら自分も続けられるかなと。

――開店するにあたって不安はありましたか?

もちろん不安だらけでしたよ。金銭面は特にそうですよね。毎月の収入がなくなるので。

でも、これは自分の性格ですけど「死にはしないんじゃないかな」とは思っています。それに「儲けたい」と思っていたら本屋を選びません(笑)。稼ぎたかったらまったく違った仕事をしますよ。この道を選んだ時点で、「稼げない」のはもう承知の上だったので。

――開店資金は前のお仕事のころからの貯金でしょうか?

そうですね。店を始めるとき「借金は絶対にしない」と決めました。なので、僕と妻の貯金の300万円を開店資金にあてました。土地代と内装費、本の仕入れ、あとはパソコンなどの雑費に使いました。

最初に内装を決めるときは設計会社の方に700万円と提示され、とてもじゃないけど無理だったので、施工会社さんには本当に申し訳なかったのですが、相談して削りに削りましたね。なるべくお金をかけないように心がけました。

古本

――本の仕入れについて教えてください。古本屋さんというと、お店で直接買い取りをしているイメージですが、最初はどこから商品を仕入れるのでしょうか?

都道府県ごとに古本屋が加入できる「古書組合 」があります。古本屋を始めるには、まず古物商許可を取得する必要があります。基本的にはこの許可証と店の場所、住民票などを提出し、加入金を払うとその組合に所属できます。その中で、定期的に古本屋同士が本の売買を行える市場が開かれます。本が巡回するので「交換会」とも呼ばれていますね。

始めはそこで本をそろえました。現在は店に約5,000冊商品がありますが、店を始めたときは1,000冊くらい。市場では自分が今まで知らなかったジャンルや「これは意外と売れるんだ」というような情報を、古本屋を長く営んでいる先輩から教えていただいたりもしました。

――いまは店頭や出張で買い取りもしていらっしゃるんですよね。どのように値段を決めているのでしょうか?

特に決まりごとはないので、買い取りと値付けは正直、僕の勘ですね。このラインナップを持ってきた人は、さらにいい本を持ってそうだな……と思ったら、「また何かあったらぜひ来てくださいね」という意味を込めて、価格に色を付けたりもします。

店を始めた当初は、価格で迷うこともありましたが、お客さんとのやり取りを通じて、実際に売れるものもわかってきたので、自分の中で価格の線引きができるようになりましたね。

――売り上げは、月によって変動がありますか ?

小売りはみなさんそうだと思いますが、2月と8月は売り上げが厳しい。ですから、8月は売り上げをそんなに期待していないんです。その分秋は売り上げが伸びるので、秋に向けての準備期間にして、コツコツ仕入れを増やす、ちょっとした骨休み期間ともいえますね。

荘田賢介さん

利益のないイベントを続ける理由、鎌倉で本の文化を継いでいく

――荘田さんは、お店以外にも年に1回古本市のイベント「ブックカーニバル 」を開催されていると聞きました。どんなイベントなのでしょうか? 始めたきっかけを教えてください。

鎌倉の由比ガ浜公会堂と古民家などで、一般の人や書店、出版社の方が店主となり本を販売する古本市を開催しています。当日は、ほかにも鎌倉にゆかりがある方のトークイベントや、通りにある書店や出版社などを巡ってスタンプを集めるスタンプラリーなどを行っています。

始めたのは店をオープンした次の年の2012年です。ちょうどその年に、葉山でブックイベントがあり、出店者として誘っていただいたので参加してきました。それがとても楽しかったので、同じようなイベントを鎌倉でもできないかなと始めたのがきっかけですね。毎年開催し、今年で6回目を迎えました。

ブックカーニバル

2015年のブックカーニバルの様子。画像提供=ブックカーニバル実行委員会

イベントの収入源は出店料と鎌倉にゆかりのある作家さんのトークイベント(本談会)の参加費のみです。フライヤーやパンフレットの印刷費、会場費、トークイベントのゲスト講師代、スタンプラリーを参加された方に配るエコバッグ代などの支出が必要になります。年によっては、クラウドファンディングや支援金によって運営費を補っています。正直、利益はまったく出ていないですね。

――利益が出ないイベントを続けるのって大変ではないです? 毎年続けられるのはなぜでしょうか。

本の文化を絶やさない、というのが大きな目的の一つですね。鎌倉という土地柄、作家さんや本に関わっている人が多くいるのに、これまで本に関するイベントはありませんでした。なので、「その日だけはみなさん、本のことを考える日にしませんか?」という僕からの提案でもあります。なので、イベントそのものが、「本」自体のメディアだと思っています。

荘田賢介さん

――これまで店を続けられてきた秘訣はなんでしょうか?

「今年で、もうだめだな」と思ったことは、これまで何度もありました。昨年7月にエアコンが壊れたときは予想外の出費で20万円かかり、かなりつらかったですね(苦笑)。古本屋は先物買いの商売なので、先に仕入れなければいけません。また、お客さまの要求ではなく、提案型の仕事なので、すべてのお客さまに同じように購入してもらうのは無理ですよね。

なので「今日はだめだったー」というときは、周りの店を見て「このお店もあんまりお客さま入っていないな。なら大丈夫かな」なんて思うようにしています(笑)。要は気の持ちようです。

また、今月は厳しいから古本市場に持っていって売り上げをそっちで立てたり、ネットの通販もしているので、その商品補充に注力したりして、店舗の売り上げがイマイチなときには、ネットと市場とのバランスを考えて仕事をしています。

――最後に今後の展望を教えてください。

店を続けていくのは大変ですが、これからも店側からいろいろ仕掛けていきたいと思っています。最近はカフェに本を置かせてもらうなど、新しい販売経路も試行錯誤中です。どうやって変化させていくか、それを模索しながらこれからも店を続けていきたいですね。

(取材・文 松尾奈々絵/ノオト 編集:南澤悠佳/ノオト)

取材協力

booksmoblo

荘田賢介さん

古本屋「books moblo」(ブックスモブロ)店主。古本や各地で発行されているリトルプレスやフリーペーパー、さらに雑貨なども扱う。
住所:神奈川県鎌倉市大町1-1-12 WALK大町Ⅱ 2F-D
最寄り駅:JR鎌倉駅 東口より徒歩5分
電話番号:0467-67-8444
営業時間:10:00~18:00
定休日:月曜日(祝日営業)
▼books moblo
http://moblo.ocnk.net

この記事の筆者

松尾奈々絵

有限会社ノオトの編集者・ライター。担当ジャンルは街ネタや働き方など。複業で「マンガナイトBOOKS」の書店員も。

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