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2017/08/04 up

屋上写真家・木藤富士夫さん「収入は不安でも、被写体への思いがあるから続けられる」

text by 松尾奈々絵

屋上写真

撮影=藤原葉子

いつも見慣れたはずの公園の遊具。どこか懐かしさを感じる屋上遊園地。カメラマンの木藤富士夫さんは、それらを被写体にして、幻想的な写真を撮り続けています。依頼された撮影の仕事の合間を使い、ときには夜通しで撮影することもあるそう。

木藤さんは、大学卒業後に一度会社に勤めてから、2005年にフリーのカメラマンとして独立しました。なぜカメラマンになろうと思ったのでしょうか。フリーになった経緯や、作品への想いについて話をお伺いしました。

脱サラ直後にフリーランスへ、独立当初は不安がなかったけど今は……

――カメラマンになるまでは、どのようなお仕事をされていたんですか?

大学を卒業してから、スーパーで野菜を仕入れて販売する仕事をしていました。なかなか楽しかったのですが、朝5時~夜9時まで働き続けるのが、だんだんとつらくなってきて。親に肩代わりしてもらっていた大学の学費を完済できたタイミングで、仕事を辞めました。勤めていた期間は3年ですね。現在は家賃の半額を申告する形で、自宅を仕事場にして、フリーカメラマンとして仕事をしています。

――もともと、撮影するのがお好きだったんですか?

実は、カメラを買ったのはその会社員時代なんです。会社帰りにヨドバシカメラの店員さんに声をかけられて、「これから始めるのになんだか面白そうだな」と、3万円のカメラを購入しました。会社を退社してから、カメラの専門学校に通い始めました。

その学校を卒業した後、物撮りのスタジオに就職する予定だったのですが、たまたま訪れた屋上遊園地に心が惹かれました。そのとき、就職ではなくフリーになろうと決意をしました。就職して空いている日を使って自分の好きな被写体を撮影するという道もありますが、そうすると撮影量が絶対足りないなと思ったんです。

木藤さん

――屋上遊園地のどんな点に魅力を感じましたか?

最初はレトロな遊具がそろっているところがいいなと思い、それらをメインに撮影していました。でも、だんだんその空間自体が面白いと思い始めましたね。屋上って平日に油断している大人がふらっと遊びに来るんですよ。その姿を撮影したかったというのも、フリーになった理由の一つです。平日じゃないと見られないですから。

また、屋上遊園地がここ数年だんだんとなくなってきてしまったという理由もあり、2014年ごろから、公園遊具の撮影も始めました。深夜に一つずつ、照明をあてて、その角度を変え、ちょっとずつ調整しながら撮影をしています。ちょっと不審者と思われながらね(笑)。でこぼこしていたり、形が複雑だったりするものは時間がかかりますね。5~6時間くらいかな。

――突然フリーランスとして活動することに不安はありませんでしたか?

フリーランスになった最初は、まったくゼロからのスタートで、仕事も何もない状態でしたが、不安はそこまでなかったです。当時は節約のために公衆電話から出版社に電話して営業をして、空いている時間にポスティングのアルバイトをしていました。よく若手のお笑い芸人が言う「バイト8でお笑い2だ」という仕事の割合と同じですね。僕はバイト8で撮影2の割合でした。その頃、妻と結婚する前だったのですが「横浜にデートに行こう」と誘って、ポスティングを手伝ってもらったりしていました(笑)。

正直にいうと、今の方が状況をいろいろとわかってきている分、不安ですよ。まだ小さい子ども二人がいますし、あと20年間、この子らを養っていかないとと思うので、家族に「金銭面は絶対に大丈夫」とは絶対言えないです。

フリーだと、もちろんレギュラーの仕事がないので、収入が安定することはありませんね。稼ぐ月と稼がない月の差は最高で8倍くらい違います。あとは、リーマンショック後や震災後は一気に仕事の依頼も少なくなりました。収入は一度上がってから下がると、やっぱり不安になりましたね。

――その状況の中で、フリーランスとして続けていけるコツってなんですか?

続けていくことに心が折れそうになることも多々あります。でも、「屋上遊園地や公園の遊具などの被写体が魅力的だということをもっと知ってほしい」「まだ撮影していないものがたくさんある」という被写体への強い想いがあるから、続けられるんだと思いますよ。これは、カメラマンはみんな同じだと思います。

「儲けたい」とか「なんとなくかっこいいから」という気持ちからカメラマンになると、心が折れそうになったときに耐えられないでしょうね。基本的に儲かりませんから(笑)。

木藤さん

カメラマンへの撮影依頼が減少する中、どう幅を広げていくか

――収益としては、依頼を受けた撮影とご自身の撮影との2本柱ですよね。どのような割合なのか教えてください。

依頼された撮影仕事と自分の作品撮影が半々です。依頼される仕事としては、不動産の広告が多いですね。作品の撮影は自費出版で作成しているので、基本的に収入はあまりありませんが、最近はBtoBで企業に写真を貸し出すことが増えてきました。作品の使用料という形でお金をいただいています。

2012年ごろまでは、売り上げは依頼された撮影仕事がすべてでした。今は誰でもスマホで簡単に写真を撮れるようになったので、経費削減のために社内のリソースでまかなおうとする会社も増えてきた気がします。全体的にカメラマンに発注する割合が減っているんですね。カメラマンに依頼する仕事が昔100だとしたらいまは70くらいにまでなっている気がして。依頼されている広告系の仕事は、今後先細りしていくだろうなと肌で感じていたので、掲載料という、ほかのところで幅を広げていこうと思っていたんです。
――作品の撮影時間はどのように確保しているんですか?

作品の撮影は依頼の仕事がない時間に撮影するようにしています。特に最近は深夜に公園の遊具を撮影しているので、仕事が終わってから、夜通し撮影することもありますよ。自分の作品の撮影は基本的に歩きで移動するので、仕事終わりに何キロも夜に歩いてて。公園は夜撮影するので、夜通し撮影していると、すぐ心が折れそうにもなりますが(笑)。最終的には自分で好きなものを撮影して食べていく仕事だけにしていきたいですね。

北区王子六丁目児童遊園/©FujioKito

作品集を作るのは大赤字……でも、自分の名刺代わりになる

――発売されている作品集はすべて自費出版ですよね。どのように制作されているのか教えてください。

1冊作り、ある程度売れて次の本を作る見通しができたら、新しい本を作るという完全な自転車操業です。特に屋上遊園地の写真に関しては、写真集に入れていないストックがたくさんあるんですよ。これまで撮影したフィルムは1,400~1,500本くらいですね。

作るのにかかるのは印刷費ですね。ページ数や紙の質によりますが、20万~80万円くらいです。今は1年に1~2回のペースで製作して、即売会や本屋、ギャラリーで1冊1,000円~1,500円で販売しています。

この作品集が営業というか名刺代わりになっていますね。この作品を作るのに、移動して撮影して印刷して……いろいろ考え始めると大赤字なんですよ。でも、一緒にお仕事がしたいという方に名刺として無料で差し上げると、向こうの手元に残りますし、どういう作品を撮っているのか、記憶に残るんですよ。そうやって営業していると、たまに連絡をもらえるので。作品を一度見せても、相手の手元に残らないと意味がないんですよね。

木藤さん

写真集を見て「この場所に行ってきましたよ」と言われるとうれしい

――最後にこれからの展望について教えてください。

出版社から写真集を出したいです。今も声はかけてもらっているんですが、出版業界も不況なので、「作りましょう」と決まってから撮るのではなく、まずは作品のストックが必要なんです。だから、その前に自費出版で作成している作品集の売り上げ実績を上げて、「これくらいのストックがありますよ」とアピールできる材料をそろえてから、自分から持ち込みをしたいなと。

また、もう一つの野望として、僕の作品を通じて、その場所や遊具を知って、実際に行ってほしいと思っています。僕の作品集には地図を載せているんですよ。これまで当たり前に通り過ぎるような場所が、観光地のようになったらいいですね。撮影している作品は、被写体自体が面白いから作品になるので。その存在を広めていきたいんです。だから僕だけが潤いたいという気持ちはないですね。ギャラリーなどで「写真集見て、この場所行ってきましたよ」と声をかけてもらえると、うれしくなります。

(松尾奈々絵/ノオト)

取材協力

木藤さん

木藤富士夫さん

フォトグラファー。神奈川県相模原市生まれ。法政大学卒業。脱サラをして2005年フリーランスフォトグラファーに。屋上をこよなく愛し全国のデパートの屋上遊園地や面白い公園遊具も探して撮影している。http://fujio-panda.com/

この記事の筆者

松尾

松尾奈々絵
有限会社ノオトの編集者・ライター。品川圏域のニュースを届ける「品川経済新聞」や仕事が楽しくなるための情報サイト「はたラボ」を担当。ビールを飲みながらの野球観戦がなによりの楽しみ。

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