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2017/07/14 up

独立当初の年収は17万円! ガイド料で生計を立てる岡本永義さんの打開策

text by 南澤悠佳/ノオト

岡本さん

撮影=藤原葉子

その土地のランドマークや歴史スポットを巡る街歩き。行政によっては街歩きのボランティアを養成する講座もあり、ガイド=ボランティアというイメージを持つ人は少なくないかもしれません。

そんななか、プロのガイドとしてガイド料収入のみで生計を立てているのが岡本永義さんです。1回数千円のガイド料だけで食べていくことはできるのでしょうか? 参加者の満足度をどのように高め、継続的に収入を得られるようにしているのか、その仕事内容や心がけについて話を聞いてみました。

趣味からの脱サラでガイドに転身

――岡本さんは、どういった経緯で街歩きのガイドになったのでしょうか?

もともとは、普通の勤め人でした。僕は自分で考えて行動するのが好きなのですが、自分のいた組織はマニュアル重視だったこともあり、ウマが合わなくて……。その環境には21年間いたのですが、次第に「もっと自分のために働いた方がいいのではないか」と思い始め、辞めることを決めました。

街歩きは昔からの趣味だったんです。東海道を歩いて京都へ行ったり、徒歩で善光寺へ初詣に行ったり。ただ、これは完全に趣味の世界で、一人もしくは友人と行くだけで、誰かを案内してお金をもらうことはありませんでした。

――副業として街歩きのガイドを行っていたわけでもないのに、それを本業にして独立することに不安はなかったのでしょうか?

正直、不安だらけでしたよ。独立を思い立ち、自分の知識を生かすことのできる仕事を考えた結果が街歩きのガイドでした。ただ、ガイドを個人で仕事にしている人はあまり聞かなかったですし、既存の仕事だとそこにお客さんがすでについているから敵いません。ほかの人がやっていないことなら、新たに始めたときにお客さんも来てくれるだろう、と。あと単純に、街を歩いているときに「これ、なんだろう?」と思ったことを調べるのが面白かったんですよね。

あのまま組織にもいたくなかったですし、腹をくくったというか、これを続けるしかないという状況でもありました。地道に続けていればお客さんも来てくれるだろうし、半年や1年で結論を出すのではなく、3~5年は続けようと最初に決めました。それまでの貯金と退職金を合わせると1,000万円近くはあったので、それをうまくやりくりしながら始めることにしたんです。ただ、貯金を食いつぶす生活って、あっという間に貯金がなくなってしまう……。かなり焦りはありましたね。

岡本さん

営業をしても門前払いの日々……仕事内容を変えずに法人化で打開

――独立されたのが2012年とのことですが、最初はどのように仕事を得たのでしょうか?

知り合いのツテをたどったり、ガイドイベントをしているカフェと協力したりして、ガイドの仕事を得ていました。あとはカルチャーセンターの講師も行っていて。カルチャーセンターは月ごとの契約だったこともあり、定期収入の役割を果たしていましたし、現在も行っています。

――カルチャーセンターを例に挙げると、1回のガイドでいくらもらえるのでしょうか?

参加者は一人当たり2,000円~3,000円を払い、当初はそのうちの35%くらいが私の元に入りました。参加者が多ければ多いほど、取り分は増えますが、計算すると一人当たりの収入は数百円なんですよね(苦笑)。独立当初は収入のほとんどがカルチャーセンターからでしたが、何十万円ともらえるわけではない。最初の年の年収はよく覚えていて、17万円でした。

――月収ではなく、年収が17万円ですか。それだと、生活が厳しいですよね……。

個人で「ガイドの仕事ありませんか?」とイベント主催者に連絡しても、門前払いがほとんどでした。なので、大きい仕事はまったく入ってきません。困って近所の司法書士に相談したら、法人化すればそれが社会的信用になるから会社にしたほうがいいとアドバイスを受け、2014年1月に法人化することにしました。といっても、自分一人しかいないので、個人事業主と実態は変わらないんですけどね。

――法人化したことで、どんな変化がありましたか?

ウェブサイトも立ち上げたので、ほかの会社からオファーがくるようになりましたね。三越の市民大学で3カ月講師の仕事が入りましたし、その後はアウトドアグッズなどを扱うL.L.Beanからも仕事がくるようになって。契約するカルチャーセンターの数も増えました。

あとは、2016年の1月に大きな転機がありまして、テレビ朝日のモーニングショーに出演することになりました。ちょうど、街歩きが注目を集めている時期で知名度が一気に上がり、一時はサイトがパンクするくらいアクセスが集中したんです。テレビを見た人が街歩きの申し込みをしてくれ、あとは東京だけじゃなく地方の旅行会社、さらには行政からもガイドの依頼が入るようになりました。それもあって、今では生活できるだけの収入が得られるようになっていますね。

街歩きの資料

参加者を増やすには、思わず人に伝えたくなるほど満足してもらうことが大切

――継続的に参加者を得るなら、その人の満足度を上げることが重要です。岡本さんはどういったことを意識してガイドをされていますか?

まず、料金を2,000円にしているのは、これくらいだったらお金を出してもいいかなという値段感ですね。ほかの旅行会社よりだいぶ安く、一般的なオプショナルツアーの3分の1くらい。料金の中には資料代や保険料が含まれているので、すべてが自分の収入になるわけではありません。

1回の街歩きの準備に3週間ほどかけていますね。案内するエリアの下見はもちろん、図書館や書籍でそのエリアについて調べ、きちんとした資料を参加者の皆さんにお渡しするよう心がけていますから。ほかでは資料の作成にそこまで取り組んでいるところがないので、これはサービスの差別化につながっていると思います。

古地図を見ながら歩く

――定員を10人とかなり絞っているのも、何か理由が?

それ以上多くなるとマイクを使うことになり、お客さんとの距離ができてしまうんです。僕はあえて観光地には行かず、江戸時代の地図を見ながら、いまの街を歩く古地図散歩を中心としているのもあって、参加者からの質問にはどんどん答えていきたい。ホワイトボードに図解したり、漢字を書いたりしてわかりやすく伝えることを意識しています。

さらに、街歩きの時間は基本的に3時間と決めていて、このくらいだと参加者の集中力が切れないんです。時間が長くなりすぎるとどうしてもだれてしまいますから。

――参加者の反応はどうですか?

ありがたいことにリピーターができ、その人がまたほかの人に勧めてくれたりしてくれていますね。うれしかったのは、地方から参加してくれた人が地元に戻ったときに、そこの旅行会社の人に面白い人がいるよと勧めてくれたこと。そこから仕事につながることもあります。

岡本さん

街歩きのガイドが仕事として成り立つようにしていきたい

――岡本さんは、街歩きを通じて今後どんな価値を提供していきたいと考えていますか?

たとえば、家系図を辿ってご先祖様の名前を知るように、自分が住んでいる街のルーツを知っておくのは大事なことだと思うんです。街中には、意外と重要な文化財があります。自分が語り部になって、そうした大切なものを多くの人に知ってもらい、保存につなげたいという気持ちがありますね。

あと、こういうガイドって、どうしてもボランティアのイメージが強い。いろんなことを調べて人に伝えるには、それなりの労力が必要です。実際、案内するために下見に行く交通費や資料作成代など、いろいろ実費もかかりますし多くの時間を割かなくてはならない。となると、良いものを作ろうと思ったらやはり対価をいただかないと厳しいですよね。

参加者が満足できる内容を提供できるなら、きちんと仕事して成り立つようにしていきたいと思っています。それには、案内する街の知識はもちろん、話し方や案内の仕方など、勉強を続けていく必要があります。それによって、一人でも多くの人が楽しみながら、その街をより知ってくれたらいいですね。

収入面では勤めていたころの3分の2くらいに減り、労働時間は今のほうが長くなりました。それでもこの仕事の方が断然楽しい。今後も継続的に収入を得るには新たな取り組みを考えていく必要がありますが、私はこの働き方を突き詰めていきたいですね。

(南澤悠佳/ノオト)

取材協力

岡本さん

岡本永義さん

歩き旅応援舎代表。ガイド歴17年。ガイド料収入で生計を営む街歩きのプロフェッショナル。古地図散歩や東海道散歩に詳しい。著書に『東海道五十三次四百年の歴史をあるく』(けやき出版)など。Twitter ID:@o_nagayoshi

▼歩き旅応援舎
http://arukitabi.biz/index.html

この記事の筆者

南澤悠佳/ノオト

有限会社ノオトに所属していた編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。

Twitter ID:@haruharuka__

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