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2017/06/30 up

ジオラマ制作“だけ”じゃ無意味! 情景師アラーキーさんの「次の仕事のつなげ方」

text by 南澤悠佳/ノオト

ジオラマを制作する荒木さん

撮影=藤原葉子

ミニチュアの物や人物、背景を配置し、さまざまな情景を表現する「ジオラマ」。本物と見間違うほどの精密な世界観には、目を見張るものがあります。

情景師アラーキー(荒木智)さんは、そうしたジオラマ作品を作る一人。大手電機メーカーである東芝に勤め、二足の草鞋を履きながらジオラマ作家として活動していましたが、2015年に独立しフリーランスになりました。独立を決めたのにはどんな理由があったのでしょうか。

SNSに自分の作品をアップし続けることで、それが営業ツールになる

――アラーキーさんは、会社員だった2014年当時、Twitterにアップした作品が話題になり、その後メディア出演が急激に増えましたよね。SNSの活用には早くから着目していたのでしょうか。

ちょうどmixiが出たときくらいから、プロでなくても一般の人が何かを書いて発信することが当たり前になってきましたよね。それまでは模型雑誌の依頼を受けてジオラマをつくり、雑誌に入稿していました。そうするとだんだんと作品が溜まり、やはりいつかは自分の作品をまとめた個展を開きたいし、作品集もつくりたいという思いが芽生えてきました。そして自分の作った作品をより多くの人に見てもらうには、相手に見たいと思わせる必要がありますよね。

それもあって、SNSが流行り始めたときに“相手に伝える”ということを念頭に置いて、リアリティのある写真を撮り、ネットに配信し続けることを始めました。雑誌だと、1カ月載ったら、作品は過去のものになります。でも、ネットに上げたものはいつでも検索に引っかかるので、常に生き続けることになる。それに、いいものは世界中に拡散する可能性がある。僕はそのことに早い段階から気付いていたのもあって、写真に必ず「By SATOSHI ARAKI」と署名を入れ、作品が一人歩きしても必ず僕の作品だとわかるようにしておきました。

情景師アラーキーさん

――誰かが見てくれて、いつか“何か”が起こるときのために種をまいていたのですね。

そうです。2014年にバットマンの「ゴッサムシティ」の写真をアップしたら、それが世界中でブレイクして、いろんなメディアから取材が殺到しました。しかも、一時的な現象ではなく、その後も「作品を作ってください」という依頼が多く入るようになって。

ネットにアップしていた作品が注目を浴びた一つだけだったら、そうはならなかったと思います。それまで地道に作品をアップし続けていたことで、「情景師アラーキー」と検索すると、これまでの作品も出てくる。それで「この人は面白そうだ」と興味を持ってもらえ、過去の作品も営業ツールの役割を果たしていたんです。

――そのころから独立を考えていたのでしょうか?

そのときはまだ自分の中で、ジオラマづくりを本職にするか趣味に留めておくかで悩んでいましたね。東芝で管理職だったこともあり、収入はいいわけです。それを投げ打ってまで作家活動をするには家族の理解も必要ですし、さらに家を買ったのでローンも返済しないといけない……。夫婦二人暮らしとはいえ、いろんなことを計算して月に稼がないといけない金額を見ると、独立はないな~と考えていました。

情景師アラーキーさん

――では、何がきっかけで独立することに?

大きな転機は、2015年に会社で一番激務とされる部署に異動になったことです。それまではアフターファイブや休日に作家活動をしていたのですが、連日終電での帰宅になってそれが出来なくなってしまって……。作家活動を捨てて会社に人生を捧げるか、会社を辞めて作家活動を続けるか。これを選択すべきときがきたと思いましたね。

実は、異動になる少し前に『凄い!ジオラマ』(アスペクト)を出版する機会に恵まれていたんです。僕にとって本の出版は、いつかは到達したいと思っていたことの一つ。そうしたこともあり、異動になったときは作家として独立したいという気持ちが強くなっていました。

さらに、ジオラマ作家として依頼やメディアへの露出も増えると目立ってしまい、会社から怒られてしまうわけです(苦笑)。会社に辞めたいと伝えたものの、なかなか辞めさせてくれなくて……。3カ月くらい塩漬けになっていたのですが、ちょうどある企業からジオラマの監修をする大きな相談が入りました。その案件は自分にしかできない仕事という自負もあったんですね。

ところが、アフターファイブのやりくりだけではとうてい間に合わない……。そんな生活をしていたら、日に日にやつれていってしまいました。そんな私を見てか、妻からも「好きなことをしたらいい」と後押しもあり、なんとか会社を辞めることになりました。機は熟したといいますか。

ジオラマ作品

生活のことを考えると恐怖心で動けなくなる……だったらいっそ数字は見ない!

――独立前からすでにジオラマ作家として活動していましたが、辞めても大丈夫と思えるほどの収入があったのでしょうか?

いえ、会社員時代は会社の規定もあり、ジオラマ作家としての収入は趣味程度に抑えていました。ジオラマ作家として注目されてはいましたが、辞める前はすごく怖かったです。夜中に目が覚めて「あーどうしよう……」と気持ちが落ちこんだり、独立後に稼ぐべき金額や保険料などを計算したら恐怖心でいっぱいになってしまったり。

だからもう、そういう数字は見ないことにしました(苦笑)。一番やってはいけないことかもしれませんが、恐怖心からブレーキを踏んでしまって動き出せないくらいなら、今できる仕事をしっかりと取り組んでいこうと決めたんです。とはいえ、ざっくりと収入の4本柱を考えてはいましたが。

ジオラマ制作の様子

――具体的にどういう柱でしょうか?

「ジオラマ制作」「展示会やトークショーなどの作家活動」「ジオラマを伝える執筆活動」「ワークショップなどの教育活動」ですね。ただ、教育活動は年齢を重ねてからでもいいなと思っているので、今のところ最初の3つが中心でしょうか。それぞれ1/3ずつの収入が得られればいいと考えていました。

――独立して、その予想通りになっていますか?

昨年は、コンサルの仕事が2割、制作活動が5割、残りの3割が作家活動になっていますね。今年は企業の顧問契約の比重が高くなり、コンサルとしての仕事が6割になっています。

コンサルって何をするんだって思われるかもしれませんが、僕の場合は商品企画や販売手法、展示会でのブースの見せ方やデザインなど、ありとあらゆることを手がけています。

情景師アラーキーさん

――作家というと、黙々と作品をつくるイメージがありますが、それとはいろいろ違いますね。

ジオラマをつくることって、街の風景を切り取ってそこにリアリティを与えるんですけど、目に見えている部分だけをつくってもだめなんです。表面からは見えていない、別の面を考える必要がある。たとえば、そこに住む人はどういう暮らしをしているのか、この建物の裏側はどうなっているのか、そこにはどんな歴史的背景が含まれているのか。

そうすると、一つの作品をつくるのに考える領域の幅が広がるわけです。そして、それを一つひとつ丁寧に調べていきます。おのずと知識や経験がついていきますから、クライアントさんの話を聞いて要望をつかみ、それに適したものを提供できる、これは僕の武器だと思っています。

情景師アラーキーさん

――作品をつくるだけではなく、プラスアルファの価値もそこに含めている、と。

ジオラマ制作は、基本的には展示会に飾りたい、CMに使いたいという依頼を受けてつくります。ときには、個人から依頼を受けてつくって売ることもありますが。でも、「つくって、売る」の繰り返しには収入面での限界があります。そうならないように、何かビジネスモデルを考えないといけない。理想的なのは、定期収入があることだと考えました。

それには、アウトプットの中に次につなげる種を仕掛けておくことが重要です。単にジオラマをつくって終わりだと、下請けになっちゃいますよね。だから、「あの人にジオラマ制作をお願いすると、10万円でお願いしたけど、制作前の企画提案や見せ方の工夫、商品の売り方のアドバイスもあって、20万円、30万円の価値になっている」と言ってもらえるよう、期待以上の価値を提供するのが大事なんです。そうすると、「情景師アラーキーさんに頼みたい!」と重宝されますから。

ジオラマ作家の枠組みにとらわれず、自分の価値を高めていく

――ジオラマ制作において、値付けはどうされているのでしょう?

正直、金額のつけづらさはあります。指針があるわけではないですし、自分でつくっていかないといけません。たとえば、ワークショップなら同じ業種を見ると相場がわかるので、そこからプラスマイナスします。あとは、自分ができることを棚卸ししてそれに見合った金額を設定したり、さらには生活できる分の金額を考慮したりして決めています。案件の規模でいえば、100万円いくと大きな案件ですね。

それといまは、全部を自分でつくるわけではなく、情景師アラーキーとしての価値が求められる場合には作家性を打ち出しますが、そうでない場合はほかのジオラマ作家の仲間をアサインしてつくることもあります。以前は自分の作家性を打ち出したくてそういうのが求められていない場合は断っていましたが、今は僕でなくてもいいなら、僕はプロデュース側にまわる仕事の仕方もアリだな、と。現実的に考えて、食べていかないといけないですから。

情景師アラーキーさん

――最後に、今後はどう活動を続けていきたいですか?

独立してからうまくいっている方だと思いますが、今後の人生を長く見ていくと、不安なことや懐疑的なことももちろんあります。でも、結局は仕事の中で経験値を高め、それを提供していくしかないなと思っています。

テレビに出たりして、ある一つの作品のイメージが付きすぎると、あの人はそればっかりだと思われてしまうリスクもあります。でもSNSを通じて日頃から自分の好きなものや新しく手掛けたことを発信することで、「あの人はこういう人なんだ。もっと知りたい」と興味を持ってもらい、そこから「一緒に仕事したい」「展示会に行ってみたい」と思われるように自分の価値を高めていきたいですね。

(南澤悠佳/ノオト)

取材協力

情景師アラーキーさん

情景師アラーキー(荒木智)さん

ジオラマ職人。中学時代にジオラマづくりにハマり、大手家電メーカーに就職後も二足の草鞋で活動を行い、2015年に独立。著書に『凄い!ジオラマ』(アスペクト)、『作る!超リアルなジオラマ』(誠文堂新光社)。Twitter ID:@arakichi1969 

▼情景師アラーキーの ジオラマでショー
http://arakichi.blog.fc2.com/

この記事の筆者

南澤悠佳/ノオト

有限会社ノオトに所属していた編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。

Twitter ID:@haruharuka__

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