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2017/03/24 up

鎌倉POMPON CAKESが移動販売を経て実店舗を構えた理由

text by 南澤悠佳/ノオト

お店で働く立道さん

撮影=森カズシゲ

鎌倉の街角を移動しながら、自転車(カーゴバイク)でケーキを販売していた「POMPON CAKES」。

そのユニークな販売方法と、「オーガニックでジャンキー」をコンセプトに毎日でも安心して食べられるケーキは、地元でたちまち人気を博しました。移動販売を始めてから4年後の2015年、POMPON CAKESは鎌倉・梶原の地に実店舗も構えました。

移動販売というと、家賃などの固定費を抑えられて低リスクで始められるイメージがあります。しかし、POMPON CAKES店主の立道嶺央(れお)さんは「利益なんてほとんど出ないし、短期的な視点で見るとしんどい」と話します。立道さんが移動販売から実店舗開業に至った経緯を聞きました。

ケーキ屋はやりたい仕事の一つ、それ一本にする気持ちはなかった

――立道さんは以前、茅葺き職人の見習いだったと伺いました。

最初は大学で建築を勉強して建築家になるつもりでした。世界や日本の建築を見て回る旅をして、漠然と設計事務所で仕事をしたいと思っていたんです。ただ、モノを作る現場を知った方がいいと考え、縁あって京都へ茅葺き職人の修行に出ました。

その当時は自分なりに一生懸命仕事に取り組んでいたんですけど、今になって思えば親方に見透かされていたと思いますね。「職人として一生やっていくつもりがない」という本心が。僕の中には将来的に設計をしたいという気持ちがありましたし、一つのことに没頭するよりは、当時からいろんなことにアンテナを張って、仲間とやりとりしたり新しいアイデアを考えたりしていたので。

職人の世界は10年続けて一人前で、3年でようやく見習いとして認められます。僕は2年
修行して、この先も続けるかの岐路に立ったとき、続ける考えがすぐには出てこなかった。そのタイミングを引き際に、27歳で地元の鎌倉に戻ってきました。

立道さん

――鎌倉に戻ってきたタイミングで、ケーキ屋になろうと考えていたのでしょうか?

それがケーキ屋をやりたかったわけじゃないんです。僕はあくまで建築に対するこだわりがあり、街とどう関わっていくか、コミュニティデザインを一番に考えていました。

以前、アメリカのサンフランシスコに行ったとき、現地の人がコーヒーやフードを媒介にしてコミュニティを作っている姿を見て、フードで街とつながれたらいいなと思って。そして何を出すか考えたとき、母親が昔からケーキ教室を開いていて、その味は世の中でも売れるんじゃないかな、と。今は自分でケーキを作っていますが、当初は僕がディレクションをして母親にケーキを作ってもらうことを考えていました。

しかも、ケーキ屋だけに注力するのではなく、1案件5万円くらいの仕事を10個作ったら生きていけるなって。甘い考えですね(笑)。

――販売方法を自転車にしようと思ったきっかけは?

お店を開くのはリスクが高いですし、街の中で“何か”をやりたかったんです。そのとき、たまたまテレビでオランダの都市フローニンゲンが自転車シティとして取り上げられていた。 “街をリビングルーム化する”というキーワードに、僕の考えるカタチは「これだ!」と。自転車も好きでしたし、カーゴバイクで販売するなら目新しさもあると思いました。

でも、オランダからの直輸入は約40万円と高くて……。どうしようかと思っていたら、青山ファーマーズマーケットでカーゴバイクを作っている人と知り合い、その人が自転車で商いをすることを勧めていたんです。僕のやりたいことを伝えたら「よし、やろう」となり、オランダの自転車の3分の1くらいの価格でカーゴバイクを作ってもらえることになりました。

移動販売の経緯を話す立道さん

お金がないからアイデアで工夫し、身の丈にあった商売をしたい

――初期費用は、カーゴバイクのほかにどんなものが必要でしたか?

フードカーみたいに物をその場で作って売るわけではないので、ケーキを作るための場所が必要でした。自宅だと保健所の許可が下りないので、パン菓子製造業の許可が取れる場所を探しました。でも、工房に適した場所ってなかなかないんです。

僕は偶然アパートの一室の改装を許してくれる大家さんと出会うことができ、改装して工房として使えるようにしました。費用も普通に家を借りるのと同じ金額。

オーブンは母の菓子教室で使っていたものを借り、冷蔵庫や冷凍庫は自分が一人暮らし用に使っていたものや、祖父の家で余っていた大型のものをもらうことで支出を抑えました。あとは建築の道にいたこともあり、カーゴバイクの屋根や看板のデザインができるなど、ある程度は自分で作っていました。

初期費用は工房の改装や敷居礼金で100万円、カーゴバイクのオーダーメイドや什器をそろえるのに数十万円かかって、トータルで150万円くらいだったと思います。

――自分で作ることができるのは大きな強みですね。

お金に頼らず、アイデアを出しながら、費用を抑えて身の丈にあったことをやる。これをポリシーとしていました。だから、大きな借金をするのはカッコ悪いっていう考えが強くて。それに、借金をしようとしても、当時の僕に貸してくれるところもなかったでしょうし。

――やりたい仕事の一つとのことでしたが、ほかにも何か始めましたかことはありますか?

それが、いざケーキの移動販売を始めてみたら、ほかの仕事なんてできっこない! 早朝に工房に出勤し、一日中ケーキを作り、夜に販売。そして売り終わったら帰宅。最初は母がケーキを作っていましたが、お菓子教室と販売では作る量が全然違う。

母からすればいい迷惑で(苦笑)、楽しんで作ってくれてはいましたけど、いま考えると申し訳なかったですね。

――現在はご自身でもケーキを作っていますが、作り方はどうやって覚えたのでしょうか?

母から教わった部分もありますが、作っている様子を見ながら覚えました。これは職人時代の「見て覚えろ」の経験が活きましたね。母のケーキを作る姿を見て面白そうだと思ったのもありますし、意外と筋がいいとも言われて気を良くしたのが上達の秘訣だったのかもしれません。

移動販売のイラスト

昔ながらの行商にSNSを掛け合わせ、たちまち人気店へ

――2011年の7月に移動販売をスタートしていますが、始めてみてどうでしたか?

初日はドキドキしましたね。会社帰りの地元の人が中心でしたが、その日は遠方からも友人知人が来てくれて、うれしかったです。持って行ったケーキは、ありがたいことに全部売れました。

その後も基本的にロスが出ることはありませんでした。ただ、ケーキを作って販売できるのは週3~4日で、がんばって店を出しても週5日。一番売り上げの少なかった日は5,000円くらいで、多くても2万円届くか届かないか。1カ月の売り上げは約30万円です。

―ーそうなると、手元に残るのは……。

材料費や家賃を差し引いたら、手元に残るお金はほとんどないですね。僕は実家暮らしだったので、それで生きていけたようなもの。売り上げが上がってきてようやく自分の手元にお金が残るようになったのは、3年ぐらいたってからです。

正直、金銭面でみると厳しい面は多々あります。でも、移動販売は僕にとってのライフワーク。お客さんと世間話をしながらケーキを売ることはすごい幸せなことでしたし、ケーキを売って帰ってくると、その日一日がすごく楽しかったんです。

――SNSの効果もあり、移動販売のケーキ屋としてメディアで注目されましたよね。

作ったモノを売ることは「行商」として昔からありましたが、TwitterやFacebookが出てきて、古いものと新しい物を掛け合わせたらどんな化学反応が起こるか、個人的に興味がありました。実際、「面白い」と感じてくれた人が多く、大きな手ごたえを感じられました。同じようにユニークな活動をしている人とのつながりも、どんどんできましたし。

でも、認知度が高まることで、移動販売として続けていくことが逆に難しくなりました。多くのお客さんが来てくれるけれど、移動販売で作ったり売ったりできる量には限りがあります。お客さんとコミュニケーションを取りながら、さらにベストな状態で安定してケーキを作っていきたかったので、次のステップとして店を構えることを考え始めました。

箱詰めする立道さん

2015年、鎌倉・梶原に実店舗をオープン

――店舗のある梶原はアクセスがいいとは言い難いエリアですが、選んだ理由は?

鎌倉駅周辺から離れた家賃の安い場所、そうしたところでも店ができるんだということに挑戦したいと思ったんです。自分の育った梶原でちょうどいい物件があり、店を開くことを決めました。

――実店舗の開業となると、その費用も大きなものだったのでは?

この店は借り入れをして数千万円はかかっています。でも、大きな挑戦というほど肩肘の張ったものでもなく、自然な流れだと自分では思っています。

もちろん、移動販売とは違って店なので収益も考えますし、いまはスタッフも雇っています。その分、必要経費は大きくなりますし、売り上げも全然違う。ありがたいことにロスはほとんどありません。本当はもう少し作れればいいかなとは思いもしますが、このくらいがちょうどいい。

立道さん

そのときの状況に応じて、自分のやりたことをやっていく

――移動販売と実店舗では何もかもが違いますよね。同じような形態を考えている人にアドバイスをお願いします。

僕の働き方は、いろんな偶然や環境に恵まれたからこそできたこと。お金がないから移動販売から始めたいと相談に来てくれる方もいますが、そもそも僕自身がサクセスストーリーを描いていたわけではないんです。これまで出会ってきた人との縁、その積み重ねで今があります。なので、同じようにしても、必ずしもうまくいくとは限りません。

移動販売のときに出演したドキュメンタリー映画の中で、僕は「借金をせず、身の丈に合った形でケーキを作りたい。自分が幸せな気持ちでないと、おいしいケーキなんて作れない」と言っていたんです。でも今は、借金をして店舗を持っている。当時からすれば、全然違うことをしています。

だけど、状況はその時々で変わるし、やりたいことへのビジョンが大きくなれば、それに伴ってお金がかかります。やりたいことに対してしっかりと取り組み、根っこにある志が変わっていなければ、それでいいと思っています。

(南澤悠佳/ノオト)

取材協力

立道さん

立道嶺央さん

オーガニックな素材にこだわったアメリカンケーキを販売する「POMPON CAKES」の店主。2011年にカーゴバイクで移動販売をスタートし、SNSで居場所を発信すると、ケーキが瞬く間に売れていったほどの人気店に。2015年に鎌倉・梶原に店舗を構える。
▼POMPON CAKES
https://www.facebook.com/POMPONCAKES/

この記事の筆者

南澤悠佳/ノオト

有限会社ノオトに所属していた編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。

Twitter ID:@haruharuka__

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