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2017/02/24 up

間借りから自分の店へ、スモールスタートで始まったカフェ「magali」

text by 齊藤真菜

magaliの吉田さん

個人が飲食店を開くとなると、物件を取得して設備をそろえ、“自分の店”を構えるのが従来のイメージです。ところが、そうした形態ではなく少額の資金でスタートできる「タイムシェア」スタイルを選ぶ人もいます。

これは、曜日や時間帯などで複数の店主が代わる代わる営業するスタイルのこと。場所だけでなく、什器や調理器具、食器などの設備をシェアできることもあり、将来的に自分の店舗を持つことを目指す準備中の人や、ほかの仕事を続けながらお店を持ってみたい人にとって、初期費用を抑えながらお店を開くことのできる一つの手段です。

今回は、鎌倉のワインバーの店舗で日曜日のみの間借りカフェとして営業後、夫婦で新たに店を開いた「FOOD STAND magali」の吉田みどりさんに、なぜ間借りから始めたのか、自分で店を持つこととはどんな違いがあるか、お話を伺いました。

客として通っていた店で、バーの定休日にカフェをオープン

――吉田さんご夫婦の経歴を教えてください。

私は京都で調理師の専門学校に通いながらフレンチレストランでアルバイトをしていて、そのままそこに就職し、約3年勤めていました。その後東京に出てきて、中目黒のレストランで3年半ほど働いてから、結婚して鎌倉へ。

鎌倉に来てからは市内のフレンチレストランなどで働いて、その仕事を続けながら2011年に「magali」をスタートしました。

――以前から、自分のお店を持ちたいと思っていたのでしょうか?

私自身は自分のお店を持とうという考えはそんなになくて、むしろ学生時代から飲食店経営に興味を持っていた夫のほうが「店を持ちたい」とずっと言っていました。当時、夫は赤坂で編集の仕事をしていたのですが、鎌倉に引っ越してきた2年後に3.11の震災が起こりました。そのときに帰宅難民となったことがきっかけで「何かあったときには家族の側にいれるように」と考え、編集業と平行して生きるすべとして、自分たちの暮らしているエリアで店を開きたいという気持ちが大きくなったんです。

ちょうど夫婦でお客さんとして通っていたワインバーのオーナーさんに「店を持ちたい」と相談したところ、「いきなりでは危険だから、うちの定休日を使いなよ」と声をかけてくださいました。

間借りで営業していた当時を振り返る

――間借りで営業するにあたっては、どんな準備が必要でしたか?

ありがたいことに、ワインバーのオーナーさんにお店の機材やお皿、シルバー類もそのまま使っていいよと言ってもらえました。そろえたのはコーヒーカップくらい。なので、賃料の一部と仕入れ以外に、ほとんどお金はかかりませんでした。

――お客さんは順調に集まりましたか?

最初はワインバーのお客さんが多く、あとは鎌倉の飲食店の横のつながりで、知っている人が来てくれました。ほかにも、口コミで来てくれた方や、通りすがりにワインバーが開いていると思って入っていらして、違ったけど「じゃあコーヒーでも飲んでみようかな」という方もいましたね。

間借りを始めてみて、お客さまは料理だけでなくお店の雰囲気や会話も含めて、すべてを楽しみにいらしてるのだと感じました。同じ物件でも運営する人間が変われば、雰囲気がガラッと変わります。料理も評価いただきましたが、それだけでなく「日曜日だけの店」という部分もポイントだったのかなと思います。

実店舗オープンの経緯を話す

開業準備もしないまま、突然降ってきた物件情報

――間借りで営業しながら、ゆくゆくは自分の店を……?

それが、独立に向けた準備は具体的にはしていませんでした。日曜日だけで満足していたというか、その状況がすごく楽しかったんですね。それに営業しているのが一日だけだと、いつも常連さんに来てもらっている感じで、「これでお店の運営の仕方もわかったし、じゃあ次に進もう」という感じにはならなくて。夫も私もそれぞれの仕事を続けながら、日曜日は必ずお店に立つ、という生活を3年半ぐらい続けていました。

――では、何がきっかけで次に進むことになったのでしょうか?

鎌倉の知り合いの飲食店の方から、今の店舗の物件を居抜きで使ってくれる人を探しているというお話をいただいたことですね。お声がけしてくれた人は、私たちが数年間magaliをやっていることを知っていて勧めてくださったのですが、正直いつお店を出そうとは決めていませんでした。だから本当に突然降って湧いたお話で。

実際に場所を見て、駅から近かったので、やってみようかなという気持ちが芽生えました。昔から小さな店に好んで通っていたこともあり、広さもちょうど良く、自分の目が届く範囲で、しっかりとした空気感を作れそうだと感じました。

あとはもう家賃がすごく心配だったのですが、知り合いの不動産屋さんに相談したら、鎌倉でこの立地なら、そんなに悪い値段ではないんじゃないかとアドバイスをもらえて。それも自分の店を持つことに対して背中を押してもらえたと思います。

――いきなり物件の話が出たとなると、開業資金の準備に慌てそうですね。

そうなんです。特に開業のためのお金を貯めていなかったので、日本政策金融公庫で借りられるかなあ、と考えながら進めていました。うちのちょうど一年前くらいにオープンしたワインバーの方にも相談に行って、商工会の資金を借りるための相談窓口や、担当の方も紹介してもらいました。

店の紹介をする吉田さん

居抜きなら初期費用を抑えられる? ところが……

――準備資金がほとんどいらなかった間借りの時と比べると、お金を借りるのは大きなステップですよね。

正直、お金を借りられるかどうかもわからなかったですし、借り入れの審査が通るかどうか待っているときが一番緊張しましたね。これで借りられなかったら私どうするんだろうっていう。借りられるとわかっても、借金を抱える事実に複雑でしたが(苦笑)。

――開業資金のうち、借り入れの割合はどのくらいでしたか?

500万円のうち、借入額が5分の4の400万円ぐらいで、残りの100万円はいろんなところからかき集めた自己資金です。なるべくお金をかけない方が良いといろんな人に言われていたので、借金なしが一番理想でした。でも、保証金などを考えるとどうしても借りないわけにはいかなくて。

本を見ると、開業資金は約1,000万円と書いてありましたが、その額の借金を背負う自信はありませんでした。200~300万円がベストだなと考えていたのですが、前の厨房機器がほとんど家庭用で、これでは店を回せないと感じ、全部本格的な物に入れ替えました。この費用が大きく、厨房機器自体が80万円ちょっとで、その工事費とフロアの造作費用が約150万円でした。

――居抜きは初期費用を抑えられると言われますが、実際は……。

最初は、少しだけDIYでできたらいいなと思っていたんですけど、ほとんどすべていじりました。やっぱり欲が出てくるんですね。前のお店は10年ぐらい営業されていて、その印象をガラッと変えたいなと思ったので、大工さんにお願いしました。特に気になっていたのが、店の床の高さ。路面から少し下がっていて目線が下がりがちだったので、目線が上がるよう全部カウンターチェアーにするなど、以前の店のカタチはほとんど残っていないですね。

吉田さん

間借りと店を持つこと、金銭事情の変化

――自分の店舗を始めてみて、間借りの時と違うと感じるのはどんな部分ですか?

全然違うのは、やっぱり会計の部分ですね。これまでもレジ締めなどは経験していましたが、店全体のお金の流れは把握できていませんでした。

間借りの時は、自分の生活費は別口で稼いでいるので、売り上げがいくらぐらい手元に残るかっていうのは、ほとんど考えてなかったんです。原価を計算して、じゃあこれくらいの値段設定で、くらいは考えてはいましたが、結局売り上げはそのまま次の仕入れに使っちゃったりしていたので。

でも、自分のお店を持つとなると、そうした考えでは経営が成り立ちません。普段のメニューで原価を計算するのは当たり前ですが、今の店ではテイクアウトも行っているので、その包装資材系の仕入れの割合が思った以上に大きい。その割合をどう調整するかは頭を悩ませます。

また、以前は出していなかったお酒をもう少し出せるようにしたいなと考えています。オーダーが入ってから提供までの工程が少なく、ある程度の売上につながるためです。提供しているナチュラルワインやクラフトジンについて、お客さまと語らいながら、自分たちも楽しめますしね。

――お店を構えて1年弱経ち、現在はうまく配分できていますか?

勉強中ですね。月の売り上げが150万円くらいあれば軌道に乗っているといえるのかなと思いますが、今はまだ120万円だったらまあまあ良いぐらいです。

会計は全部自分で管理していますが、2017年度からは、税理士さんに入ってもらってそこをちゃんとやろうと考えています。

夫にもすごく言われるんですが、お店を回していくだけだったら保たないし、疲弊していくだけになってしまいます。お店を経営する以上、きちんと利益を出して、スタッフの給料を上げていかないと。それには、プロの視点を取り入れる必要があるなと考えています。

――magaliにはスタッフが1名いらっしゃいますが、どのタイミングで雇用を決めたのでしょうか?

最初は一人でやろうと考えていたんです。ただ、間借りの時の経験で、私が料理にかかりっきりだとドリンクが出せないし、お会計もできないし、お客さんのケアができない。お客さんが毎日ひっきりなしに来るかはわかりません。でも、スタッフがいればメニューを作ったり考えたりすることにも集中でき、売り上げも伸びてくるのかなと思い、お店がオープンする少し前ぐらいに、人を入れることを考えました。

今のスタッフは間借りの時のお客さんだったんですが、すごく好印象だったので、あの人に入ってもらえたらいいなと思って、何度も口説いて入ってもらいました。改めてスタッフを募集して、面接をして決めるっていう作業は負担がすごく大きそうなので、今の人が決まっていなかったら、一人でやっていたかもしれません。

今後の抱負を語る吉田さん

鎌倉での人の縁に助けられて生まれたお店

――鎌倉でのご縁がとても生かされているんですね。

本当にすごくラッキーなことが続いているなと思います。偶然にも、最初に引っ越してきた家のお隣さんが鎌倉の飲食店で働いてらっしゃる方で、その人と仲良くさせてもらって、鎌倉のいろんなお店に連れてってもらいました。そのおかげで、横のつながりができ、知り合いがたくさん増えました。その人は今別のところに住んでいますが、今でも仲良くさせてもらっています。

――今後はどんなことに挑戦していきたいですか?

客席が10席しかないので、その分テイクアウトにも力を入れて売り上げを上げたいと考えています。

ほかにも、仕入れ先の野菜の店頭販売やその野菜を使ったスムージーの提供、営業時間の見直し、ランチメニューの拡充など、まだまだ取り組んでみたいことはいっぱいあります。

(齊藤真菜+ノオト)

取材協力

吉田さんのプロフィール

吉田みどりさん

京都のフレンチレストランを皮切りに、東京や鎌倉の飲食店に勤務後、夫の将崇さんと共に、2016年5月にカフェ「FOOD STAND magali」をオープン。店名の「magali」は、ワインバーの店舗を間借りしていた当時から親しまれてきたもの。
▼FOOD STAND magali
https://www.facebook.com/cqmagali.kamakura/

この記事の筆者

齊藤真菜プロフィール写真

齊藤真菜

1987年生まれ、2009年Thames Valley University BA (Hons) Digital Broadcast Media卒。横浜を拠点に、市内や神奈川県内の地域情報を発信するウェブ媒体で編集・執筆を担当。http://wholenewsmarket.jp/

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