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2016/12/09 up

開業資金をどう準備する? 個人飲食店のクラウドファンディング活用法

text by 南澤悠佳/ノオト

笑う坂口さん

撮影=皆川夕美

お店を始めるとき、立ちはだかる壁の一つが開業資金の準備です。これまでは貯金や融資を利用したりすることが一般的でした。でも、ここ数年は資金調達の新たな手法として、「クラウドファンディング」が注目を集めています。

クラウドファンディングとは、専門のサイトを通じて製品やサービスのアイデアを発表し、不特定多数の人から資金の出資や協力を募ること。資金の使途をサイトに記載し、出資者に向けて金額に応じたリターンを用意します。資金が集まればプロジェクト成立となり、発案者は集まった資金を元手にそのプロジェクトを実行できる仕組みです。

今回お話を伺ったのは、クラウドファンディングで開業資金の一部を調達した横浜・大倉山の「pukutto(ぷくっと)食堂」のオーナー、坂口萌さん。彼女は、なぜクラウドファンディングを利用しようと思ったのでしょうか。

開業のきっかけは、姉の設計事務所で企画した食イベント

――坂口さんが食に携わることになった経緯を教えてください。

私はSEとして4年間働いていたんですけど、もう少し人と近い仕事をしたいと思うようになって、転職を考え始めました。姉に転職のことを相談すると、姉が経営する設計事務所に人手が足りないこともあり、「ウチで勉強してみたら?」と言われたんです。設計という仕事は、空間を作ってそこに人が集まりますよね。私が興味を持っていたのは、人と会うことや場所を作ることだったので、似ていると感じました。

設計事務所は2階建ての建物で、2階はオフィス、1階は打ち合わせスペースとして利用していました。でも、打ち合わせに使う以外は1階のスペースが余っている状態だったので、姉から「何か企画を立ち上げていいから、ここを使ってみて」と言われ、それで月1で主に食に関係するイベントを開くようになったんです。

ぷくっと食堂の店内

――食に関するイベントを開こうと思ったのはどうしてですか?

1階に家庭用のキッチンがあったので、私はそこで設計事務所のスタッフに毎日ランチを作っていました。最初は数人分だけ作っていたのですが、だんだんと姉のママ友や近所の人、仕事でお世話になっている工務店の人が食べに来てくれるようになりまして。

それと同時期、SE時代に一番仲が良かった(と私は思っているんですけど笑)同期の池田が、先に会社を辞めてコーヒーの勉強をしていたんですね。そういうのが重なって、食に関するイベントならできるな、と。そのときは、お店にするかは「できたらいいな」ぐらいの気持ちで、まだぼんやりとしていました。

――気持ちが具体化したのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

最初はイベントを手掛けているだけだったんですけど、集客の勉強のために「自由大学(※)」で「お店をはじめるラボ」の講座に池田と二人で受けに行ったんです。お店を開こうとしている人や、すでにお店を始めているOB・OGの方から話を聞けたのがすごく刺激的でした。

講座の最終日には、自分がどういうお店を開きたいかをプレゼンするんです。それもグッと人を惹きつけるものにしないといけなくて。姉が建築家というのもあり、立体的な図面(アクソメ図)の描き方を教わって、カウンターやテーブルの配置、動線を考えた資料を写真付きでプレゼンしました。それを見た姉から、「これならやれるじゃん、やってみなよ」と言われ、気持ちが固まりました。

お店を開くなら、池田と一緒にとは思っていました。私は食事、池田はコーヒーと、組み合わせられたらバランスがいいなって。

リトルプレスを見せる坂口さん

理想の店で1年間修行。やる気は満々、でもよく怒られていた……

――スタッフに食事を作っていたとはいえ、飲食業の経験はほとんどなかった状態ですよね。

そうなんです。学生時代にアルバイトのホールを担当したのが唯一の経験でした。料理のことはもちろん、経営のことも何も知らない。姉と相談して事務の仕事を減らしてもらい、1年半後にはお店を開くことを約束して、飲食店で修行することを決めました。

たまたま出張先でリトルプレスの『BonAppetit(ボナペティ)』を購入したのですが、目に飛び込んできた料理の写真が自分のイメージとぴったりだったんです。どういう人が作っているのか、そして料理に対する思いを知り、すごく惹かれましたね。

そこで、この本に掲載されていた東京・三軒茶屋にあるお店に行ってみたら、食事はおいしいし、オーナーさんと話したことで一層働きたいという思いが強くなりました。それで、「お給料はいらないので、ここで1年間働かせてください」とお願いしてみたんです。ちょうど、アルバイトの人がいなくなるタイミングだったので「いいよ」と言ってもらえて。ちなみに、お給料は出していただけました(笑)。

――働いてみて、どうでしたか?

昼から夜の週5日で、1年間よく怒られていました(苦笑)。あ、でもすごく優しい方なんですよ! 「本当に何も知らないんだな」と笑われました。店を開きたいって言っているのに、あまりにもできないことだらけで……。でも、意気込みだけはあったので、そこは買ってもらえました。

説明する坂口さん

クラウドファンディングで、いつかここに来る人に協力をお願いしたい

――1年間働いて、自分の店を持つ準備を進めたんですね。

すでに場所はあったので、初期費用として100万円、運転資金として60万円の計160万円は必要と試算していました。おそらく、個人のお店としてはすごく少ないと思います。自分の貯金で大半を用意し、姉から30万円を借りました。でも、イスやテーブルを購入する資金が少し足りなくて……。そこで、20万円をクラウドファンディングで調達しようと考えました。

――不足分を調達するのに、どうしてクラウドファンディングを利用しようと思ったのでしょうか?

人が集まる場所に興味があったので、ゲストハウスなどに何度か足を運んでいて、そこでクラウドファンディングを利用した話を聞いていたんです。実際、自分が応援する側だったときもあるんですけど、そうして関わっていると、オープンしたら何が何でも行ってみたいって思うんですよね。遠い場所にあっても、心は近いというか……。そういう感覚が「いいな」って思っていました。

また、私の場合は姉の仕事関係の人に食事を作っていた延長ということもあり、お店ってこういうカタチでも始められるというのを知ってもらいたいという気持ちもありましたね。それに、クラウドファンディングのサイトになら、ちょっとくらい暑苦しい熱意を書いても、許されるかなって気がしたんです。

――クラウドファンディングで集めた資金の使いみちが、イスやテーブルの購入だったのは何か理由が?

融資を受けるのとは違って、クラウドファンディングはいつかここに来てくれるかもしれない人のためにそのお金を集めます。ですので、椅子やテーブルといった目に見えるモノのほうが、来てくれた人が「これに使われたんだね!」と、喜んでもらえるんじゃないかなと感じていました。もちろん、提供する食事も恩返しの一つではあるのですが。

クラウドファンディングで購入したイスとテーブル

何度も掲載文章を推敲し準備は完璧! ところが……

――クラウドファンディングを利用して、苦労した点はありますか?

クラウドファンディングのサイトに掲載されるには審査があるのですが、実は1回落ちてるんです……。掲載する文章は自由大学の講座の教授を始め、数人の友人にも添削してもらい、「この内容なら間違いない!」というレベルまで磨き上げていたつもりでした。だから、まさか落ちることなんてない! と高をくくっていたので、審査落ちは晴天の霹靂でした。

しかも、修行した食堂で友人を集めたパーティーを開いて、「クラウドファンディングを活用してお店をオープンします! みなさんよろしく!」と大々的に宣伝していたんです。「ここに載せますよ」と、サイトのポストカードまで配ったのに載らなかったから、本当に恥ずかしくて(笑)。

それに開業のスケジュールも結構ギリギリだったんです。クラウドファンディングの実施期間は選べるのですが、資金の調達期間を1カ月と考えて、サイトへの掲載はお店をオープンする2カ月前で進めていました。審査落ちの結果に、慌てて自由大学の教授に泣きつきましたね……。教授の知人が運営しているクラウドファンディングを紹介してもらい、そこの審査はクリアしたので、無事資金調達の準備が整いました。

ぷくっと食堂のカフェスペース

クラウドファンディングを利用して実感したこと

――クラウドファンディングを利用するなら、審査に落ちる可能性も考慮しないといけないんですね。

審査基準はそのサイトによって異なるでしょうし、どういう基準なのかはこちらには分かりません。1つのサイトに頼るだけでなく、第2、第3候補も視野に入れておけば慌てなくて済んだのに……と、終わってから気づきました。

あと、私の実感ですが、大手のサイトにはビューアーがたくさんいるからといって、それがイコール自分にとっての最善とはならないと思いました。特に私の場合、今回のプロジェクトでは友人や友人の友人を支援者として想定していて、第三者が多く集まることは重要ではなかった。クラウドファンディングを利用するなら、自分の実施したいプロジェクトに合うサイトを見つけるのが大切だったんだな、と。実際、飲食店に特化したサイトもありますから。

――クラウドファンディングの資金集めは難航しませんでしたか?

意外にとんとん拍子で、目標の20万円は1日でクリアしたんです。資金が集まったからといってクローズにはならないので、実施期間の1カ月で最終的に30万円が集まりました。

――1日で目標達成ってすごいですね!

最初から友人の友人までを支援者として想定していたのもあり、クラウドファンディングに掲載する前から、SNSで「食堂を始める予定です」と投稿したり、仕事で会う人に「こういうのをやろうと思っているんです」と話したりして、じわじわと告知をしていました。そもそも、「クラウドファンディングって何?」という人もいるので、いきなり「クラウドファンディングで資金を募っています!」と告知しても、警戒心を持たれちゃうかな、と。ですので、先に周囲の人に話して種まきをしておくのは大事だと思いましたね。

坂口さん

食の提供に限らず、地域に還元できるカタチを模索

――最後に、今後の展望をお願いします。

2015年10月にお店をオープンして1年以上が経ち、姉と契約している家賃まわりのことはクリアできているのですが、売り上げの達成率は目標の8割くらいに留まっています。夏にガクンと売り上げが落ち、季節で変動があることを体感しました。一方で、少しずつですが地元のリピーターがついているので、地道に続けていく大切さを感じています。

提供する食事については、乳幼児を持つお母さんやその子どもたちが安心して食べられることを目的に始めたので、なるべく無添加で季節の野菜が摂れる献立を日々考えています。お店の経営を軌道に乗せるのはもちろんですが、食事を提供するだけでなく、子どもたちに食の大切さを伝えるなど、地域に還元できるような活動にも力を入れていきたいと思っています。

(南澤悠佳/ノオト)

※自由大学:「大きく学び、自由に生きる」をテーマに、ライフスタイルやIT、旅など、さまざまな講座を展開するソーシャル系大学。

取材協力

坂口さんと池田さん

坂口 萌さん

1986年生まれ。「毎日だって、おいしい」をコンセプトに、「まちにオープンな“社員食堂”」としてpukutto食堂をオープン。店名の「pukutto」には、「心がぷくっとする」=「なんかいいな、と感じる」という意味を込めた。写真左は、一緒に働く池田さん。
▼pukutto食堂
https://www.facebook.com/pukutto/

この記事の筆者

南澤悠佳/ノオト

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。ママ向けや不動産、会計など、企業のオウンドメディアを中心に担当する。

Twitter ID:@haruharuka__

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