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2016/10/04 up

カフェで法人化を実現! オーナーシェフが語るその経緯

text by 岸本良太

オーナシェフの奥村さん

料理人の道を歩む人にとって、独立開業を目指す人は少なくありません。そごう横浜店(神奈川県横浜市)にある「Dessert Dining Cafe FELICE(フェリーチェ)」のオーナーシェフ・奥村佑介さんは、10年前に個人事業主として元上司のカフェを受け継ぎ、7年前に法人化。現在は2店舗目の開業を計画しています。奥村さんは、なぜ個人事業主から法人化へとシフト変更したのか――。法人化のリアルな声を聞きました。

かつての上司との縁で、故郷の滋賀から横浜へ

――シェフになろうと思ったきっかけを教えてください。

高校時代にチェーンの回転寿司屋でアルバイトをしていたのですが、それがすごく面白くて。店長から包丁の使い方やシャリの握り方、今に活きるような飲食店におけるイロハをたくさん教わりました。さらに、対面でお客さんの顔を見ながら仕事ができる環境も良かったです。

進路を選択する時期、担任の先生は「飲食の道は大学に進学してからでもいいじゃないか」と、大学進学を勧めてきました。しかし、「将来やりたいこと、好きなことってなんだろう?」って考えたときに、自分は飲食の道に行きたいなと。もともと、小学生の頃から料理を作るのが好きで、よく母の料理を手伝っていたくらいですから。

高校卒業後は2年課程の調理師の専門学校に進学し、卒業後は京都府のイタリアンレストランへ就職しました。これが、シェフとしてのデビューですね。

――それから、横浜でお店を持つまでの経緯は?

そのイタリアンレストランで2年間働いた後、滋賀県のイタリアンレストランに転職し、そこで1年。その後、最初に就職した会社の現場(シェフ)の上司からの誘いで、今度は横浜のイタリアンカフェで働くことになりました。

イタリアンカフェで10年ほど働いたころ、最初に就職した会社の経営側の元上司から「カフェの運営を受託しないか?」との誘いがありました。元上司は会社を辞めて独立し、当時は事業主の独立支援をしていたのですが、そのときに自分のことを思い出してもらったというわけです。自分としては、いつか自分の店を持ちたいと思っていたので、「これはラッキーだ!」ってことで、迷いなくその話を受けました。

最初の2年は受託運営でカフェを経営し、のちに元上司の都合もあって、隣接する「そごう横浜店」にあるカフェを譲り受けることになりました。それが今の店舗です。独立願望はありましたけど、こんな形で話が来るのはラッキーでしたね。

――とはいえ、慣れない土地。しかも、横浜駅に隣接する百貨店内での店舗運営に不安はなかったのでしょうか?

「Dessert Dining Cafe FELICE(フェリーチェ)」は50席程度のカフェですが、当時で5年くらいの営業実績があり、集客率も高いことが分かっていたので、それほど不安はありませんでしたね。

同じフロアーにはカルチャーセンターがいくつかあって、そこからお客さんが流れてくるんです。みなさん、友だちを連れ添って4~5人くらいで来るので、安定した常連の固定客がついている感じですね。もちろん、一等地なので賃料は高いですが……。

フェリーチェの外観

法人化は資金繰り対策の一環!?

――お金に困った時期はありますか?

最初にお店を持ったときは、個人事業主といっても受託運営だったので、初期費用もかからず、そんなに問題はありませんでした。

ただ、店舗を譲り受けるときに、まとまったお金が必要になりました。店舗の取得費用が1,500万円で、敷金が500万円。これはさすがに借りるしかないと思いました。対デベロッパーもそうですが、対銀行で借り入れるときって、個人事業主か法人かで、その信頼性は大きく異なります。そこで、借り入れをスムーズに進めるために法人化を決めました。

これは後から聞いた話ですが、脱サラしていきなり店舗を持つ流れだったら借りられなかったそうです。それまで個人事業主として同じ店舗を経営していて、将来のシナリオもちゃんと見えたから借りることができました。どうやら、最低2年は実務経験がないと厳しいようです。あとは、百貨店という立地の良さも好材料だったみたい。僕みたいなパターンはまれですが、普通は店舗を持つとなると、だいたい居抜きです。それでも1,000万円くらいはかかる。自己資金として、その3分の1は持ってないと厳しいですね。

――お店を譲り受けてから、経営は順調に成り立ってきたのでしょうか?

いえいえ、どうしても売り上げの天井が決まってくるんです。下がることはあっても、上がることはないという……。売り上げを下げないためには、新聞の折り込み広告などの販促活動を続けないといけません。そんな中、2014年に売り上げを上げるための一環で始めたのがインターネット販売のサイト運営です。自社のウェブサイト上で宣伝するほか、Yahoo!ショッピングに出店もしました。Yahoo!ショッピングは無料プランを利用しています。

このサイトを作ったのは、資金難の時期を乗り切る目的もありました。当時、8%の消費税増税のあおりを食らった時期で、まさに自転車操業でした。4月の増税開始のタイミングから、その年の11月くらいまでは、そんな状況が続きました。そもそも、百貨店自体の客入りが落ちていましたから。

そこで、運転資金を借りることになり、必要になるのは収益計画。売り上げ向上施策としてインターネット販売サイトを立ち上げ、その費用として資金を借り入れることを考えました。自社サイトの構築は外注して、開設時に100万円。それから、メンテナンス費用として月1~2万円。でも、正直なところ、ネットからの注文が増えても経営はキツいんですよね……。今の店舗だけでは商品を作るキャパシティもないし。なので、次の店舗もそろそろと考えています。

調理をする奥村さん

カフェ経営の会計事情とは

――オーナーシェフの立場から、会計上ではどんな大変さがありますか?

どうしても、日々の経理がつきまといますね。カフェの経営にかかる主な費用は、家賃、材料費、そして人件費。家賃は、交渉の余地はほぼないですよ……。どちらかといえば、上がる方の圧力が強いくらいです。材料費は、料理屋なんだから当然質は落とせない。だから、いかにロスを減らすかを工夫する必要があります。

そして、人件費。僕がオーナーシェフで、ほかに店長1人、アルバイトが月1勤務も含めて15人います。経営者としては、暇な時間はできれば帰らしたいんだけど、アルバイトの立場としては働いてお金を稼ぎたいに決まってる。なので、その需給がうまくいかなくて、辞めちゃうこともありますね。あとは、専従者として奥さんにお店に入ってもらうこともあります。これは小さい店舗で、しかも子どもができるまでの間しかできないですね。

――法人化されているので、普段の経理や確定申告は、税理士頼りですか?

はい。日々の取引は、自分でパソコンを使って「弥生会計」に入力します。それを税理士にチェックしてもらって、月次報告書を作ってもらっています。費用は、訪問も込みで月3万円。ただ、そのほかにも追加料金があって、年度末の決算料は30万円、年末調整や消費税申告は7~8万円かかります。

話はさかのぼりますが、個人事業主としての1年目は税務署から税理士を紹介してもらって、無料で対応してもらいました。そのときはJDLのソフトを使っていましたね。2年目は、そのソフトを使って自分で青色申告(65万円控除)を行いました。実は、法人1年目も個人の延長と思って自分でやってみたけど……、初めて見る書類も多く、書き方が合っているのかわからず大変でしたね。そこで、2年目からは税理士の紹介サイトから探した税理士に頼むことにして、今で7年目になります。

――日々の売り上げの記録も税理士にお願いすることはしないのでしょうか?

正直、毎日金額を入力するのは面倒です(苦笑)。できれば丸投げしたいけど、そうすると日々の数字がつかめなくなる気がして……。それと、経営に口出ししてほしくないからっていうのも大きいかな。経理は素人でも、経営者としての経験は積み上げてきたし、それなりの自信がある。脱サラしてすぐって人だったら、そういうコンサル的なサービスもありかなとは思います。

仕込みをする奥村さん

いつかは地元にも店を開きたい

――大変なことも多いと思いますが、飲食店を経営していて良かったことを教えてください!

お客さんの「おいしい」って言葉や笑顔がダイレクトに伝わってくるのが醍醐味ですね。スタッフがお客さんからお褒めの言葉をもらった話を聞くのもうれしいです。

飲食店は味だけじゃなく、お店の雰囲気もとても大切で、それがお客さんのリピートにもつながります。こういう積み重ねが自信にもなります。現実的には借金を負うこともあるし、怖くはあると思います。でも、もし目指す人がいるなら、好きなことには勇気をもって踏み出してほしいと思います。

――奥村さんは、今後お店をどう展開していきたいと思っていますか?

近い将来としては、新しい店舗を出したいですね。今の店舗から遠くない立地で、初期費用が抑えられる居抜きで考えています。これは家賃との兼ね合いですけど。

そして、いつかは地元の草津市(滋賀県)にも店舗を出したいですね。どうしても現場は見たいので、月に何回かは行き来できる、そんなお金と時間の余裕もほしいかな。そのためには、お金を稼がないと(笑)。頑張ったことの見返りでもありますし。あとは人も育てたいけど、今は社会保険の負担が厳しくて……。でも、本人にやる気さえあれば前向きに考えます!

(岸本良太+ノオト)

取材協力

奥村さん

奥村佑介さん

1978年、滋賀県生まれ。株式会社FMD代表取締役。横浜市で「Dessert Dining Cafe FELICE(フェリーチェ)」のオーナーシェフとして店舗を運営。
▼Dessert Dining Cafe FELICE(フェリーチェ)
https://www.cafe-felice.com/

この記事の筆者

岸本良太

株式会社エフアンドエム。2001年入社。会計サービスの営業職として配属。その後、子会社でのシステム開発業務、営業本部でのデータ分析業務などを経て、経理部へ。現在は主に管理会計と決算資料作成を担当。

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