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2016/10/14 up

知られざる落語家のしきたり&マネー事情とは?

text by 末吉陽子

話をする落語家の男性

撮影=南澤悠佳/ノオト

江戸時代に誕生した大衆芸能「落語」。現代まで脈々と継承されてきた伝統的な話芸は、聴く人を独特な世界に引き込みます。これまで年配の人たちが愉しむ“シブめの芸能”というイメージが定着していた落語ですが、最近は落語をテーマにした漫画やドラマが続々とリリースされたり、“落語からビジネススキルを学ぶ”と銘打った書籍が刊行されたりしたことで、若者の間でも落語ブームが広まっています。

以前より親しみやすくなってきた落語ですが、まだまだベールに包まれている伝統文化の世界。落語家として生きていく苦労は、なかなか窺いしることができません。そこで、若手落語家の快楽亭ブラ坊さんに、落語の道を歩むことになったきっかけや、落語家のしきたり、収入事情について教えてもらいました。

落語の世界観に魅了され、定職を捨てて入門を決意

――最初に、落語家を志すことになったきっかけについて教えてください。

大学まで地元の愛媛県で暮らしていたのですが、就職を機に東京に出てきました。初めて落語を聴いたのは、就職してしばらく経った頃。母が上京してきたときに、観光案内をしていたのですが、母が歩き疲れてしまって……。どこかで休もうかと思っていたときに、たまたま目の前に寄席(※)があって中に入りました。人生初の落語だったのですが、純粋に「面白い!」って思いましたね。もともと「お笑い」は好きだったのですが、落語のCDを図書館で借りたり、ネットで調べたりして、いろんな人の落語を聴き始めるようになりました。

(※)落語以外にも講談や浪曲、漫才などの演芸を観客に見せるために造られた常設の興行小屋のこと。東京では、新宿末廣亭・鈴本演芸場・浅草演芸ホールなどが有名。

――落語のどんなところに惹かれたのでしょう?

やっぱり登場するキャラクターと世界観ですね。落語には、しばしば「与太郎」っていうキャラクターが登場するのですが、すごく馬鹿でいつもドジをして、みんなに迷惑をかけているんです。でも、皆から愛されているんですよね。これがもし会社とか現実の世界だったら、そういう人って邪魔者扱いされて、怒られてばかり。でも、落語の世界では与太郎みたいなダメな人にこそスポットが当てられて、活躍している。「カッコいいな」「いい世界だなぁ」って思ったんです。

――最初は聴いて楽しむだけだった落語を仕事にしようと思うようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

不思議なもので、そのうち自分でも落語をしたくなってきたんですよね。そのときは、市場で花器を販売する業者に勤めていたのですが、人生は一度きりだしダメもとで「落語家になろう!」と。そんなことを考え始めていた頃に、今の師匠の「快楽亭ブラック」の落語に出合いました。師匠は下ネタというか、とても際どい創作落語で有名なんです。ある日師匠の独演会を聴きに行ったとき、すごい下ネタを盛り込んだ落語をやるのかと思いきや、古典落語を披露したんです。それがとても面白くて、「こんなに振り幅があるなんてすごい人だ!」と感銘を受けました。自分はこの人の芸が一番好きだと思って、弟子入りを志願しました。

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「二つ目」に昇進するまでの月の収入は数千円!

――落語家になるためには、まず師匠に弟子入りが必要ですよね。落語家ならではの身分制度について、ご説明いただけますか?

落語家の最上位である「真打(しんうち)」になると弟子を取れるのですが、まずは真打に弟子入りさせてもらえないかお願いしに行きます。入門を許可されたら、最初は雑用などを任される「見習い」からスタートします。次に、寄席での呼び込み太鼓を鳴らしたり、セッティングしたりする「前座(ぜんざ)」を、通常3年から5年務めます。

それくらい経つと師匠から、ようやく一人前として落語会などに出演できるようになる「二つ目」として認められます。さらに、二つ目を10年ほど経験すると、寄席でトリを務めることが許され、また弟子を取ることができる「真打(しんうち)」に昇進します。私は今「二つ目」ですが、ちょうど6年掛かってしまって、ようやく今年の4月1日に昇進しました。

――それぞれ、収入はどのようになるのでしょうか?

「見習い」だと給料はいただけないですね。そのため、師匠の家に住み込みをして手伝いをしながら食べさせてもらうことになります。

階級が上がって「前座」になると、寄席に入るようになります。基本は1年365日毎日休みなし。師匠方の着物を畳んで、太鼓を叩いて、高座をセッティングするという、いわゆる落語の舞台を整える手伝いをして、大体1日数千円くらいになります。毎日寄席に出ていると、1カ月でなんとか家賃が払えるくらいはもらえるらしいです。

私の師匠の場合、今は協会や団体に所属していなので、寄席がありませんでした。そのため、入門して1年くらいは、バイトを許可されていたので、居酒屋でバイトしていました。落語での収入はお小遣い程度で月に3,000円くらいのときもありましたね。

「二つ目」になるとようやく自分で仕事を取ることを許可されますので、自分の頑張り次第で収入を上げていくことができます。同じく「真打」になって、名前が売れるようになれば、落語イベントなどのギャラも上げてもらえます。

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――「二つ目」になるまで、落語で食べていくのはかなり厳しいようですね。

そうですね。ただ、落語家を志す人はお金のことに割と無頓着かもしれません。収入よりも師匠が落語家としてこれまでどうやって生きてきたのかを、背中を見て学んでいくことが大事なんじゃないかなと思いますね。

――「二つ目」として認められると営業機会が増えるということですが、寄席をはじめ落語一席の収入はどれくらいになるのでしょうか?

先輩から聞いたのですが、寄席はお客さま1人につきいくらって言うのが相場らしいです。大きな収入にはつながらないので、落語家にとっては顔を売る場所なのかなぁと。

あとは、自分で落語会などを主催することもあります。たとえば、「らくごカフェ」「新宿ミュージックテイト」「新宿道楽亭」などのスペースは、お金を出して会場を借りることができます。お金さえ払えば、あとは自由に使っていいよ、という感じです。なので、入場料2,000円で設定した場合は、お客さまを20人呼べば売り上げは4万円。そこから会場費を引いた差額が収入になります。

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――「二つ目」に昇進したことで、経費はどれくらい掛かりましたか?

黒紋付や手ぬぐいを作る経費が発生します。落語家の世界では、先輩からご祝儀をもらうと手ぬぐいを返すという文化があります。「二つ目」に昇進したときに、大体3,000円から5,000円のご祝儀をいただくのですが、必ず御礼に手ぬぐいを渡すので、200枚くらいは作りますね。デザインから染めまでしっかりとしたものを作るので、1枚500円くらいでしょうか。

年始の挨拶でも渡すので毎年作らないといけません。あとは、お世話になった師匠にはお歳暮やお中元を贈ります。さらに、二つ目以上になると見習いや前座の後輩にお年玉やご祝儀を渡さないといけないので、割と出費はかさみます。

ギャラは「家で寝ているよりマシ」だと思える額でゆるく設定

――ちなみに、ブラ坊さんは月あたりどれくらいの収入を得ているのでしょうか?

かなり増減があるのですが、多い月ですと落語関係で20万円くらいです。でも、遠方だったら交通費も掛かるので、実質20万円がそのまま収入にはならないですね。何もない月は本当に無収入です。

――落語以外の仕事というのもあるのでしょうか?

私の場合は、知り合い伝手に結婚式やお祭りなどの司会を依頼されることが多いです。むしろ、そちらの方が落語より多い月もありますね。

――司会をはじめ落語などでイベントに呼ばれる場合、ギャラの下限は決めていらっしゃいますか?

決めてないですね。家で寝ているよりマシだったらやりますって感じです(笑)。今はとにかく人前に出たいので、ギャラは一旦脇に置いています。とはいえ、あまりに安すぎると交渉しますけどね。大体1万円くらいがボリュームゾーン。ちなみに、これまで一番高かったのは5万円ですね。

なかには、「前座のときは1万円だったけど、二つ目になったからギャラを上げてほしい」と交渉する人もいるようです。ギャラに関しては落語家によって考え方もそれぞれですね。

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落語家として生きていくには売れないとダメ

――有名か無名によって格差があるようですが、売れている落語家は何が違うのでしょうか?

単純に「落語がうまい、面白い」。これに尽きますね。テレビに出ていなくても、「あいつは面白い」と評判になると独演会で150人くらいの会場が満席になるという人もいます。おそらく落語家の仕事のうち8割を、2割の売れている落語家が取っているんだと思います。

お祭りや落語カフェ、独演会など、関東では土日だけも50くらいの落語会が開催されているといわれていますが、最近落語家の人数も増えているのでお客さんを取り合っているような状況ですね。あと、売れている人は下っ端にも本当に優しい。人徳があるんだなって思います。

――最後に今後の目標について教えてください。

名刺にも書いているんですが、「できることなら何でもやる」、これをモットーに精進していきたいと思います。

うちの師匠も映画評論や風俗ライターなど、落語以外の仕事をしているので、別の路線に行く人がいても良いんじゃないかなと個人的には思っています。ただ、落語以外のお仕事でも声を掛けていただけるようになるには、やはり落語が上手になることは必須ですし、人前にたくさん出る機会を作って爆笑を取りに行かなくてはいけません。あと、いまは古典落語が多いですが新作落語もやりたいですね。

(末吉陽子+ノオト)

取材協力

快楽亭ブラ坊さん

1986年1月31日生まれ。愛媛県松山市出身、品川区在住。ブラ坊という名前は、夏目漱石の小説「坊ちゃん」が由来。2010年5月に2代目快楽亭ブラックに入門。2016年4月 二つ目昇進。東京では自身の落語会、商店街などのイベントにも出演。ケーブルテレビ品川「商店街大好き」レギュラー。9月19日、新宿道楽亭で新企画「どこまでもどこまでも」を開催。
Twitter ID:@kairakuteibra

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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