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2016/09/02 up

芸人の収入事情とは? フリー会計士&芸人・わたび~に聞いてみた

text by 末吉陽子

収入状況について話す芸人のわたび~さん

撮影=波多野友子

テレビや劇場などで活躍する“お笑い芸人”。ネタを観る人たちを笑顔にすることが彼らの仕事ですが、売れている芸人と、その他大多数の売れていない芸人の収入格差は、一般的にもよく知られているところです。実際、芸人だけでご飯が食べられる人は少ないのでは? そこで、あまり知られていない芸人の収入事情について、会計士とスクール講師、芸人という、二足ならぬ三足のわらじで活動する、わたび~さん(わたびー先生)に聞きました。

東大卒芸人の先駆けに! ……のはずが崖っぷちの連続だった日々

――わたび~さんは、会計の知識を盛り込んだフリップ芸で『R-1ぐらんぷり』などにも出場していますよね。さらに、東大卒のエリート! 順風満帆のスタートを切ったのでは?

それがそうでもなく(苦笑)。もともと、「いい大学に入れば、仕事の選択肢も広がるだろう」と特に何がやりたいかが明確でないまま、かなり頑張って東大に入りました。いざ大学に入ってみて、「何をやりたいかな」って考えたんですけど、自分はサラリーマン体質じゃないということくらいしかはっきりせず(笑)。そのため、資格を取って自由に働きたいなって漠然と考え始めました。

――「これがやりたい!」というよりは消去法で考えたと。

そうですね。そこで、ちょっと会計士の勉強をかじったんですけど、とてつもなく大変で「これは無理だな」と。モチベーションを上げられずにいたとき、たまたま友人の結婚式の司会を任される機会があって、参加者に「プロの方ですか?」と言われたんです。そんなに派手なことをしたわけではないのですが、全体的になんとなく盛り上がって、皆の笑いを広げていくっていうのが得意だし、自分ができることかなと思うようになりました。そこではじめて、“お笑い”の選択肢もあるかな思ったんですが、結局大学は留年して7年間くらいだらだらしちゃいました。

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――卒業後はどのような仕事をされたのでしょう?

就職活動はせずに、1年くらい化粧品や家庭用品などの実演販売士として働いていました。いわゆるフリーターですよね。もう17年くらい前の話ですが、当時は「東大から上場企業に就職する」という王道を選ばないことで、チャレンジの気持ちもありました。特に自分の所属していた実演販売士の派遣会社は、芸人やタレント、フリーアナウンサーなども所属していたと聞き、そういう道に何かつながりができないかなという気持ちもありました。

採用されてからは大手百貨店からドラッグストアまで、いろいろ飛び回りました。「出張は楽しい」と思っていたのですが、それもつかの間のことでした……。あるとき北海道へ出張し、最初は1泊2日だったんですけど、成果が良くて「今度1週間行ってきて」と言われたんです。1週間ぶっ続けで声張り上げっぱなしで、喉はやられるわ、しんどいわで、もう地獄でしたね(笑)。夢でも声を張っていましたから。それがきっかけで、もう辞めようと。

――それは苦しいですね……。それからどうされたのでしょうか?

本当に崖っぷちで、「このままでは人生を失ってしまう」と思い、今度こそ本気で会計士を目指そうと決心しました。そのときに、演劇をやりながら会計スクールの講師をやっている人がいるって聞いたんです。講師業というのは、比較的制約が少ないと聞いたので、そういう道もあるのか、と。お笑い芸人の道も諦めていなかったので、まずは講師を1つの目標として受験勉強をはじめました。

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事務所所属5年間でギャラ7,000円

――それから無事会計士に合格されて、今は「会計事務所」「講師」「お笑い芸人」として、マルチに活動されていますよね。現在、事務所に所属されずにフリーランスの芸人として活動されているとのことですが、事務所に所属されていたことはあるんですか?

2014年までは、浅井企画という事務所に所属していたのですが、2015年からフリーで活動しています。最初は、お笑い芸人として所属していましたが、文化人枠の方がいいんじゃないかということで所属を変えたんです。でも、やはりお笑いをやりたいなという思いもあり、ちょうど別の事務所の芸人と漫才コンビを組もうという話が持ち上がったので、そのままだと2つの事務所をまたぐことになるため、僕が事務所を辞めることになりました。

ところが、去年「M-1グランプリ」に出たんですが、出来が全然良くなくて、全く笑いが起こらずに1回戦で敗退してしまったんです(笑)。それで、結果的にコンビもすぐに解消して、事務所の転属の話も立ち消え、結局一人でフリーでやることになりました。

――事務所に在籍されていた頃は、どのような仕事をされていたのでしょうか?

実は、ちゃんと仕事をしたのは1回だけなんです。クイズ番組に出ましたね。事務所が所属芸人に「ドラえもんのクイズをやるのでドラえもんに詳しいと思う人はエントリーしてください」っていう一斉メールを100人近い芸人に出したんですけど、たった2人しか応募がなくて。結果的に2人ともテレビに出ることができました(笑)。これまで、かなりのオーディションに応募しても箸にも棒にもかからなかったんですが、意外とあっさり出られるもので分からないもんですね。でも、5年間も所属していてギャラの出た仕事はその1回だけ。5年間でギャラ7,000円という結果に終わりました。

――ということは、お給料はもちろん出来高制ですよね?

そうですね。定期的に必ず仕事が取れる人は給料制のこともあるみたいですが、それは本当に稀なケースだと思います。事務所の立場からいえば、全然売れない芸人は、とりあえず出来高制にしてほったらかしておくんですけど、売れ始めた人は出来高のままにしておくか給与制にするか悩ましいところだと思います。給与制にしたら安定はしますが、もしバンバンヒットしたらギャラの頭を抑えられることにもなるんですよね。

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ブランド品のアピールや番組内での自腹での支払いは経費対策の一環!?

――事務所も人材を見極めているといことですね。個人事業主であれば、経費も発生すると思うのですが、芸人の経費はどんな範囲で決められているんでしょうか?

経費として認められる範囲は非常に難しいですね。僕の一存では言えない部分ですが、芸人は自ら営業して切り開いていかなければいけないので、自分の仕事の可能性を広げるためにこれは必要なんだというところは、ある程度認められると思います。もちろん、ネタに使う道具とかは「消耗品費」などで認められるはずです。

――そう考えると、どこまで経費として計上するか、芸人やタレントにとっては気になるところですよね。

そうですね。特に稼いでいる額が大きければ、税務署のチェックもより厳しくなると一般にいわれてますから。たとえば、大物タレントが高いブランド品を身につけてテレビで自慢しているところを目にしたことがある方もいると思いますが、僕からすると「タレント活動に必要な経費だと、見せるためなんじゃないか」という見方をしてしまいますね。

あと、勝負で負けた方が自腹で食事をご馳走する、というような番組もありますが、あれが本当に自腹なのであれば、十中八九経費で落としているのではないかと思います。もし、数千万円稼いでいるようなタレントさんであれば、収入の半分くらいは税金で徴収されるわけですから 実質的な負担は半分くらいでゴチってることになりますね(笑)。

――さすが、会計士さんとあって、見ている視点が違いますね! では最後に今後のご活動の方向性を教えてください。

今は会計士や講師の仕事の割合が大きいですが、今後も会計士芸人「わたび~」として、会計の知識を活かしながら、自分なりのお笑い活動をできればと思っています。そんなに面白い人間ではないですが、エンターテイメントが好きで、憧れを持っていますので(笑)。いつか、テレビなどのマスメディアで、多くの人に「面白くてタメになる」番組などを提供できたらこの上ない喜びだなって思います。

(末吉陽子/ノオト)

取材協力

わたび~さん

1974年、千葉県生まれ。東京大学経済学部卒業。公認会計士・税理士・証券アナリスト。日商簿記検定1級。TAC株式会社の専任講師として大学等で簿記を教えるかたわら、会計をテーマとしたネタでお笑い活動を行い、毎年「R-1ぐらんぷり」に参戦している。2016年、NHK高校講座簿記講師。

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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