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2016/08/05 up

【実録トラブル】建築士を悩ます施主の要望、負担はどこまで?

text by 末吉陽子

説明不足に怒る夫婦

感性で勝負する仕事は、ときに顧客の希望とすれ違うこともありがち。すぐに直せるレベルなら「サービスのうち」と割り切れますが、大きな負担が生じる場合は、簡単に受け入れることは難しいものです。そんな1つともいえるのが住宅。

今回の実録トラブルでは、建築士が巻き込まれがちな施主(依頼主)とのイザコザについて、民事事件から刑事事件までマルチに活躍する、畠山慎市弁護士に解決策を聞いてみました。

色味についてのクレームはどこまで考慮するべき?

大手ハウスメーカーに勤務した経験を持つ建築士のMさん。デザインにこだわったオーダーメイドの住宅を手掛けたいと設計事務所を立ち上げました。そんなMさんは、“建築士あるある”として、よく起きる施主とのイザコザを嘆きます。

「設計の要となる図面やパースは、施主さまと綿密に打ち合わせをして作成します。住宅は建ってしまったら取り壊すことはできません。絶対にやり直しが効かないので、基本的にどんな建築士も施主の依頼と食い違いがないように、打合せ記録をその都度取っています。それをもとに契約書を取り交わし、外壁や内装をデザインし、建材などの材料を発注するわけですが、どうしても“色味”については、想像していたものと違う、というクレームもまれに発生します」(Mさん)

ほとんどの建築士は、色味にまつわる契約にはとくに気を配り、色見本を見せるなどしてしっかり話を詰めていきます。そのため、多くの場合は施主がクレームを取り下げるかたちで終息するそうです。

それでも、レアケースとして「どうしても納得できない!」という過去に1人だけおり、Mさんもしぶしぶサービスで塗り直しをしたこともあるそう。 はたして、こうした“色味トラブル”はどこまで建築士が責任を負うべきなのでしょうか。さて、畠山弁護士の見解とは?

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説明責任がはたされていれば負担の必要はなし!

「これは、住宅の規模に関わらずよくあるトラブルです。しかし、施主さんに壁ペイントや屋根、外壁などの色見本を確認してもらったうえで契約書を作成し、合意しているのでしたら、法的に建築士や設計事務所がやり直しに応じなければならないケースというのはほぼないと思います」(畠山弁護士 以下同)

ただ、できる限り紛争を回避するためには、建築士はできるかぎり、丁寧に説明しておくことが重要といえます。

「たとえば、『色見本よりも実際は薄く見える、濃く見える』というのはプロであれば分かるはずですから、トラブルを回避するために、できる限りの説明は尽くしてしておくべきです。さらに万全な対応をということであれば、その色を建材見本に塗り、確認してもらうことも考えられると思います。ただ、施工図や色見本を提示して、合意が得られているのであれば、法的に建築士や設計事務所が責任を問われるということはまずないと思います」

また、色味関係でいえば、契約書に具体的に品番を入れて、「いつ色見本を見せて」「いつ確認を取ったか」ということもしっかりと打合せ記録などに明記しておくことも大切だとか。

サービスでやり直す場合は、その旨を相手に伝えるのがベスト

とはいえ、施工途中に「思っていた色と違う」という指摘を受けて、負担が大きくないレベルであれば、サービスで材料を発注し直し、施工をやり直すというケースも少なくありません。

「これは実に悩ましい問題です。設計事務所としては、良かれと思ってしていることですが、そのサービスが1つで終わらずに、『ここも違う』とか『あれも直してほしい』となって、要望がだんだんとエスカレートしていき、サービスの範囲では対応しきれなくなってしまうことがあります」

もし、サービスで一部をやり直すと決めたとしても、その場合は、施工側のミスではなくサービスだということとその範囲を明確にし、それ以上のやり直しには別途費用がかかるということを明示しておくことが重要です。

「これは、事後に『あの工事のやり直しは施工側にミスがあったからだ』『ミスなのだから契約違反だ。だから、契約を解除して、損害賠償を求める』などといわれてしまうことを回避するために重要なことです。『こちらにミスがあったからやり直すのではなくて、サービスとしての対応です』という趣旨を記載した書面を交付して、その写しを保管しておくということも対策の1つだと思います」

工事のやり直しにより、建物の引渡しが遅れた場合、それが、建築士側の事情によるものとされると、その間のホテル滞在費や家賃の負担まで求められるケースもあるのだとか。

家は一生に一度の買い物なので、知らず知らずのうちに施主からの要望が大きくなりがちです。建築士も対応すれば対応するほどドツボにハマる可能性があるので、ある程度クールに対応する姿勢も必要なのかもしれません。

(末吉陽子+ノオト)

取材協力

畠山慎市さん

畠山・黒川法律事務所パートナー弁護士。民事、家事、刑事など幅広い分野の事件を扱う。駒澤大学大学院法曹養成研究科非常勤講師。東京弁護士会所属。「ガイドブック民事保全の実務」などの著書がある。
▼事務所ウェブサイト
http://hklo.jp/

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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