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2016/08/12 up

【実録トラブル】ライターの“署名未記載”、機会損失は認められる?

text by 末吉陽子

PCを打ち込む女性

ビジネスにおいて起きがちなトラブル。企業だけではなく、フリーランスや個人事業主も例外ではありません。裁判沙汰までにいたらなくても、“あのトラブルって法的にどうなの?”とモヤモヤを引きずることも。

そんなトラブルを法律的に解決する方法はあるのか、弁護士の見解を紹介するこの企画。今回は、ウェブライターが実際に体験したトラブルをピックアップします。民事事件から刑事事件までマルチに活躍する、畠山慎市弁護士に解決策を教えてもらいました。

インターネット上で拡散されたのに、記事の転載先にクレジットがない!

ウェブを中心に執筆活動をしているライターYさん。キャリア4年目を迎え、それなりに実績も積んできました。そんなある日、著名人のツイッターに見覚えのある記事のリツイートを発見。よくよく読むと、どうやら自分の記事! 読者からの評価も高く、とても誇らしい気持ちになったそう。

……ところがYさん、あることに気がつきます。

「当初掲載していた媒体Aにはクレジット(署名)が付いているものの、転載先の媒体Bに載っている記事にはクレジットがないことに気が付きました」(Yさん 以下同)

Yさんが直接取引しているのはクライアントである媒体A。著名人にツイートされていたのは、媒体Aが転載の契約をしている媒体B。ただ、媒体Aの文章がまるまる載っているため、見た目には完全に媒体Bが作成したかのような記事。さらに、媒体Aではなく媒体Bの方が、一般的にもよく知られる有名サイト。そのためか、著名人は媒体Bで配信されている記事をリツイートしていたというワケ。

「正直ショックでした……。もちろん原稿料は一律なので、ほかの媒体に転載されたとしても収入は変わりません。でも、せっかく著名人の方に読んでもらって評価もしていただき、さらにたくさんの人にリツイートされたのに、誰にも自分の記事だって気づいてもらえない。これってヒドイ話ですよね? クレジットを載せることで、新しい仕事が舞い込むことだってあるはずです!」

相当お怒り気味のYさん。では、畠山弁護士の見解は?

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まずは、記事についてどんな権利が認められるのか確認する

「まず前提として、その記事について「著作権が認められるかどうか」を確認する必要があります。たとえば、「〇月□日は晴れ」といった思想や感情が表現されたものではない文章や創作性が認められない文章には著作権は認められません。ただ、ライターさんが作成した記事ということであれば、通常は、著作権が認められるものと考えていいでしょう」(畠山弁護士 以下同)

著作権が認められる場合、記事の作成者には「氏名表示権」という権利が認められます。ただ、「氏名表示権」を行使しませんという合意をしている場合には、氏名を表示するように求めることはできません。広告物の文章を想像すると分かりやすいと思います。したがって、そのような場合を除いては、氏名を表示するように求めることができるというのが原則になります。

「そのため、まずは媒体Aとの間で、記事の転載の取扱いについてどのような契約をしたのか、『氏名表示権』の行使についてどのような取り決めをしたのかという点を確認してください。もし、『氏名表示権』の不行使を約束していないのであれば、媒体Bの転載にクレジットが漏れていることは問題です。その場合には、媒体Bに対して、氏名を表示するように要求することができます」

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機会損失は損害賠償の対象になるの?

……という前提を踏まえて今回のケースですが、クレジットが表記されていない媒体Bの記事がすでに拡散されてしまっています。このことによる損害について、賠償してもらうことはできるのでしょうか。

「まず、精神的な苦痛を受けたことについて損害賠償を求めるということが考えられます。この主張は、裁判所に認められる可能性が十分にあるものであると思いますが、賠償金の金額は、数万円からどんなに高くても数十万円程度に留まるのではないかと思います」

では、クレジットがなかったことでの「機会損失による損害」はいかがでしょうか?

「こちらは難しいと思います。損害賠償が認められるためには、損害とその金額を立証しなければならないのですが、それが極めて難しいからです。B媒体の記事に名前が表示されていたならば、相当な確度で次の仕事がくるということが客観的にいえるのであれば別ですが、そのような立証をすることは難しいと思われます」

「損害」といってもその種類はさまざま。とはいえ、「氏名表示権」を掲げてクライアント相手に訴えを起こすのは、いささかやり過ぎ感も否めません……。こうした事態を防ぐにためには、掲載先の媒体に「転載の場合は著者クレジットも記載すること」と記しておいてもらえないか、働きかけることも手かも。まずは、署名にまつわる話はうやむやにせずに、契約時にしっかりと確認しておきましょう。

(末吉陽子+ノオト)

取材協力

畠山慎市さん

畠山・黒川法律事務所パートナー弁護士。民事、家事、刑事など幅広い分野の事件を扱う。駒澤大学大学院法曹養成研究科非常勤講師。東京弁護士会所属。「ガイドブック民事保全の実務」などの著書がある。
▼事務所ウェブサイト
http://hklo.jp/

この記事の筆者

末吉陽子

編集者・ライター。1985年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒。コラムやインタビュー記事の執筆を中心に活動。ジャンルは、社会問題から恋愛、住宅からガイドブックまで多岐にわたる。
▼公式サイト
http://yokosueyoshi.jimdo.com/

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