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2016/08/26 up

都市伝説じゃなかった! フリーライターの税務調査奮闘記【後編】

text by 佐々木正孝

税務調査時に作成hした資料の山

撮影=南澤悠佳/ノオト

税務調査なんて、自分には来ることはないだろう……高をくくっていたフリーライターの友清哲さんの思いこみを、税務署から入った1本の電話が暗転させた。

会計事務所と契約を結び、来たるべき税務調査の対策に乗り出したが、未整理の領収書の束、過去の売上の洗い出しに追われて青息吐息。手間、時間、諸費用などのコスト……あらゆる面で疲弊しつつ何とか帳簿整理を終えた友清さんは、いざ税務調査の日を待つことになった。

税務調査奮闘記、いよいよクライマックス! 調査官とはどんなバトルが繰り広げられたのか? 後編は調査本番の模様を中心にお届けしていこう。前編はコチラ

いざ調査当日! しかし、第1ラウンドは2時間で終わった

――売上、経費を精査して5年分の帳簿を作る。かなりボロボロになっての本番です。当日はどのように迎えましたか。やっぱり、税理士と綿密なシミュレーションを重ね、想定問答を準備したのでしょうか。

当日は朝10時、ちょっと前に会計事務所に向かいました。税務調査官は自宅に来たがったのですが、部屋に踏み込まれるのは嫌だったので、会計事務所の会議室を借りました。まあ、これも契約を結んでいたメリットですね。税務調査官が自宅やオフィスに来たがるのは、売上げや経費に関する資料をすぐに出してもらいたい、そんな理由のようですけど。

本番対策や想定問答などはしてないですね。5年分ではありますが、税理士の先生の指示通りの帳簿を完璧に作成できていたので。それが唯一にして最強の策だと思います。素直に、丁寧に帳簿を作った。ただそれだけです。

本番の準備という意味では……そうですね、前編でお話した修正申告になりますね。当初、税務署と設定していた税務調査のスケジュールは11月30日だったんですが、帳簿づくりの苦闘が長引き、12月の中旬までずれこんでしまったんですね。修正申告の作業も並行して行っているわけですが、こちらも遅れに遅れ……税務調査の前日、それもの夕方5時ぐらいに修正申告をするということになってしまいました。意図したわけではありませんが、挑発的な振る舞いだと思われてもしょうがない(笑)。

――調査官は、当日初めて修正申告について知ったわけですね。私が調査官なら、ちょっとイラっときそうですが?

まあ、そうですよね。少しイラッとしてましたね。調査官が把握している確定申告とは違う数字になっているわけですから。「こしゃくな……っ」と思われてもしょうがない。ただ、こちらとしては修正申告で200万円ほどの追加納税を申し出ていますし、態度としては殊勝なものですから。税務調査にあたって過去の帳簿を検めたところ、どうも多少の漏れがあったようです。申し訳ございません。ここにあらためて修正申告致します―こんなテイですね。

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税務調査官とフレンドリーな雰囲気……それってどういうこと?

――イラッとした調査官とピリピリ張りつめた空気。会議室は緊迫感に包まれた……?

ところが、そうでもなかったんですよ。税務調査官も通常は3名程度で来ることが多いらしいんですが、僕のときは1名のみ。しかも―修正申告の反応はさておき―おおむねフレンドリーだったんですよ。その空気感をもたらしてくれたのは、僕が心血を注いで作り上げたアレです。

――あ、5年分の帳簿!

そう! 紙の束がテーブルにズラリと並んでいる。これが最大の説得力を持ったんです。見た瞬間、「ここまでやっていただけたんですか」と、調査官がびっくりした顔を見せました。その反応を見て、これまでの苦労が報われたな、としみじみしましたねえ。いや、税理士の先生のアドバイス通りに愚直にやって良かった。そもそも、この先生と契約して良かった。想いがぐるぐると巡ります。

――例の「七・五・三」(調査対象になる期間が3年・5年・7年と税務調査のシリアス度に応じて変わるというもの)については? 何年が調査対象になりましたか。

5年は覚悟していたんですが、3年で済みました。これも帳簿の効果でしょうかね。4年前、5年前の帳簿は領収書もほとんど残ってなかったので、ラッキーだったといえるでしょう。しかも、帳簿こそ3年分調査されましたが、実際には前年1年分を精査し、それを3年分に按分(あんぶん)してくれるということになりました。これには、歴戦の税理士の先生も驚かれていましたね。

――しかし、心象がよくなったとはいえ、そこから丁々発止の大バトルでしょう。何時間ぐらい続いたんですか?

2時間ぐらいですかね。というのも、税務調査は1日で終わるものではないんです。初日は、僕が稼いでいる出版界の商慣習、ルールや業界事情などを説明する。そして、帳簿を税務署に預けることに同意する、という覚書のようなものを交わしただけです。あとは調査官が持って帰る資料が何かを確認し、つき合わせていく作業がメインになるので、僕は同席する必要がなかった。税理士の先生にお任せして、早々に離脱しました。もちろん、丁々発止の大バトルなんてありません(笑)。

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税務調査第2ラウンド! 勝負を分けた“おみやげ”

――何だか拍子抜けですね。では、みっちりと帳簿を精査したうえで乗り込んでくる2回目は? かなり突っ込まれたでしょう。

2回目の調査が行われたのは1月の中旬でした。みっちり1カ月は調べたことになりますね。だけど、時間的には1時間ぐらいだったかな? 帳簿1年分に絞ってじっくり見てこられたので、論点・争点がだいぶ絞り込まれていました。すごく話が早かった。何というんでしょうかね……変な話ですが、初回の顔合わせで税務調査官と信頼関係が築けたような気がするんですね。数字を見るといっても、やはり人と人とのやりとりです。愚直に作った帳簿を見て誠意を感じてもらえたら、スムーズに進むということはあるでしょう。

――ケンカ腰で、敵対しながら論陣を張る裁判のようなやり取りを想定していましたが。やりようによってはフレンドリーに進むこともあるんですね。

税理士の先生も「こんなに穏便に終わった調査は初めてだ」とおっしゃっていました。もちろん、綺麗ごとばかりじゃない。税務調査官もただでは帰りませんよ。

――突っ込むところは突っ込んで追徴課税はしてくる、と。よく言われる「おみやげ」を渡さないと帰ってくれない、というやつでしょうか。

ええ。前編で「税務調査官のプライオリティは経費よりも売上高にある」と言いましたが、修正申告でそちらを完璧にした以上、次はどうしても経費がチェック対象になります。「個人的な支出を経費として計上していないか?」という点はかなり厳しくチェックされましたね。

僕は仕事で付き合いのある編集者、業界関係者と毎日のように飲んでいます。それは何かしら仕事に関係した会合なんですが、どうしても自宅近辺の領収書が多くなってしまう。そこで、「○○界隈の飲食店の領収書ばかりですね。これ、家族と食事した代金を回してないですか?」と突っ込んできます。

しかし独身なので家族はいませんし、業界関係者が多い界隈だからここに住んでいる、だから必然的に領収書も多くなる。そんな言い分で押し通しましたが、結局は飲み代、いや―会議費、交際費は8割までしか認められませんでした。ほかにもいろいろと削られ……結果的には、この税務調査でトータルでは300万円ほど追徴課税されています。

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トータル500万円超を納め、フリーライターが得たものとは

――税務調査自体はスムーズに終わったとはいえ、修正申告で200万円は納め、税務調査でも300万円。会計事務所への報酬もありますから、痛すぎる出費としか思えませんが……。

正味な話、会計事務所の最終見解では「調査の対象期間が過去5年だったら720万円の追徴課税が発生する」といわれていました。それに比べれば、500万円という出費よりも、3年間で済んだことのありがたさが勝りますね。

おかげで財務的にはキレイになり、「今ならどんなローンの審査でも通るよ」と税理士の先生にお墨付きをいただいたので、住宅ローンの借り換えも視野に入れています。丼勘定の財務体質から脱却できたことはポジティブに捉えるべきでしょう。こうして話のネタにできているのも、フリーライターとしては大きなメリットと言えますしね(笑)。

(佐々木正孝+ノオト)

取材協力

友清 哲さん

1974年、神奈川県出身。フリーライター&編集者。1999年よりフリーランスで活動。雑誌、Webで精力的にインタビュー、執筆を行う。『日本クラフトビール紀行』(イースト新書Q)『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)など著作も多数。
▼私的業務日報
https://tomokiyo.wordpress.com/

この記事の筆者

佐々木正孝

ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。

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