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2016/08/26 up

都市伝説じゃなかった! フリーライターの税務調査奮闘記【前編】

text by 佐々木正孝

後ろ姿の男性

撮影=南澤悠佳/ノオト

税務調査の対象になるのは会社が圧倒的に多く、個人事業主がターゲットになるのは極めて稀だとされている。しかし、その確率はもちろんゼロではない。

フリーランスで活動するライターの友清哲さんは、そんなレアケースに直面した一人。2015年10月に税務署から一報を受け、2016年12月に調査官と相対するまでの2カ月間、帳簿作成など税務調査の対応に追われたという。

いざ税務調査に入られたら何をすべきなのか? 一体どんな打ち手が有効なのか? また、調査への準備はいかにして進めていったらいいのか? 友清さんへのインタビューを通し、個人事業主に舞い込む税務調査、その一部始終を明らかにしていこう。

自分に税務調査が来るわけない、その油断が……

――雑誌やWebへの執筆はもちろん、個人として単行本なども多く手がけられるなど、フリーライターとして活躍している友清さんですが、確定申告はこれまでどのように行っていましたか?

まさか自分には来ないだろう。そんな思いこみで、確定申告はかなりざっくりでしたね。僕は2015年でフリーランス17年目だったのですが、「17年もなかったんだから、税務調査なんて来ることはないだろう」と思っていたわけです(笑)。

――税務署から、まずはどのようにコンタクトがあったのでしょうか。

まずは電話ですね。2015年の10月29日、仕事用に公開しているケータイに、知らない番号から着信がありました。残された留守電には「○○税務署の△△と申します。またご連絡します」とだけ残されていました。所得税か何かの納付期限がうっかり過ぎてしまっていることはよくあるので、その催促かとも思ったのですが、いつもと口調が違うので嫌な予感がしました。折り返しかけてみると、「税務調査にお伺いしたい」とのこと。急いで、ネットで調べて見つけた会計事務所に「税務調査が入ることになったので、ぜひ対策をお願いしたい」と連絡を入れました。これが怒涛の日々の始まりでしたね。

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税理士という強力なパートナーがついた

――税務調査については寝耳に水だったでしょうし、確定申告もざっくり。ここは税務のプロに頼まないと勝負になりませんね。税理士を選んだ決め手は?

サイトの印象で、税務調査対応を得意にしているという打ち出し方が安心感を誘いました。あとは自宅に近かったことも大きなポイント。何度も足を運ぶであろうことを考えると、物理的な距離が近いのにこしたことはありません。

そして、税務署との交渉を完全代行してくれる点も魅力的でした。カウンセリングを受けて正式な依頼をしたときに、その場で税務署に電話し、「今後は当方が代行しますので連絡はこちらに」と宣言するんですよ。頼もしかったな~。プロの存在はやっぱり大きいですよ。税務は一人きりでやれるもんじゃない。これから後、僕は何度も痛感させられることになります(笑)。

面白かったのは、税理士の先生に「調査官の部所と名前は?」と尋ねられたこと。会計事務所には各税務署の名簿があるんですよ。そこで各調査官の肩書が分かる。役職が上の人が出てくるかどうかで、税務署の本気度が推察できるというわけです。僕の場合は、そこそこ上の役職の方だったので、税理士の先生も「それなりに本気と受け取れなくもない」と、微妙なラインでしたね。

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経費よりも売上!? 税務署のプライオリティを探る

――プロのアシストを得て、具体的に何から着手したのでしょうか。

依頼者がどれだけ危険かを判定するチェックシートがあるんです。過去の確定申告の内容や領収書の確保状況、つまり税務調査にどれだけ対抗できるかをチェックするものですね。僕は5段階のレベル4なので……わりとレッドゾーンに近かったようです……。

いろいろと出版界の商習慣や仕事の進め方などを話して対策を練った結果、まず指示を受けたのが「帳簿を作る」ことでした。一般的に、「経費をごまかしているとやばい」「ここまで経費として計上していいものか」という点が気になりますよね。しかし、税理士の先生がまず釘を刺したのは、「経費よりも売上の数字をきちんとすることが重要です」ということ。

もちろん、経費も軽視されるわけではありません。ただ、税務署のチェックでプライオリティが高いのは売上なのだそうです。たとえば、消費税です。ご存じの通り、売上高が年に1000万円を越えると、消費税の課税事業者になる。そこで995万円という額面で申告していたら、あからさまに怪しいわけじゃないですか。

――そんな友清さんの場合、売上高は?

決してごまかそうという意図はないんですよ。だけど、取引先から届く源泉徴収票を綿密にチェックしていたわけじゃないので、それなりにずさんでした。ただ、そこで数字に違いがあると税務調査官の心証は非常に良くない。そこで税理士の先生のアドバイスに従って、「実際の売上と申告を1円単位で合わせて修正申告をする」ことに。まず行ったのは、過去7年分の売上を調べること。結果として、毎年200~300万円ほどのズレが発覚しました。

――結構な額面ですね。しかし、過去7年間もさかのぼらなきゃいけないんですね。

税務調査では俗に「七・五・三」というそうですが、調査対象になる期間はケースによって異なります。ライトだと過去3年分を見られるだけで済みますが、マルサが出てくるような悪質なケースだと7年やられる。僕は前述の通りレベル4という危険水域ですから、過去5年分が調査対象になるだろうというのが、税理士の予想でした。そこで念のため、7年間の売上を精査した上で、5年分の売上、経費をベースに修正申告を進めることにしたのです。

とはいえ、売上高を調べるのは楽な作業ではありません。過去7年分の銀行口座の取引履歴を取り寄せ、取引先ごとの入金を1件ごとにチェックし、まとめていった。もちろん、洗い出し、記入の手間だけではありません。あまりに古いデータは支店に残っていないため、銀行側の手数料も合計で数万円に及びました。

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領収書の束との格闘が始まる―税務調査対策の無間地獄

――売上を調べるのも一苦労ですが、経費の方も大変そうです。

そうなんですよ。実際、一番大変だったのはこの作業。領収書の束を振り分け、帳簿に貼りつけて整理。これだけじゃない。クレジットカードの明細を取り寄せ、領収書が散逸した分の経費を抜き出す。固定資産税などの税金の支払い額、マンションのローンの支払い履歴を調べるために役所や銀行に足を運ぶ。帳簿の整理は一部バイトを雇って進めましたが、交際費と会議費の科目の振り分けなど、一筋縄ではいかないことも多いわけです。当然、僕自身への負荷は相当なものになる。

仕事の締め切りとも重なって、めちゃくちゃ大変でしたね。あまりの忙しさ、煩雑さに「今、交通事故に遭ったら楽になれるんだろうな……」なんて思ったぐらいですよ(笑)。ただ、この苦労が後々、僕を助けてくれることになります。

いざ税務調査、決戦は12月の中旬。調査官から最初の電話を受けてから、約2カ月弱ですか―。怒涛のような準備を終えて、何とか本番にたどりついたのです。

(佐々木正孝+ノオト)

後編はコチラ

取材協力

友清 哲さん

1974年、神奈川県出身。フリーライター&編集者。1999年よりフリーランスで活動。雑誌、Webで精力的にインタビュー、執筆を行う。『日本クラフトビール紀行』(イースト新書Q)『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)など著作も多数。
▼私的業務日報
https://tomokiyo.wordpress.com/

この記事の筆者

佐々木正孝

ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。

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